風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

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二章

二話 伊藤ほのかの挑戦 M5の逆襲編 その四

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「青島全体を活性化かっせいかさせようとしたスクールアイドル計画が失敗したこと、覚えてるよね?」
「はい」

 押水一郎プロデュースのスクールアイドル計画。
 過疎化かそかが進む青島を活性化させる目的で立てた計画が、ご当地とうちスクールアイドル結成だった。
 学園も入学希望者を集める目的があった。
 青島の知名度も上がり、入学希望者も集まる。そんな一石二鳥の計画だったが、押水先輩のハーレム発言で計画は頓挫とんざ
 元々あった、スクールアイドルヒューズも解散になってしまった。
 原因の一因いちいんが私達にもあり、後ろめたい気持ちがある。

「あのあとね、別の計画が出来たの。部活動で実績をあげて、青島の名前と入学希望者を集める計画が。こっちが元々あった計画で水面下すいめんかで進めていたんだけど、ついに秋の大会で全国大会優勝を収めた部が続出した。テニス部やバスケ部、その他諸々。その甲斐かいあって、今年の入学希望者も集まりつつある。先生からね、彼らの成績が莫大ばくだい利益りえきを生むから多少のことは目をつぶってくれって言われてるの。スクールアイドル計画を台無しにしたこともあるから、僕も強く否定できなくてね」
「だ、だからって、やっていいことと悪いことがあるでしょ! 現に私の親友が被害に遭ったんですよ!」

 私の友達が、大切な友達がパイをぶつけられたのに多少なことなんて納得いかない!

「ほのかがよけるからぶつかったし」
「ほのほの、いざとなったら友達見捨てるのって最低だと思う。しかも、仮にも風紀委員でしょ? 体を張って私達の事、守ってよ」
「ち、違うもん! 青札貼った青巻君が悪いんだから!」

 そうに決まってる! 私、悪くないもん! 大体、パイなんてどこから用意したのってツッコみたい。

「そうだな、青巻が悪い」
「せ、先輩……」

 やっぱり、私のことを分かってくれるのは先輩だけ! 一生ついていきます!

「正道、伊藤さんと組む時は背中に注意しなよ」
「どういう意味ですか!」

 橘先輩、マジいらんこと言わないでください!

「そうだな、気を付ける」
「先輩~」

 うわああん!
 私は先輩の胸板にだだっこパンチを連打する。先輩は私の頭を押さえ、遠ざける。手のリーチ差でグーが届かない。

「冗談はさておき、対応策を考えないとね」

 コンコン。

 部屋をノックする音が聞こえてきた。
 誰だろう? 何かトラブルかな?
 私の勘は当たっていて、この部屋をたずねてきた人物こそ、次なる戦いを運んでくる者たちであった。



「どうぞ」
「失礼します」
「ああっ!」

 入ってきたのは招かれざる客だった。今さっきまで話していたM5のメンバーだ。
 どうして!
 私はつい身構みがまえてしまう。
 先輩はM5と明日香、るりかの間に立つ。二人を守ってくれているんだ。優しい~。
 だから、私も先輩の背中に隠れる。二人だけ守るなんてちょっとヤケちゃうもんね。
 橘先輩は微笑びしょうを浮かべ、来客を歓迎かんげいする。

「何か用ですか、赤巻君?」
「僕の事、知っているのですね。光栄です、橘風紀委員長」

 二人とも笑顔だけど、目が笑ってない。お互い、腹を探るように見つめ合っている。
 二人のやりとりに内心ハラハラしてる。ううっ、怖い。

「なら、お昼の件はもうご存知ごぞんじですね? その件で来ました」

 し、仕返しに来たのかな? やる気? せ、先輩が黙ってないもん!

「青巻」
「うっす」

 あ、あの人! 私のお弁当箱を床にたたきつけた人だ! 私の前に来た! こ、怖くないもんね!
 私は先輩の腕を掴み、背中に隠れる。
 や、やるか、コノヤロー! 先輩が相手だぞ!

「すみませんでした」
「えっ?」

 青巻君が腰を九十度曲げて謝罪された。
 あ、あれ? お礼参れいまいりにきたんじゃないの?

