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第1章 日常 夢現(ゆめうつつ)
12話 伊佐凪竜一の日常 其の3 連合標準時刻:火の節 2日目 アメノトリフネ第5番艦
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「う、ウソでしょ?」
「ワシも信じ難いがな」
2人が驚きながら向けた視線の先には、取り囲み連携を仕掛ける昇格試験者を伊佐凪竜一が圧倒する光景。先陣を切った1人目の男が標準的な大人の背丈ほどもある大太刀を両手で勢いよく振り下ろした。その刃は仄かに白んでおり、刃にカグツチが行き渡っている様子が窺える。
カグツチは人の意志に触れるとその性質を爆発的に上昇させる。肉体に取り込めば身体能力は飛躍的に向上、相当以上の重量を持つ大太刀を棒切れの様に軽々と操る膂力を生み出し、武器に纏わせれば並大抵では刃こぼれしない程の硬度を付与する。その威力がどれ位かと言えば、地面に激突した刃が激しい衝撃と共に地面を抉る位には凄まじかった。
男は素早く次の攻撃に移る。回避されたと理解するや、間髪入れずに振り下ろした大太刀の刃を今度は真上に向けると力任せに一気に斬り上げた。回避は間に合わない。直撃する。その様子を見た大半がそう思っただろうが、しかし結果は斜め上。
彼はあろうことか出鱈目な速度の大太刀を素手、しかも片手で受け止めた。予測で来た者も驚いたし、予測できなかった者はもっと驚いた。特に先陣を切った男は目の前の光景が信じられずに目を丸くしたが、それは大きな隙を晒しているのと同じ。伊佐凪竜一は大太刀を握りしめたままその場から1回転すると、必死で離すまいともがく男諸共にソレを放り投げた。驚きながらも、しかし柄だけは固く握りしめていた男はその圧倒的な膂力に驚く間もなく投げ飛ばされ、数メートル先の壁に叩きつけられ気絶した。
直後、視認できない遠方から援護射撃が入った。凄まじい速度で飛来する弾丸は先ほどの大太刀と同じく白く輝いており、非常識な速度に加えた高度な追尾性でもって伊佐凪竜一を強襲すると、ソレに合わせるように残った試験者が一斉に追従した。銃弾の雨に加えた斬撃の連携。
しかしそれでも尚、伊佐凪竜一の優勢は崩れない。銃弾を斬り払い、回避しながら近づく試験者を1人ずつ殴り飛ばす。殴られた方は面白い様に吹っ飛び、壁に叩きつけられたり吹っ飛ばされた末に地面に激突、そして全員が仲良く意識を喪失する。
1人、2人と確実に堅実に数を減らし続けると、やがて銃弾の雨は止み、また彼と相対しようと思う試験者もいなくなった。
「じゃあ次は俺だァ!!」
威勢のいい声が市街地を模した戦場に響いた。タガミだ。伊佐凪竜一の実力に委縮しきったその他大勢を他所にこの男だけはやる気が漲っている。憧れていたスサノヲの座を失いたくないからであろうか、男は威勢よく飛び出すと持っていた大太刀を伊佐凪竜一目掛けて振り降ろした。
伊佐凪竜一とタガミの刀が激しく激突、ガキィンと凄まじい衝撃と音が木霊した。同時、試験開始以降で初めて彼の表情が曇った。この男、神魔戦役へと至る不穏な空気が漂う中にあって旗艦の神たるアマテラスオオカミが傍に置いただけありその実力は折り紙付きで、ともすればスサノヲにすら引けを取らない。双方共に鍔迫り合い状態のまま、互いを睨みつける状態に陥れば周囲も緊張する。
「勝ったらお前が飯奢れよォ!!」
が、全員の表情が一気に崩れた。この男は金銭面で相当に切羽詰まっているようであり、英雄であっても構わず奢らせにかかった。
「アンタねぇ、ちょっとは真面目にやんなさいよ。後、この後一緒にご飯行くのは私よ!!」
「タガミ、落ちれば飯どころではないぞ?」
よって、上司であるクシナダとスクナから茶々が入るのは必然。
