奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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8.久しぶりに戻りました。

8-1

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「あずき先輩。父に呼ばれたので、この休日は実家の方に行ってきます。」

父親から送られてきたメールを消しながら、あずき先輩に言う。

「ふーん。分かった。」

私の申し出に特に言及することなく、あずき先輩は本を読みながら適当に返事をする。もしかして、今「出て行きます」って言っても許されるのでは?
あいにくそんな時間が無いから言わないけど。

迎えの車が待ち合わせ場所に来るまでに準備して出なきゃいけない。少しでも遅れたら、あの父親はすぐ文句を言ってくるから。
道路状況で遅れるのは、私のせいじゃないのにねぇ。
頭が固いから仕方ない。

必要最低限の物だけ鞄に詰めていると、先輩が「今から?」と横目で聞いてきた。

「そうですよ。バタバタしちゃってすみません。」

時間を確認しながら答える。17時って言ってたよね……。メール完全に消しちゃったから確認のしようがないけど。

鞄を担いで、先輩に「また週明けに」と告げて玄関を出る。
マンションを出て、大通りから公園脇の駐車場へ。マンション前に迎えに来てもらうなんて馬鹿なことできないから、ここを待ち合わせ場所にした。

どうせ私がどこ住んでるかなんて知らないわけだし。
数分待っていると、艶やかな黒のセダンが私の前に止まる。
運転席から降りてきたうちの使用人が、恭しく頭を下げた。

「お待たせ致しました。お変わりないようでご安心致しました。」
「……そうね。」

全然、変わったのにね。

車の窓から流れる街並みを目に写していた。
秋も半ばになれば、この時間はとっくに日が沈んで暗くなる。
少し前までまだ明るかったのに。
憂鬱になるのはきっとそのせいだけじゃないけれど。

ため息をつきたいのを我慢しながら、目を閉じて呼ばれた理由を考える。

初雪さんの会談には茉白が行ってるはずだから違う。
他に何かあったっけ。何か、あの父親がわざわざ私を呼ばなきゃならないようなこと。
毎月の会合以外なら、氷榁絡みの何かは茉白に行かせてるのにわざわざ私を呼ばなきゃならない理由。

そういえばそろそろ茉白の誕生日だ。
ふと思い出してそれだと気づく。あとひと月ないくらい。雪の降る冬に産まれた彼女を祝う準備のために、わざわざ私を呼んだのか。

車の扉が開かれ、お礼を言いながら私は久しぶりに見る実家に入る。
大きな門とか薔薇のアーチとか、玄関までの道から見える庭に噴水とか、いかにも見栄を張っているようで私は好きじゃない。
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