「部員の愚行ぐこうを許してほしい。このとおりです」

 赤巻君が青巻君の頭を押さえ、反省していることをアピールする。
 赤巻君は頭を下げないんだ。

「私はもういいけど、明日香とるりかにもちゃんと謝ってください」
「だそうだ、青巻。謝るんだ」
「すみませんでした」

 青巻君は頭を下げ、赤巻君は青巻君を、腕を組んで見下ろしている。赤巻君の態度に明日香もるりかもちょっぴり引いていた。
 分かる~。

「べ、別にもういいし」
「わ、私も」

 半ば、強制的に二人が許してくれたことを赤巻君は確認すると、橘先輩に視線を戻した。

「では、これで手打ちでいいですね? もちろん、青札は撤回てっかいいたします」

 私達はうなずく。
 なんだ、問題児って聞いていたけど、ちゃんとブレーキ役がいるじゃない。
 今回はこれにて一件落着いっけんらくちゃく

「待て」

 先輩がストップをかける。
 なんで? も、もしかして、怒ってる? 私の為に? 嬉しい!
 せっかく丸く収まろうとしているのに、ストップをかけるなんて空気読めてないけど、私の為だもんね。
 しょうがないか。うん、許す!

「青札自体、すぐに止めろ。やりすぎだ」

 あっ、そっか。
 私達だけ撤回てっかいされても、まだ他の人が青札貼られている可能性あるんだよね。
 私もあれはやりすぎだと思う。

「やりすぎではありませんよ。元々、青札は練習をサボった部員にばつを与えるために、その部員のおでこに青札貼って、正座させてみせしめにしているだけです。これは顧問にも許可は取っていますが、問題ですか?」
「いじめの標的にするものではないのか?」
「違います。先ほどの件に関しては青巻の悪ふざけです。普段、青巻が青札の常習犯じょうしゅうはんなのでやってみたかっただけでしょう。今後、このようなことは一切いっさい起こさないよう指導しどうします」

 先生から許可を取っていること、いじめではないこと、赤巻君が謝罪したこともあり、先輩は気難きむずかしい顔をしていた。
 先輩はため息をつき、赤巻君の主張しゅちょうを認めた。

「では、これで終了ということで」

 めでたしめでたし。
 いや~、よかったよ~。何事もなくて。

「では改めて、伊藤さん、謝罪してもらおう」
「はい?」

 えっ? 水に流してくれるんじゃないの? 謝罪って何を?
 私は慌てて聞き返す。

「で、でも、今さっき、終わりにしようって」
「それは部員がキミに対しての非礼ひれいびただけだ。今度はキミの番だ」
「で、でも、ジュースをこぼしたことは謝りましたよ!」
「ジュースの事じゃない。青巻をなぐったことだ」

 あっ、忘れてた。
 殴ったよね、思いっきり。

「殴った? 何のことだ?」

 まずい、先輩が白い目で私を睨んでいる。私は慌てて青巻君を殴ることになった経緯けいいを話した。
 それを聞いて、橘先輩はこめかみを押さえ、先輩は苦々しい顔つきになる。

「や、やぱりまずかっでしょうか?」
「確かに暴力はよくないが……」

 先輩の言葉に力がない。悪い時ははっきりと悪いと言ってくれる先輩なだけに、迷いがあることが分かる。
 でも、お弁当をひっくり返されたのは許せない!

 ドラマのように、親が丹精たんせいめて作った弁当じゃなくて、昨日の残り物だけど、私が作ったものは失敗作だけど、それでも許せないから。

「な、殴られるようなことをするのが悪いと思います!」
「その件を含めて先程さきほど謝罪し、ゆるしをたはずだが」

 あ、あれはそのことも含まれてたの! ううっ、はめられたよ~。
 先輩~。
 私はすがるように見つめたけど、先輩の顔色は変わらないままだ。フォローしたくてもできないみたい。
 納得いかないけど、先輩達に迷惑かけたくない。私は謝罪することにした。

「……すみませんでした」
「謝って済むなら警察はいらない」

 あんたもか! こっちは謝罪して済ましてあげたのに! 男の子なんだから細かいことは気にしないでよ!

