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第三十四話

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俺が騎士たちの武器の一部を魔剣化したおかげで、戦況はかなりこちら側の優勢となっていた。

「第六撃…!!放て…!」

『『『ギャァアアアアアアア!!!』』』

『『『ガァアアアアアア!!!』』』

横一列に並んだ騎士たちが一斉に魔剣を振り下ろす。

剣に付与された上級魔法がモンスターたちに襲いかかり、悲鳴の鳴き声が上がる。

魔剣部隊が十回振り下ろされるまでには、千匹はいたモンスターたちはほとんどが死体となって地面に転がっていた。

「これなら行ける…!後方部隊!突撃…!!」

モンスターの群れの大部分が片付いたことで行けると判断したらしい隊長が、突撃の指示を出す。

「「「うおおおおお!!!」」」

魔剣部隊の後ろに控えていた通常の武器を持った騎士たちが、散らばって逃げ惑うモンスターを追撃し始めた。

「もう俺の出る幕はなさそうだな」

俺はその様子を後ろから眺める。

魔剣部隊のおかげでモンスターの群れは完全にバラバラになり、まとまった行動は見られない。

すでに数的にもこちら側の優位となっており、これならば確固撃破に切り替えても問題ないだろう。

モンスターの群れが完全に掃討されるのは時間の問題と思われた。

「アリウス様。感謝申し上げます」

俺がモンスターたちを駆逐していく騎士を眺めていると、団長が俺の元までやってきて膝をついた。

「あなたのおかげでモンスターどもを蹴散らすことができました。おかげで領地は……彼らや私の家族は守られました」

そう言って地面に額がつきそうなほどに頭を下げる。

「顔を上げてくれ」

そんな団長に向かって俺はいった。

「感謝をしなければならないのはこちらの方だ。領地を守ってくれて感謝する。この数のモンスター、お前たちがいなければ殲滅は不可能だっただろう」

「アリウス様…」

顔を上げた団長が感極まったような表情になる。

「私はあなたたちエラトール家に仕えることが出来て本当に光栄」

『グガァアアアアアアアアア!!!』

団長の言葉は、空気を震わせる巨大な咆哮によって遮られた。

「…っ」

俺は突然のことに思わず耳を塞ぐ。

不意に地面に影が刺した。

それと共に、近くに巨大な何かが空より舞い降りた。

『グガァアアアアアアアア!!!』

今まで空を滑空していたそいつは、地面に降り立つと、周囲の騎士たちを威嚇するようにもう一度咆哮する。

「は…?なんだ、あいつ…」

俺が初めて見る翼を持ったモンスターに唖然とする中、誰かが叫んだ。

「ドラゴンだ…!!ドラゴンが出たぞおおお
お!!!」



ドラゴン。

大抵の創作物の中で、最強のモンスターとして扱われる怪物。

この世界にも実際にドラゴンが存在することは、俺は以前から書物を読んで知っていた。

だが…

「マジかよ…!?」

こうして目の前で相対するのはもちろん初めてだ。

「なんでここにドラゴンが…!?」

俺の記憶が正しければ、ドラゴンとは一匹で国を滅ぼしかねないと言われるほどに強力なモンスターだ。

こんな辺境の貴族領地の森に簡単に現れていいようなモンスターではないはずである。

「リトル・ドラゴンです…!!」

騎士団長が叫んだ。

「通常のドラゴンより、力では劣る…!!だが、小規模都市なら簡単に滅ぼしかねない、災厄級のモンスターです…!!」

「災厄級…!?なるほど…こいつが…」

モンスターの大暴走スタンピードにはさまざまな原因があると言われているが、その中の一つに、モンスターの生息地域に突如強力なモンスターが誕生して他のモンスターたちを追いやってしまうというものがある。

