記憶探し

★エリィ★

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津島さんとはあれから会うことはなかった。スタッフの説明で大学4年ということだったので忙しいのだろう。それにここのバイトも辞めた人だし。
でも、不安は消えない。

(次にあの人に会ったら、僕は…)

そんな不安な中で、アルバイト先の数人で飲みに行った。僕は、まだ記憶が戻ってなくて本調子ではないので断ろうと思ったのだが、女性スタッフに押し切られた。女性は押しが強いなぁ。まぁ、気分転換にいいかな。軽い気持ちで飲みに参加した。一応、大和にも、これからアルバイト仲間と飲みに行くから、とラインしておいたから心配かけることはないはず。

飲んで数十分後に大和から返事が来て、どの店で飲んでいるか?の連絡がきたので、一応、店の名前を伝えておいた。
この間の件で、過保護が悪化している気がする。今日も帰りにラインするように言われたし、大学でも一人にならないように、友人といないときは大和がいてくれてるし、バイトもシフトを全部、把握されてる。普通だったら、嫌なんだろうけど、そんなに嫌と思わないんだよね、なんでだろう。心配かけすぎてるから、それで安心するならなんでも伝えたいとは思う。

バイト仲間で談笑していると、ふいにそのうちの一人が、「急遽、これから一人参加しまーす」と少し酔っぱらっているのかテンション高めに宣言していた。僕は、それを聞いても(へぇ、誰だろう)ぐらいにしか思っていなかった。
その数分後、その人が来たようで、宣言した人が席を立ってその人を迎えに行ったようだ。

「じゃーん、津島さん呼んじゃった。今日、誘ったら、暇だって言っていたから」
「どうも。見たことない人もいるけど、夏までバイトしていた津島です」

二人とも皆に向かって話しながら、席についた。
僕は、信じられなくて目を見開いて固まってしまった。幸い誰にも気づかれなかったようだが。
津島さんは、僕とは少し遠い席に座っていたので、飲みの最中は、特に会話することがなかった。お開きにしようか、という話になった時に、大和にすばやく『これから帰るから』とラインをして、即座に『了解』と返事がきた。

会計が終わり店から出たけれど、皆でぐだぐだと話をしていたら、仲間のうちの一人がこれから二件目に行く人ー?と声をかけて数人がそれに行くようだった。僕は、帰るつもりだったので「ごめんね、僕は帰るよ」と断ったら、津島さんも「俺も途中からきたけれど、今日はこれで帰るわ、悠馬、同じ方向だから一緒に帰ろうぜ」と断っていた。
僕は津島さんと二人きりになりたくなかったけれど、断る理由が見つからなくて、「はい」というしかできなかった。


二人で帰宅途中、この間言われたこともあって、何か言われるかもと身構えながら、一緒に歩いていたけれど、特に何もなく安心していた。少し人気がなくなった通りに入った時に腕を引かれて目についた路地に連れていかれた。
「痛い。やめてください」
訴えても離してくれない。そのまま壁に背中を押し付けられた。ブルブル恐怖で震えていると「記憶なくしたんじゃねぇの。実は覚えてるんじゃねぇ?悠馬が悪いんだぜ、あの時逃げたから」と捕食者の目で僕を見てきた。ゆっくり津島さんの顔が近づいてくる。僕は抵抗しようとしたけれど、両手を津島さんの手で頭の上で拘束されていて、逃げることができない。必死に顔を背けようとしたけれど、使っていない片手で顎を掴まれて、津島さんの方に向かせられた。抵抗むなしくキスされてしまった。嫌で、涙が浮かんできて「やだ、どいて、やめて」と言っているのに、キスでふさがれて、反論をふさがれてしまった。反論するために口を開いたときに津島さんの舌が僕の口に入ってきた。気持ち悪いのにでてくるのは「ふっ、ん、っ…」という鼻にかかった声しかでてこない。

(やだ。気持ち悪い。怖い。頭痛い。助けて、大和)

目をギュッとつぶり耐えていたら、僕を拘束する腕がゆるまったというかなくなった気がした。うっすらと目を開けたら、目の前にいたはずの津島さんがその場でうずくまってお腹を押さえていた。

(えっ?何が起きたの?)

近くに人の気配があり、そっちを見ると息を乱した大和がいた。僕と目が会うとはじかれたように僕の方に向かって歩いてきてそのまま抱き締められた。
「悠馬、ごめん、遅くなった。」
大和の体温を感じて、恐怖で震えていた体から力が抜けたが、頭痛がひどくなってきた。張りつめていた糸が切れたのだろう。大和に「ありが…とう」と伝えたのを最後に意識を失った。
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