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本編
8.上がって下がるのは慣れてる※
しおりを挟む朝食を食べ終えた後は、街をぶらぶら歩いたりお菓子を食べ歩いたりして昼まで過ごした。
昼食は、湊さんが俺の食べたいものを優先してくれて中華料理屋に行くことに。炒飯と麻婆豆腐が大好物の俺、大満足である。
「うまかった…」
「それはよかった」
ふふっと爽やかに笑いながら頭をぽんぽん撫でてくる湊さん。身長差がかなりあるからか、ちょうどいい位置に俺の頭があるらしい。だからつい撫でたくなるのだとか。
「満腹ー」と呟きながら腹を手のひらで叩く。湊さんはそんな俺に微笑みながらチラリと腕時計を確認した。
彼は以前まで腕時計を持っていなかったのだが、ある時俺が言った「一緒に過ごしてる時相手がスマホ見てたら嫌な気分になるよねー」という何となしの発言を聞いて購入を決意したらしい。
適当な発言だったから、真に受けないでと慌てて宥めたことを思い出し苦笑する。だって本当に適当発言だったのだ、俺だって湊さんと二人きりの時もスマホくらい見るし。
何はともあれ彼女さんのために決断したのだろうが、それにしても"時間を確認する"という一瞬の動きの為だけに腕時計を買う決意が出来る湊さんに心が温まった。
恋人に対して気遣いを欠かさない姿にまた惚れ直す。もう直すところが無いくらい惚れ切っているけど。
腕時計を一秒ほどの短い時間で確認した湊さんは、俺に視線を移して微笑んだ。
「まだ夜まで時間あるし、お店見てみる?この辺、最近新しい雑貨屋増えてるみたいだよ」
見たい!と即答する俺に、にこにこ笑って頷く湊さん。
優しい…好き…と惚けていると、さり気なく大きな手が腰を抱いてきた。その手にピクッと反応して、反射的にその手から身を捩って体を離す。
俺の無言の拒否に湊さんは一瞬何か言いたげに眉を下げたが、結局何も言わずに手を戻して何事も無かったかのように話し始めた。
それに俺も合わせて答えながら、内心土下座する勢いで湊さんに謝り倒す。
これも湊さんの為なのだ。
いくら人が多くて知り合いに会いにくいからと行って、浮気相手と過ごす時はこういう一瞬の油断が命取りになる。
ソースは俺。湊さんと本命さんのキス現場を目撃した時の経験があるから。
あの時も、きっと湊さんは俺が近くに来るなんて思ってもいなかったのだろう。ましてやあそこは繁華街だし時間は夜だしで尚更。
予想外って意外と頻繁に起こる。今回のデートだって、本当は少しの油断も出来ないのだ。
一緒に出掛けて歩いてるだけなら男友達ってことで誤魔化せるが、腰を抱いたり手を繋いだりしてしまうと誤魔化しが効きにくくなってしまう。
公園にある時計塔の辺りで立ち止まり、何処のお店に行こうかと話しながら雑貨屋を検索する。
湊さんの言う通り、この辺は新しい店の数が多いようだ。意外とそういうのに詳しい俺でも、聞き馴染みのない名前の店ばかりが検索にヒットする。
眉を寄せて悩んでいると、湊さんが「歩きながら見てみようか」と笑顔で提案してきた。確かにその方が時間の無駄にもならないしいいかも。
デートにあまり慣れていないから、こういう時の時間の使い方が分からなくて恥ずかしい…湊さんは慣れてるだろうし、困った時は彼に任せよう。
「…?」
早速歩き出そうとした瞬間、ポケットに入れてあったスマホが微かに振動した。
湊さんが視線を逸らした一瞬を見計らってスマホを手に取る。チラリと覗いて、割と浮かんでいた嫌な予感が的中したことに小さく溜め息を吐いた。
メッセージの差出人は、尼崎。
アプリを開かなくても、ロック画面に表示された通知だけで用件を察する。初めの一文は短くて、それでいてとても簡潔だったから。
「湊さん、俺ちょっとトイレ行ってきていい?ついでに父親から留守電来てたから掛け直したくて…」
「ん?もちろんいいよ。俺も行こうか?何かあったら危ないし…」
「大丈夫!すぐ来るから少しだけ待ってて」
来てくれたら心強いが、それは絶対に叶わない…というか叶えちゃいけない。
来られたら困るので、しっかり大丈夫だよとアピールしてそそくさその場から離れた。背後から湊さんの強い視線を感じたが、気にしないように気を逸らして。
この公園にはトイレが二つあるのだが、そのうち一つはもう片方の利用者数が多い方と違って人気が少なく中もかなり暗い。
尼崎が呼び出したのは案の定このトイレで、近付くにつれ人通りが少なくなり、入り口に着いた時には辺りに人の気配は感じなくなった。
唯一、中にだけは一人の気配を感じる。
一度すぅっと深呼吸して、ホーム画面に設定していた湊さんの写真を見て緊張を解した。補充完了、これで何があっても耐えられる。