「使うあてもないからいいけど、だけど素直に負けるつもりもないぞ!!」
一方、伊佐凪竜一は馬鹿正直に反応した。根が真面目であり、またタガミとはそれなりに付き合いがある事から色々と旗艦の常識やらを教えてもらっていた手前、その提案を無下には出来なかったという理由もあるだろう。が、ソレはソレ、コレはコレ。伊佐凪竜一がタガミの腹部目掛けて強烈な蹴りを見舞うと、タガミは後方に飛び退きながら横凪の一閃で反撃した。しかし両者の攻撃は空振り、2人は共に間一髪のところで攻撃を回避すると仕切りなおす為に一歩後退した。
勝負は互角。一見すればそう見えるが、しかしカグツチという未知の粒子を効率よく行使する為の訓練を弛まず行ってきたタガミと、半年前まで真面な戦闘経験のない伊佐凪竜一が互角というのは異常だ。その現実はカグツチを知っていればいるだけ心に影を落とす筈だが……
「ちぃっ。じゃあこいつはどうだッ。紫電!!」
タガミは相手を真っすぐに見据えるとそう叫んだ。直後、その周囲にカグツチが大量に集まり、程なくその全てが吸収されると身体を伝いながらやがて手から刀身へと流れ込んだ。ソレは今までの昇格試験者とは同じ現象に見えて全く違うのだが、その情報を持たない伊佐凪竜一はただただ驚きながらも、同時に何が起こるのかとタガミの出方を窺う。
先ほどタガミが叫んだ"紫電"という単語は、ごくありふれた普通の言葉の様に見えてその実で全く違う。ソレは言霊と呼ばれる戦闘技術(=戦技)の1つ。特殊な呼吸法から発する言葉が生む振動はカグツチというエネルギ―に特定の指向性を付与する。要は極限まで簡略化された魔導の詠唱であり、タガミが付与した力は単純な斬撃能力の強化。正確には言霊"紫電一閃"の半分だけ。ソレは単純な能力であるが、それ故に行使する人間の能力をダイレクトに反映する。
「じゃあ、行くぜェ!!」
そう叫びながら、直後にタガミは全員の視界から姿を消し、次の瞬間には伊佐凪竜一目掛けて大太刀を振り抜いた。が、その刃は伊佐凪竜一に届かなかった。
「ワシも信じ難いがな」
2人が驚きながら向けた視線の先には、取り囲み連携を仕掛ける昇格試験者を伊佐凪竜一が圧倒する光景。先陣を切った1人目の男が標準的な大人の背丈ほどもある大太刀を両手で勢いよく振り下ろした。その刃は仄かに白んでおり、刃にカグツチが行き渡っている様子が窺える。
カグツチは人の意志に触れるとその性質を爆発的に上昇させる。肉体に取り込めば身体能力は飛躍的に向上、相当以上の重量を持つ大太刀を棒切れの様に軽々と操る膂力を生み出し、武器に纏わせれば並大抵では刃こぼれしない程の硬度を付与する。その威力がどれ位かと言えば、地面に激突した刃が激しい衝撃と共に地面を抉る位には凄まじかった。
男は素早く次の攻撃に移る。回避されたと理解するや、間髪入れずに振り下ろした大太刀の刃を今度は真上に向けると力任せに一気に斬り上げた。回避は間に合わない。直撃する。その様子を見た大半がそう思っただろうが、しかし結果は斜め上。
彼はあろうことか出鱈目な速度の大太刀を素手、しかも片手で受け止めた。予測で来た者も驚いたし、予測できなかった者はもっと驚いた。特に先陣を切った男は目の前の光景が信じられずに目を丸くしたが、それは大きな隙を晒しているのと同じ。伊佐凪竜一は大太刀を握りしめたままその場から1回転すると、必死で離すまいともがく男諸共にソレを放り投げた。驚きながらも、しかし柄だけは固く握りしめていた男はその圧倒的な膂力に驚く間もなく投げ飛ばされ、数メートル先の壁に叩きつけられ気絶した。
直後、視認できない遠方から援護射撃が入った。凄まじい速度で飛来する弾丸は先ほどの大太刀と同じく白く輝いており、非常識な速度に加えた高度な追尾性でもって伊佐凪竜一を強襲すると、ソレに合わせるように残った試験者が一斉に追従した。銃弾の雨に加えた斬撃の連携。
