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12 資料室
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誠実な彼は、王より自分に任された仕事を、忠実にこなそうと頑張っていた。けれど、その過程で捕らえた誰かにあんなことをされるまでに恨まれていたとしたら……なんて、切ないものだ。
誰だって、全ての場面で善人には成り得ないけど。
広い資料室から、アルベールはもしかしたらこれではないかという捜査資料を素早く選び出し、私はその資料を見て関係者などの名前を洗い出して書き出す。
朝早くから調査を始めて、そろそろ昼近くになったところで、資料室の中で聞き覚えのある低い声がした。
「……アルベール? こんなところで、一体何を……レティシア。なんで、君がここに居るんだ?」
「ジーク!」
居るとは思っていなかった人を見つけ戸惑った様子の彼を見て、私は思わずいつものように嬉しくなって名前を呼んだ。
ジークの持つ役目上、流石にずっと休んでもいられなくなったのか。彼は今日は、王都騎士団に出勤したようだった。
「お疲れ。ジーク。僕もレティシアから、話を聞いている。僕たち二人は、君のために色々と、画策しているところ」
「え……? ちょっと、待て……なんで、二人ともその指輪……」
ジークは目敏く、私とアルベールの手にあるロナン家に伝わる魔除けの指輪を目に留めたようだった。
アルベールはどうなのかは、興味が無いから知らないけど。ともかく、私に関しては指輪を嵌めていたのを見たのは、これで最初だったと思うから目立ったのかもしれない。
だって、私は人生で最初に嵌める指輪は、ジークとお揃いの結婚指輪だと決めていた。けど、生きるか死ぬかの瀬戸際で、そんな小さなことに拘っている場合でもなかった。
「ああ……これは」
アルベールがなんなくこの魔除けの指輪について説明しようとしたところに、ジークは言葉を被せるようにして言った。
「やっぱり、またか……また、繰り返すのか」
暗い表情になったジークは一人納得したように自嘲して、資料室を出て去って行ってしまった。取り残された私とアルベールは、呆気に取られてしまった。
私たち二人だって仕方なく、お揃いの指輪をしているだけで!? しかも、詳しい説明をしようとしたのに、それだって聞かないまま!?
「あいつ……本当に、おかしくなってるな。これまでの事情を知れば、無理もないけど……レティシア。今はジークを追いかけなよ。ここは僕が片付けておくから」
「……ごめんなさい。ありがとう! アルベール!」
私は取る物もとりあえず、ジークを追い掛けた。私は本当に彼が好きなので、どんなに人波に埋もれても離れた位置の後ろ姿でも、白黒に色が付いたように彼だとわかってしまう。
走って走って追いかけて、ジークの腕を掴んだ。
「もうっ! 聞いて! 違うの。私が、ジークを助けるの! 絶対、このままで絶望したままで終わるなんて、させない。絶対に、ジークを酷い目に遭わせようと企てた犯人を、捕まえるんだから!」
魔除のための指輪で、完全に勘違いしてしまって暗い表情だったジークは、私の言葉に酷く驚いた様子だった。
「え……レティシア。一体、何を?」
「私もアルベールも、絶対にジークを裏切らない。お願いだから、私と彼の話を聞いて。何度も何度も裏切った私にだって、もしかしたら、何か理由があったのかもしれないって、わかって。私はジークが大好きだから、他の人に心を移すなんて、ありえないわ……絶対に、考えられないのよ」
「だが」
誰だって、全ての場面で善人には成り得ないけど。
広い資料室から、アルベールはもしかしたらこれではないかという捜査資料を素早く選び出し、私はその資料を見て関係者などの名前を洗い出して書き出す。
朝早くから調査を始めて、そろそろ昼近くになったところで、資料室の中で聞き覚えのある低い声がした。
「……アルベール? こんなところで、一体何を……レティシア。なんで、君がここに居るんだ?」
「ジーク!」
居るとは思っていなかった人を見つけ戸惑った様子の彼を見て、私は思わずいつものように嬉しくなって名前を呼んだ。
ジークの持つ役目上、流石にずっと休んでもいられなくなったのか。彼は今日は、王都騎士団に出勤したようだった。
「お疲れ。ジーク。僕もレティシアから、話を聞いている。僕たち二人は、君のために色々と、画策しているところ」
「え……? ちょっと、待て……なんで、二人ともその指輪……」
ジークは目敏く、私とアルベールの手にあるロナン家に伝わる魔除けの指輪を目に留めたようだった。
アルベールはどうなのかは、興味が無いから知らないけど。ともかく、私に関しては指輪を嵌めていたのを見たのは、これで最初だったと思うから目立ったのかもしれない。
だって、私は人生で最初に嵌める指輪は、ジークとお揃いの結婚指輪だと決めていた。けど、生きるか死ぬかの瀬戸際で、そんな小さなことに拘っている場合でもなかった。
「ああ……これは」
アルベールがなんなくこの魔除けの指輪について説明しようとしたところに、ジークは言葉を被せるようにして言った。
「やっぱり、またか……また、繰り返すのか」
暗い表情になったジークは一人納得したように自嘲して、資料室を出て去って行ってしまった。取り残された私とアルベールは、呆気に取られてしまった。
私たち二人だって仕方なく、お揃いの指輪をしているだけで!? しかも、詳しい説明をしようとしたのに、それだって聞かないまま!?
「あいつ……本当に、おかしくなってるな。これまでの事情を知れば、無理もないけど……レティシア。今はジークを追いかけなよ。ここは僕が片付けておくから」
「……ごめんなさい。ありがとう! アルベール!」
私は取る物もとりあえず、ジークを追い掛けた。私は本当に彼が好きなので、どんなに人波に埋もれても離れた位置の後ろ姿でも、白黒に色が付いたように彼だとわかってしまう。
走って走って追いかけて、ジークの腕を掴んだ。
「もうっ! 聞いて! 違うの。私が、ジークを助けるの! 絶対、このままで絶望したままで終わるなんて、させない。絶対に、ジークを酷い目に遭わせようと企てた犯人を、捕まえるんだから!」
魔除のための指輪で、完全に勘違いしてしまって暗い表情だったジークは、私の言葉に酷く驚いた様子だった。
「え……レティシア。一体、何を?」
「私もアルベールも、絶対にジークを裏切らない。お願いだから、私と彼の話を聞いて。何度も何度も裏切った私にだって、もしかしたら、何か理由があったのかもしれないって、わかって。私はジークが大好きだから、他の人に心を移すなんて、ありえないわ……絶対に、考えられないのよ」
「だが」
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