ゆっくり中に入ると、清掃が疎かにされていることが丸分かりな暗さと廃れた内装が出迎えた。
一番奥の個室が開いて、出てきたのは俺を視認してニヤリと笑った尼崎。「来いよ」と一言声を掛けられ、特に抵抗もすることなく近寄った。下手に拒否すれば事が長引くだけだ。
「…なに。尼崎も見てたんだろ、俺が今デート中なの」
「だからだよ。本当に惚れてんだな、あんな脅し一つでノコノコ来るとかよ?」
「…俺にとっては、あの人に知られるのが一番の恐怖だから」
恐怖…感情の起伏が少ない俺が恐怖する機会は限りなくゼロに近い。ただ、そんな俺でも湊さんが関わると余裕が失せる。恐怖も感じやすくなる。
尼崎が俺に送ってきたメッセージは、簡潔だけど的確に俺の恐怖を突いてくるものだった。
『従わなければ隣の男にバラす』と書かれた最後の文章を読んだ途端覚悟を決めた。俺と湊さんがそういう関係だって、仕草を見せてなくても分かる奴には分かるんだな。
「それで、要件は何だよ。あんまり遅れると怪しまれる」
「別に怪しまれようがどうでも良いんだけどな。まぁ俺は約束を守る男だから、お前の彼氏にバレねぇように短く済ませてやるよ」
「…どうも」
傲慢な笑みにピクッと体が震えた。腕に爪を立てて苛立ちを抑えると、尼崎は見透かしたような目で俺を見下ろし嘲笑った。
奥の個室に二人で入って鍵を閉めると、尼崎は扉に背を向けておもむろにズボンのジッパーに手を掛けた。
その動きで目的を察してしゃがみ込む。躊躇いなく性器を晒け出すと、尼崎は片手でそれを支えるように持ち、俺の方に向けてきた。
実は義父や相模たちの中で、尼崎のモノが一番長くて太い。フェラをするには大き過ぎて疲れるため、俺はこいつのフェラだけはいつまで経っても慣れなかった。
だがまぁそんな我儘も言ってられないので、大人しく手を添え舌を出す。
先端に舌を這わせて軽く舐め上げると、直ぐにそれは熱と固さを増してきた。唇に挟むように咥え込んだ俺の髪を掴んで、喉奥にゆっくりと全体を突っ込んでくる。
顔を歪める俺を見下ろし、尼崎はにやりと口角を上げてゆるゆる腰を動かし始めた。
「にしてもお前、やっぱ男が好きだったか。いつも俺のちんこケツで咥えて悦んでるもんなぁ?」
「ぅん…ッ」
ガツガツと勢いを増していく抽挿に、思わず喘ぐような悲鳴を上げてしまう。喉奥まで容赦無く犯されて、あまりの息苦しさに涙が滲んだ。
ガクガクと揺れる俺の頭を強く掴んで、尼崎はおかしそうに「ははっ!!」と笑う。
「そうか嬉しいか!もっと悦べよ雲雀ィ…お前の可愛い顔、俺ので全部汚してやるからなっ」
言いながら、一度性器をずろっと引き抜き自分の手で擦り始める。それをボーッと見つめていると、尼崎は突然低く呻いてドピュッと精液を放った。
いつもより量は少なかったが、それでも長大なペニスに見合うそれなりの量だ。服にかからないよう、顔で受け止めた精液を慌てて手で拭い取る。
頬や顎を伝って落ちそうになったものは、両手で器を作って受け止めた。トイレに流してしまおうと振り向きかけた俺の髪を、尼崎がガシッと強引に鷲掴む。
ぶちっと数本髪が抜けた感覚。突然の痛みに力が抜けて座り込むと、しゃがみ込んだ尼崎が顔を覗き込んで命令してきた。
「飲めよ」
「え…」
「勿体ねぇだろ?おら、さっさと飲め」
立ち上がった尼崎に軽く腹を蹴られ、小さく嗚咽を吐きながら精液を舐め取る。両手に溜まっていたものは一気に飲み干した。
「口ん中見せろ」と命令する尼崎に、未だ苦い味が残る口内を晒す。中のものが全て胃に行ったことを確認して、尼崎は満足気に頷いた。
「まぁ、今日はこの辺にしといてやる。精々彼氏にバレないようにな?雲雀」
「………。」
ジッパーを上げて衣服を正すと、地面に座り込む俺を放置したまま奴はトイレを出ていった。
見下ろすと靴やズボンには水や泥がついていて、結局汚してしまったなと苦笑を零す。何とか上着だけは無事だったので安心した。この程度の汚れ具合なら何とでも誤魔化せる。
ただ、どうしても直ぐに戻る気にはなれなくて。湊さんを待たせてしまう罪悪感に苛まれながらも膝を抱えてしゃがみ込んだ。
俯かせた顔を埋めると、丸まった体が少しだけ温まって力が抜ける。ほっと息を吐いて目を閉じた。
だが、残念なことに休まる暇は無かった。突如スマホが着信音を鳴らしたかと思うと、外から忙しない足音が近付いてくる。
チラリと画面を見ると、表示された名前が『湊さん』だということに目を見開く。
まさかと思い息を詰めた時、個室の外から焦ったような声が掛けられた。
「雲雀っ、いる!?大丈夫!?」
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