しかしそれでも尚、伊佐凪竜一の優勢は崩れない。銃弾を斬り払い、回避しながら近づく試験者を1人ずつ殴り飛ばす。殴られた方は面白い様に吹っ飛び、壁に叩きつけられたり吹っ飛ばされた末に地面に激突、そして全員が仲良く意識を喪失する。
1人、2人と確実に堅実に数を減らし続けると、やがて銃弾の雨は止み、また彼と相対しようと思う試験者もいなくなった。
「じゃあ次は俺だァ!!」
威勢のいい声が市街地を模した戦場に響いた。タガミだ。伊佐凪竜一の実力に委縮しきったその他大勢を他所にこの男だけはやる気が漲っている。憧れていたスサノヲの座を失いたくないからであろうか、男は威勢よく飛び出すと持っていた大太刀を伊佐凪竜一目掛けて振り降ろした。
伊佐凪竜一とタガミの刀が激しく激突、ガキィンと凄まじい衝撃と音が木霊した。同時、試験開始以降で初めて彼の表情が曇った。この男、神魔戦役へと至る不穏な空気が漂う中にあって旗艦の神たるアマテラスオオカミが傍に置いただけありその実力は折り紙付きで、ともすればスサノヲにすら引けを取らない。双方共に鍔迫り合い状態のまま、互いを睨みつける状態に陥れば周囲も緊張する。
「勝ったらお前が飯奢れよォ!!」
が、全員の表情が一気に崩れた。この男は金銭面で相当に切羽詰まっているようであり、英雄であっても構わず奢らせにかかった。
「アンタねぇ、ちょっとは真面目にやんなさいよ。後、この後一緒にご飯行くのは私よ!!」
「タガミ、落ちれば飯どころではないぞ?」
よって、上司であるクシナダとスクナから茶々が入るのは必然。
「使うあてもないからいいけど、だけど素直に負けるつもりもないぞ!!」
一方、伊佐凪竜一は馬鹿正直に反応した。根が真面目であり、またタガミとはそれなりに付き合いがある事から色々と旗艦の常識やらを教えてもらっていた手前、その提案を無下には出来なかったという理由もあるだろう。が、ソレはソレ、コレはコレ。伊佐凪竜一がタガミの腹部目掛けて強烈な蹴りを見舞うと、タガミは後方に飛び退きながら横凪の一閃で反撃した。しかし両者の攻撃は空振り、2人は共に間一髪のところで攻撃を回避すると仕切りなおす為に一歩後退した。
勝負は互角。一見すればそう見えるが、しかしカグツチという未知の粒子を効率よく行使する為の訓練を弛まず行ってきたタガミと、半年前まで真面な戦闘経験のない伊佐凪竜一が互角というのは異常だ。その現実はカグツチを知っていればいるだけ心に影を落とす筈だが……
「ちぃっ。じゃあこいつはどうだッ。紫電!!」
タガミは相手を真っすぐに見据えるとそう叫んだ。直後、その周囲にカグツチが大量に集まり、程なくその全てが吸収されると身体を伝いながらやがて手から刀身へと流れ込んだ。ソレは今までの昇格試験者とは同じ現象に見えて全く違うのだが、その情報を持たない伊佐凪竜一はただただ驚きながらも、同時に何が起こるのかとタガミの出方を窺う。
先ほどタガミが叫んだ"紫電"という単語は、ごくありふれた普通の言葉の様に見えてその実で全く違う。ソレは言霊と呼ばれる戦闘技術(=戦技)の1つ。特殊な呼吸法から発する言葉が生む振動はカグツチというエネルギ―に特定の指向性を付与する。要は極限まで簡略化された魔導の詠唱であり、タガミが付与した力は単純な斬撃能力の強化。正確には言霊"紫電一閃"の半分だけ。ソレは単純な能力であるが、それ故に行使する人間の能力をダイレクトに反映する。
「じゃあ、行くぜェ!!」
そう叫びながら、直後にタガミは全員の視界から姿を消し、次の瞬間には伊佐凪竜一目掛けて大太刀を振り抜いた。が、その刃は伊佐凪竜一に届かなかった。
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