「どうしろって言うんですか?」
「そうだな……」

 赤巻君が私の体を、頭からつま先までチェックするように見てきた。
 ううっ、嫌な視線だ。
 私はその視線から自分を守るように手で体を抱きしめた。
 まさか、私の体が目的!

「治療費を払ってもらおう」

 セコッ! 御曹司おんぞうしなんでしょ、アンタたち!
 ま、まさか、法外ほうがい慰謝料いしゃりょうを取る気なの?

「赤チン代と絆創膏代はまけてあげていいよ」

 いい人だ。とてもいい人だ。

「ふう、体を要求されるかと思いました」
「いや、興味ない」

 即答! 嫌な人だ! ねえ、ホモなの! モーホーなの!
 なんで男の子ってエッチか全く興味があるかないかでこうも極端きょくたんなの!
 ううっ、私って魅力ないのかな? だから、先輩も私を子ども扱いするのかな?
 はあ、治療費を払うとおこずかいが減るし、踏んだり蹴ったりだ。

「分かりました。治療費は払い……」
「待って、伊藤さん」
「橘先輩?」
「赤チン代と絆創膏代は、まけてくれるんだよね? その他があるの?」

 え、あるの?
 赤巻君は楽しそうに笑っている。

「もちろん。赤チン代と絆創膏代、そして、伊藤ほのかと風紀委員の藤堂正道、風紀委員長橘左近の謝罪を要求ようきゅうする」
「な、なんで、先輩達が謝らなきゃいけないんですか!」
「なるほど、そういうことか」

 橘先輩は納得したような顔をしている。
 えっ、何? どういうこと?
 代わりに先輩が答えてくれた。

「部員の不始末ふしまつに主将が一緒に謝ったとなれば、風紀委員の不始末も同じように謝れってことだ」
「で、でも、先輩は関係ないじゃないですか!」
「藤堂正道はキミのパートナーだろ? 相棒の不始末は連帯責任れんたいせきにんでとるべきだ。それに委員の不始末は委員長が責任をとるのが常識だ」

 こじつけだ!
 赤巻君の提案には乗れない。
 私のせいで先輩や橘先輩に迷惑をかけたくない。なんとしても、私だけの謝罪で許してもらわないと。
 そんな私の肩を橘先輩が優しく手を置いてくれた。

「まあまあ、ここは頭を下げて解決できるなら、そうさせてもらおう。正道、悪いんだけど、付き合ってくれる?」

 先輩はため息をつき、苦笑いを浮かべている。了承してくれたみたい。
 それなら、私が駄々こねても仕方ない。納得いかないけど。
 三人並び、謝罪しようとしたとき。

「待て。頭が高い。ひざをついて謝れ」

 なっ! 冗談じゃない! なんでそんなことまでしなきゃいけないの!
 橘先輩も先輩も理不尽りふじんな要求に固まっている。
 これは納得できない!

「なんでそこまでしなきゃいけないんですか!」
「? 僕に謝罪するときは膝をついて謝るものだろう?」

 ごく当たり前のように言われてしまった。赤巻君の顔には悪意や人を見下すといったものはなかった。
 この人、本気で言ってるの? 天然なの?
 赤巻君は純粋じゅんすいに疑問を口にしている。
 ええっと、どう説明したら分かってもらえるのかな?

「あ、あのね、赤巻君。青巻君は膝をついて謝らなかったじゃない?」
「それは僕に対しての謝罪じゃないからだろ?」

 ええっ~そこ? そこなの?
 分かり合えない私と赤巻君は、お互い首をかしげる。
 首をかしげている赤巻君はちょっと可愛いかも。要求していることは半端ないけど。

「……そもそも、赤巻君は謝っていないよね?」
「? 許してほしいと言ったが?」

 あれが謝罪なんだ!
 この人、本気だ。全く悪意がない。

「さあ、謝ってくれ。言っておくが僕に逆らう奴は神でも許さない」

 キ、キター! カミユル!
 この発言に先輩が反応する。

「許さないとは穏やかじゃないな」
「本当の事だ。それより……」

 赤巻君が先輩に近づく。
 そして……。
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