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第三十話

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「エラトール家のクソどもめ…俺をやりこめたつもりなんだろうがそうは行くか…目にものを見せてやる」

深夜。

大勢の部下の騎士たちを連れたガレス・カラレスが月光の元で歪んだ笑みを浮かべる。

彼らは今、エラトール家とカラレス家の領地を分つようにして存在している森の近くにいた。

数百名召集された騎士たちは全員松明と武器を持っている。

ガレスは今から彼らを使って、ルーシェの件で苦い思いをさせられたエラトール家に報復するための行動を起こそうとしていた。

「準備が完了しました、ガレス様」

馬に乗ったガレスの元に、騎士団を率いる男が近づいてきてそう報告した。

ガレスが森を指差して言った。

「そうか。では、始めろ」

「御意」

騎士団長が、騎士たちに向かって森に突撃するよう指示を出す。

すると騎士たちは一斉に森に向かって進軍を開始した。

『ギャァアアアアアア!!!』

『ガァアアアアアア!!!』

突然の襲撃を受けた夜の森のモンスターたちの悲鳴がすぐに響いてきた。

それを聞いたガレスがニヤリと笑った。

「いいか、モンスターは殺すな。あくまで火を使って追い詰めるだけだ」

「はい。承知しております」

「生存地域を追われたモンスターたちは新たな安置を求めて大移動を開始する。そして森のその先にあるのは…くひひ…あのクソどもの領地よ…くひひひひ。俺をコケにした罰だ。目にものを見せてくれるわ!!」

ガレスは一通り卑屈に笑った後、騎士団長に向かって命令する。

「俺はもう屋敷に帰る。お前はここに残って引き続き任務にあたれ。それから…証拠隠滅を忘れるなよ?」

「もちろんです」

「ふん。ではな」

ガレスは最後に夜の森に向かって進んでいく騎士たちを一瞥した後、屋敷へと向かって帰っていった。


「出来た…僕が考えた最強の魔剣…本当にできてしまった…」

上級魔法を付与する付与魔法を習得してから二週間ばかりが経過した。

あれから俺は、さらに付与魔法を極めるべく日々邁進していた。

既に全ての属性の上級魔法を武器に付与することに成功した俺が次に考えたことは、複数の上級魔法を剣に付与できないかということだった。

振るだけであらゆる上級魔法を発動できる魔剣。

そんなものが作れてしまったらそれはチートという他ない。

まぁ、流石に無理だろうなとは思っていたが、しかしためしてみるものだ。

二週間の訓練の末、俺は複数の上級魔法を剣に付与することが可能になってしまった。

「はっ!」

お昼下がり。

いつもの森付近の修行場にて、俺は手に持った剣を振った。

ゴォオオオオオオ!!!

すると前方に炎の竜巻が起こって木々を薙ぎ倒す。

剣に付与された上級魔法のファイアー・トルネードが発動したのだ。

『クゥ…ハフゥ…』

『グルゥ…』

炎の竜巻が轟音と共に森の中を進んでいって鬱蒼と草木の生い茂る地面を更地に変えていくが、しかし、すぐ近くではそんなこと全く気にすることなくクロスケとクロコが眠っていた。

最初は魔剣を怖がっていた二匹だったが、最近では慣れたようで、俺が付与魔法の鍛錬をしている側で二匹で昼寝したり、戯れついたりしている。

「おりゃ!」

そんな呑気な二匹を横目に、俺はもう一度手の中の剣を振った。

ボォオオオオオオ!!!

次の瞬間、高温の紅蓮の炎が周囲の空気を焼き焦がす。

火属性の上級魔法、フレイム・ファイアだ。

むせかえるような熱気が周囲を見たし、クロスケとクロコがちょっと寝苦しそうに身を捩る。

「もういっちょ!」

俺は炎が治るのを待ってから、三振り目、剣を横凪にした。

ズガァアアアアン!!!

次の瞬間、空中に生成された炎の隕石が轟音と共に地面に着弾した。

火属性上級魔法、スターフレア。

火属性の上級魔法の中で最も物理的威力の強い魔法で、これを食らわせれば大抵のモンスターはイチコロという魔法だった。

『グゥン…?』

『クゥン…?』

今度は流石にうるさかったのか、クロスケとクロコが僅かに目を開ける。

だが、その後しばらく魔法の発動がなく静寂が続くと、またすぐに眠ってしまった。

「完璧だな…」

俺は改めて手の中の剣を見つめる。

この二週間の鍛練の集大成がここに詰まっている。

この剣は、俺が作り出した、振るだけであらゆる火属性の上級魔法が使える魔剣だ。

日々の努力のおかげで、俺は一つの属性に限り、いくらでも武器に魔法を付与できる術を身につけていた。

「次はもちろん複数の属性魔法の付与だよな」

明日からは、複数の属性魔法の付与に挑戦するつもりだった。

火、水、光、風、土。

五つの属性が付与された魔剣。

そんな夢のような武器が、もしかしたら再現可能かもしれないんだ。

試さない理由はない。

「よし。今日はもう帰るか」

十分な成果を得た俺が、早めに鍛錬を切り上げてイリスの魔法の練習でも見守ろうと屋敷の方へ歩き出したその時だった。

ドドドドド…

「ん?」

森の奥から何かが聞こえてきて俺は足を止める。

振り返って、森の奥を見つめた。

ドドドドド…

「なんだ…?」

一体なんの音なんだ…?

まるでたくさんの何かが近づいてくるようなこの音は…

『グルルルル…』

『ガルルルル…』

「クロスケ…?クロコ…?」

何かの異変を察知したのか、クロスケとクロコが立ち上がって森の方へ向かって吠える。

「まさか…」

嫌な予感が俺の背筋を撫でた。

「…っ」

ごくりと唾を飲んでそのまま森の方を睨んでいると、やがて地鳴りのような音の主たちが森の奥から姿を表した。

「やっぱりかよ…!!なんとなくそんな予感がしたんだ…!!」

モンスターだった。

数十匹。

いや、数百匹入る。

見たこともないようなモンスターの大群が森の奥から迫ってきていた。

「くそ…やるしかない…!!」

俺は即座に戦闘体制に入る。

あの量もモンスターを領地に侵入させたら甚大な被害が出る。

なんとしてでもここで食い止めて殲滅しなくては。

「やるぞ、二匹とも…!悪いが手伝ってくれ!」

『ガル!!』

『ワフ!!』

俺の言葉に、わかった!というように返事をする二匹。

この量を俺一人で捌き切れるかはわからない。

俺はクロスケとクロコの力も借りることにした。

「なるべくお前たちは戦うな!足止めをしながら、孤立したやつを殺してくれ!」

モンスターの群れの中にはざっと見たところ、上級モンスターたちも含まれていた。

中級のクロスケやクロコたちだと負けて殺されてしまう可能性がある。

だから、俺はこの大群から逸れた個体を二匹に任せることにした。

「うおおおおお!!」

そして自分は大群の正面から突っ込んでいく。

「早速出番だぜ…!俺の愛剣!!」

そして右手に持った自作の魔剣を惜しみなく振りまくった。

直後、あらゆる火属性の上級魔法がモンスターたちに襲いかかり、モンスターたちの悲鳴が周囲にこだました。
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