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第六章 【二つの世界】
6-218 転回
しおりを挟む「すまなかった……エレーナ」
ステイビルは、少し落ち着きを取り戻したエレーナにお詫びする。
「いえ……こちらこそ、ステイビル様にあのような口をきいてしまい……申し訳ございませんでした」
エレーナの後ろでアルベルトも一緒にステイビルに対して頭を下げてお詫びの姿勢を取った。
「よせ。今回は迂闊に口にしてはいけないことを言ってしまった私の責任だ……許せ……ではなく、”申し訳ない”だな……すまぬ」
ステイビルのお詫びの言葉に対し、これ以上長引かせるわけにはいかないとエレーナもアルベルトも承諾の意を示しこれ以上の言葉のやり取りを行わなかった。
「どうもだめだな……やっぱりあの頃が自分にとって楽しかったのだろう。王選とは言え、自由に行動し、仲間たちと一緒に冒険をする……あぁ、いろんなことがあったな。きっと、エレーナやハルナたちが仲間、いや本当の家族のように思えたのだ。だからこそ、この先ほどのような愚痴をこぼしてしまったのだ……言い訳にしかならないが」
そう告げるステイビルの笑顔は、今の状況や自分自身の地位が煩わしく思え、遠くない日々の出来事を懐かしむ寂しい表情だった。
「ステイビル様……」
エレーナはステイビルを気遣い、慰めの言葉を掛けようとした。
しかし、エレーナが――地位の差を抜きにして――どんな言葉を掛けても、ステイビルの心を癒すことはできないと判断した。
いま、ステイビルを元気づけることができる存在は、いまここにはいないハルナだけだと感じた。
だが、出兵直前のハルナの状況を知ったい今、迂闊にその名をステイビルの前で口にすることはできない。
そのことによって、どういう問題が起こるかわからないし、今のステイビルの唯一の心の支えであるため、それが折れてしまった場合、どのようなことになるのか考えたくもなかった。
「ところで話は変わるんだが……」
ステイビルからの話しの切り出だしに、エレーナは表情を崩さずに警戒をする。
今考えていたことを持ち出されたら、どのように返すのが正解かを用意しなければならない。
そこまでで言葉を止めているステイビルに対し、エレーナはまず対応した。
「……はい、なんでしょうか?」
「……?いや、そこまで怖い話ではないのだが。エレーナとアルベルトは、もうそろそろじゃないのか?」
「え?……あ、はい!」
ステイビルは自分たちのことを聞いてくれたのだと理解し、エレーナは自分たちの今の状況を話した。
「ステイビル様とハルナ様の式が終ってから、籍を一緒にしようと考えております」
「おぉ、そうか!それはめでたいな?……であれば、一緒に式を挙げるか?」
「「そ、それは!?」」
「ははは……わかっているよ。国の儀式と一緒など、退屈な式にあるであろうからな。その時が決まったらぜひ知らせてくれ、私”たち”からもお祝いを送ることにしよう」
”私たち”……その言葉がエレーナの胸に突き刺さるが、ここは悟られないように笑顔でステイビルに感謝の言葉を返した。
――そして翌日
朝食をとっていたステイビルの部屋に、急ぎの伝達が届く。
「ステイビル様!グラキアラムからの使者が王への面会を希望しております!」
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