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第六章 【二つの世界】

6-217 地位

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王家がその地位を離れるということなど、冗談でも口にしてはいけなかった。



過去の王国の歴史の中においても、生まれてからこの世を全うするまでの間、王家のままその地位は保証されていた。
王選で敗れた後であっても、王宮の中で地位を与えられ、王国のためにその能力を発揮することは当たり前であり、徴収した税によってここまで育ててくれた国民への恩返しでもあった。
その裏で、国王の身に万が一がおこった場合のバックアップ要員としての役割や、王国内における”派閥”の残党を束ねておくという意味もあった。



そのため、王家の者がその地位を捨てるということは、東の王国では決してあってはならないことで、その考えを持つことさえも許されなかった。


――そのはずだった


結果的に東の王国が建国されてから、初めて王家のものが王家を離脱することを認められた者がいた。
その名も、前国王の兄である”エストリオ・エンテリア・ブランビート”、その人だった。


エストリオは、今でこそ諜報員として王国のために働いてはいるが、王家を出てそこに至るまでに様々な問題があった。


エストリオは、カメリアとアーテリアと共に前回の王選を挑んだ。
しかし、その途中でカメリアが不慮の事故に合い、エストリオは酷く後悔して最終的には王家を抜ける決意をする。
そのことを聞いた当時の王は、反対することもしなかった。
王選の中で同じ時間を共有した仲間を事故で失ってしまった悲しみは、国王自身でも想像に難しくはなかった。
今までの歴史の中で、王選の旅の中で仲間を失うということがなかった。
そのため、国王は最終的にエストリオに王家を離脱する意思を確認しそのようになった。


その際に、エストリオを応援する派閥から様々なことを言われたが、最終的に王家を離れたことにより、そのしがらみからも解放された――エストリオを利用する価値がなくなってしまったために。



そんなエストリオを助けたのは、エレーナの母であるアーテリアだった。
そして、エストリオはフリーマス家に婿入りし、フリーマス家の一員となった。


そこからさらに時間が経ち、エストリオの気持ちが落ち着いた頃、グレイネスは兄であるエストリオに王宮への協力を申し出る。
丁度その頃にアーテリアとの子を授かったことが判明し、自分の子のためにエストリオは表に出ないことを条件に協力することを約束したのだった。

とはいえ、エストリオがカメリアのことは忘れることはない。
エレーナもその事実を母親から聞いた時、自分の父がそのカメリアという女性のことを忘れられないのは自己以外にもあったのではないかと思うようになっていた。
自分や家族のことを愛してくれていることは間違いない……だが、いつも母親ではない女性のことを考える父親にエレーナの気持ちは複雑だった。


そのため、先ほどのステイビルの言葉は、安易に言って欲しくない言葉であるとエレーナは声を荒げてしまったのだ。





「……すまない、エレーナ。そんなつもりでは」


ステイビルは、エレーナの目に涙が溜まり流れ落ちる寸前の様子を見て、思わず言い訳をしようとした。
だが、エレーナに詫びることのできる本当の謝罪の言葉が出てこなかった。








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