『世紀末症候群‐序章 第1部』
猛暑続きの、とある夏の午後9時過ぎ、機械商社に勤める前嶋秀一の住居を若いプログラマーの吉嵜杏子が訪れる。大きめのバッグを片手に佇む、顔色の蒼褪めた杏子を目にした秀一は事態の深刻さを察知し、詮索することなくとにかく居間に通す。住み始めて一週間そこそこにしかならないアパートメントで、杏子は名状し難い恐怖に遭遇、逃げ出してきたとのことだった。かくして、杏子は秀一と同居することとなり、翌日二人は引越し準備のために杏子の住んでいたアパートメントに赴く。秀一は浴室で不気味な幻覚を味わい、束の間ではあるが全身が硬直してしまう。彼は、杏子の住んでいたアパートメントが異形の棲み家に違いないとの確信を深める。ある日、秀一は行方不明になった杏子を探して近くの森へと分け入り、かつて杏子が住んでいたアパートメントの原型と思しい敷地内で眠りに就いている杏子を見つける。森には何か得体の知れない危険が潜んでいるから、とにかく出なければ。しかし、途中で方角を誤り、疲労困憊した二人は暫し微睡む。目覚めた秀一は、またしても杏子のいないのに気づく。周辺を見渡した秀一は、付近の樹木の枝に宙ぶらりんになって無残にも息絶えている杏子を発見する。遺体と対面した秀一は、何者かが棲み家としているらしい杏子の住んでいたアパートメントへと復讐のために急行、今は建物が跡形もなく消えたと思われる地面にガソリンを大量に振り撒いて火を放つ。愛車でその場から脱出して間もなく、大音響と共に爆発炎上したのを知って秀一は復讐の成功に浸る。だが、秀一がこれまでに何度か見かけた謎の女が車を運転して忽然と出現、両者間に猛烈な追跡、逃走劇が始まる。追跡、逃走は長時間におよび、夜が深まる中、前を走る謎めいた女は車ごと眼前から消え、秀一はガードレールを突き破って燃える車と共に落下し、絶命する。
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