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89:青島高等学校七不思議 その二 真実の鏡

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「人のこと置いてどこにいったのよ、あの二人……ううっ……どうしよう……音楽室からは出られたけど、一人だと心細い……音楽室って三階にあるし、ここから一人で帰るの、怖いよぉ」
「ほのかさ~ん!」
「きゃああああああああああ!」
「きゃああああああああああ!」
「さ、サッキー! サッキーじゃん!」
「は、はい、そうですけど……」
「なんで! なんでここにサッキーがいるの! はっ! サッキーがいるってことは……」
「ウチの前で咲に危害を与えるなんて、ええ度胸してますな~伊藤はん」
「ひぃ! 放課後の魔術師!」
「失礼なお人やね。そんなに死にたいん?」

(目の前にいるのは、サッキーこと、同じ学年の上春咲さんと二年の朝乃宮千春先輩。可愛い系のサッキーにヤマトナデシーの朝乃宮千春先輩。同じ風紀委員仲間なんだけど、約一名、とても危険人物が……)
「伊藤はん」
「ごめんなさい! 許してください! 私じゃなくて先輩でよろしくお願いします」
「この人……躊躇なく相棒を差し出すやなんて……伊藤はん、ほんま怖いお人やわ」
「それでこそ、伊藤さんです!」
「いや、それどういう意味、サッキー? けど、なんでもいいや。サッキー、風紀委員のお仕事で来たんだよね? 一緒にいこぉ」
「ええんやね……」
「切り替えの早さはほのかさんのいいところです! 一緒に行きましょう!」



「それで、サッキー。どこに向かってるの? もう、帰れない?」
「やる気ないですね、ほのかさんは。夜の学校ですよ? ドキドキしませんか?」
「いろんな意味でドキドキしてた。けど、私、高校生だよ? オカルトとか卒業してるから」
「……ほのかさんもオカルトは子供じみているって思っているんですか?」
「……子供じみているって言わされてるのかな」
「言わされている?」

「私、学校の七不思議とか妖怪とかおまじないとか大好きだったけど、小学校高学年くらいからみんなに言われたの。もう、そんな年じゃないって。おかしいよね? みんなして夢中でああだこうだって言い合って本気で正体を探ってみようとか、霊は存在する証拠を見つけようとか言ってたのに、まるでそんなことなかったように否定してさ……すごく寂しかった。私、苦手になっちゃった」
「ほのかさん……」
「気持ちはよく分かります。けど、それでええの?」
「仕方ないですよ。それが大人になるってことじゃないですか。周りに合わせられなかったらぼっち確定ですよ」
「人の意見よりも信念に従うから大人やと思いますけど。『天文学の父』と呼ばれたガリレオは異端審問で有罪になっても、『And yet, it moves』、それでも地球は動いているって言い張ったそうやないの。そっちの方がウチは大切やと思います。藤堂はんもきっとそう思いますえ」
「……凡人の私はそこまで強くもなれないし、本気にもなれませんよ。先輩はただの石頭です。そもそもたかがオカルトじゃないですか」
「オカルトを馬鹿にしてはいけませんよ、ほのかさん! オカルトは人の教訓や戒め、夢がつまっているんですから! 奥深いし、自分の仮説が正しいって証明されたらいい気分じゃないですか!」
「さ、サッキー? 指を頬にぐりぐりしないで……」
「それに占いはいろいろと馬鹿にされていますけど、今でも続いていますし、それに今だからこそ、注目されるべき分野なんです! 現に私には信者がいますしね!」
「し、信者? それって……」
「伊藤はん。世の中、知らんほうが幸せな事もあるんよ」
「ええぇ! もの凄く気になるんですけど! 七不思議より気になる!」

「ほのかさん、つきましたよ。第二の七不思議の場所に」
「いつの間に! っていうか、おうちに帰りたかったのに……ここって踊り場ですよね? ここに何が……」
「やだなぁ、ほのかさん。知っているくせに」
「そんな素敵な笑顔で言わないで、サッキー。鏡関係でしょ? ちなみになぜ、踊り場って言われるのかは諸説あるけど、階段の折り返し地点を移動するとき、スカートがゆらめく姿が踊っているように見えたから踊り場だって知ってたかな?」
「どうでもいいですね。それより鏡なんですけど」
「この小説全否定みたいなこと言われた! 渾身のネタなのに!」
「知ってました? この鏡は真実のみ映す鏡で、霊や妖怪は鏡に映らないんですよ」
「それ反対じゃないのかなって思うんですけど……は、はいぃいいいいいいいい! 私の姿が映ってない! どういうこと!」
「それは伊藤はんが死んで……」
「ちょっと! 私は鏡に映る価値もないってこと! ヒロイン枠の私が? ふざけてるんじゃないわよ、鏡如きが! この! この!」
「……そこなんやね、伊藤はんの気になるところは……」
「はわわわわわ! ほのかさん! 鏡が割れちゃいますよ!」
「こんな鏡、割れた方が……って、あれ? この鏡……」

 ピンポン!

「我が真実の鏡を疑う愚かな生徒、伊藤ほのか。器物破損により、貴様に血の制裁を加える。だが、慈悲がないわけではない。伊藤ほのか、我が問いに答えよ。正解なら不問にとす」
「器物破損って……俗っぽいし、オカルトじゃない」
「では鏡にちなんで問おう。マジックミラーの見分け方は?」
「鏡に指を当てること。鏡は厚さの分奥行きがあるから指をつけても、指先が触れあわないけど、マジックミラーは薄いから指が触れる……でしたっけ」
「よろしい! 汝の罪を許そう。では、この場から立ち去るがいい」

「……七不思議の調査ってこれでいいわけ? それにしても、どうして、鏡とマジックミラーがあわさっているわけ? しかも、マジックミラーが逆につけてるし! だから、マジックミラー側に立っていた私の姿が映らなかったわけね! 少しミステリーっぽいんだけど、やっぱりおかしいよね、サッキー……って、サッキーがいない! 朝乃宮先輩も! どうして!」
「それは業者のミスだよ」
「現実的な理由だった!」
「生徒同士の喧嘩で鏡が割れて、業者がミスったんだけど」
「生徒同士の喧嘩って……迷惑ですよね」
「それ、藤堂のせいだから」
「せんぱぁあああああああああいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
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