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第六章 【二つの世界】

6-390 ヴァスティーユの覚悟

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ヴァスティーユの足は徐々に侵食され、既に足首を超えたあたりまでその存在はない。
どうやら先ほど盾の創造者が放った光は、触れた個所から消されていくようだった。

焦る気持ちと、これからヴァスティーユに起こるであろう状況を考えると、サヤ自身も決断が鈍ってしまう。

サヤもこの世界に来てから、一人でいる期間があったことを思い出す。
しかし、その時は自由に行動ができ、何かを制限されることはなかった。

これからヴァスティーユを送り込もうとしている場所はまたあの特殊な空間であり、しかもその中の”時間”を止めてしまおうとしていた。
サヤやモイスが創り上げられる空間は、思い通りのことが発動者の意思によって環境を構築することができる。
ただ、モイスについてはそこまでの能力だった。

サヤは、その空間内の時間を操作できないかを研究しており、完全に止めることは出来ないが遅らせることは可能になっていた。
徐々に侵食していくヴァスティーユの身体をこの方法で遅らせることで、ヴァスティーユをこの世界から消してしまわないようにできないかとサヤ考えていた。いや……考える余裕などなく、それ以外にサヤ自身にはヴァスティーユを救える方法が浮かばなかった

「サヤ様……」


今までに見たことのない、自分に対しての真剣なまなざしに応えるべく、ヴァスティーユは悲しみの感情を消し涙を拭ってサヤに視線を返す。


「サヤ様……お願いします。どんなことがあっても、耐えてみせます。サヤ様が私のために考えてくださった最善の策……信じます」


「そう……か。”ありがとう”、ヴァスティーユ」


サヤは今までにないほど、真摯な気持ちで感謝の言葉をヴァスティーユに伝える。
それ真剣さを感じ取ったヴァスティーユも、サヤに対して感謝の気持ちを伝えた。

サヤは、ポケットに入れた水晶のかけらを一つを掴んだ。
今までの実験の結果、空間の中に閉じ込めるにはこの世界にある素材が必要となる。
普通に閉じ込めるだけでいいのであれば、そこらにある普通の小石で問題が無かった。
空間内の時間の流れを遅くするには、素材を選ぶ必要があった。これまで試してきた中で、唯一時間を遅らせることができた素材はこの水晶だけだった。


「おっと……」


サヤはポケットから水晶を外に出そうとしかけたが、この空間に保管した”器”の存在を知られるのはマズいとその行動を止める。今まで試したことで、この物質の中に閉じ込めた存在は、その物質が破壊されると、その中に収めたものは消滅してしまっていた。
その事実に気付いてから、サヤは閉じ込めるべき物質を誰にも分らせないようにするようにしていた。


「それじゃ……いいか?」



サヤは再びヴァスティーユの姿を見る、既に片脚は膝のところまで消えていた。
それによる痛みなどはないのか、絶望の感情は残っているが、苦痛の表情はない。


「はい……お願いします」


横で心配そうに見つめる、ヴェスティーユとローディアの視線を感じながら、サヤはいつもの通りにヴァスティーユを別な空間へと移動させた。


そして、サヤは立ち上がり盾の創造者へと向き合った。




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