より強力なモンスターによって棲家を奪われたモンスターたちが、他の場所に生存地域を求めて大移動を開始するのだ。

だとすれば目の前のこのリトル・ドラゴンが今回のスタンピードの原因である可能性が高い。

『グギャアアアアアアアアア!!!』

「くっ…うおおおおおお!!」

「おらぁああああああ!!!」

突如として騎士部隊のど真ん中に降り立ったリトル・ドラゴンは周囲を威圧するように咆哮を繰り返す。

大抵の騎士が突如のドラゴン種の再来に動けずにいる中、数名の騎士が勇敢にもリトル・ドラゴンに対して立ち向かっていった。

しかし…

「「ぐあぁっ!?」」

たった一振り。

リトル・ドラゴンが前足を振っただけでその体は吹き飛ばされ、動かなくなる。

今までのモンスターとは格が違う。

俺は災厄級のモンスターのパワーを目の前で見せつけられ、一瞬動けなくなってしまう。

「アリウス様…!!危険です!お逃げください…!!」

だが、団長のそんな言葉によってはっと我に帰った。

「ここは我々に任せて、あなただけでも…!」

「いいや、逃げるのはお前らだ」

騎士団長は自分達を囮として俺を逃がそうとしているようだが、彼らだけでリトル・ドラゴンを倒せるとは思えない。

リトル・ドラゴンがいるのは部隊のど真ん中であるため、魔剣も満足に使えない。

明らかにここは俺が戦うべき状況だった。

「ダメです…!!あなたは生き延びなければならない…!!」

「信じてくれ!!俺ならあいつをしとめられる…!!あんたは他の騎士たちをすぐにこの場所から離れさせてくれ」

周りに人がいなくなれば存分に戦うことが出来る。

俺は騎士団長に騎士たちを退避させるよう言った後、一人でリトル・ドラゴンに突っ込んでいった。

「おい、こっちだ…!!」

手始めに中級魔法を何発か放つ。

『グルァ…?』

だが、硬い鱗に阻まれてまるで効いていない。

どうやらこいつには上級以上の魔法しか通用しなさそうだ。

「スター・フレア!!」

リトル・ドラゴンに向かって高火力の上級魔法を放つ。

空中に生成された火炎弾がリトル・ドラゴンに降り注ぐ。

『グギャァアアアア!!』

リトル・ドラゴンが初めて悲鳴のような鳴き声を上げた。

効いている。

どうやら魔法が全く通用しないというわけでもないようだった。

『ガァアアアアア!』

ばかっと大口を開けたリトル・ドラゴンが炎のブレスの攻撃を放ってくる。

「ウォーター・シールド」

高温度の火炎砲が俺に迫るが、俺は水の盾を目の前に作って難なく防いだ。

『ガァアアアアア!!』

ブレスによる攻撃が防がれたのを見たリトル・ドラゴンが巨体を回転させて尾による攻撃を仕掛けてくる。

「うおっと!?」

俺は風魔法で自らの体を持ち上げて、空中に浮くことでその攻撃を回避した。

尻尾は俺を捕らえようと暴れ回り、執拗に追いかけてくるが、エレナとの訓練で防御や回避に関しても圧倒的に上達した俺はその全ての攻撃を交わし切った。

『グルルゥウウウ…』

攻撃が止んだ。

リトル・ドラゴンが目を細めて俺を見る。

こいつは今までのやつとは違う。

目がそう言っているような気がした。 

「こいよ」

気づけば周囲には俺とリトル・ドラゴンだけになっていた。

騎士団長が俺を信じて、騎士たちを退避させてくれたらしい。

これで周りを気にすることなく全力を出せる。

俺が不敵に笑う中、リトル・ドラゴンは翼をはためかせて宙に浮き上がった。

「何をする気だ?」

俺が上空を警戒する中、空中に浮いたままのリトル・ドラゴンは、俺を空から見下ろしながら地面に向かってブレス攻撃を放ってきた。

俺は水に盾を使って攻撃を防ぐ。

『グガァアアアアア!!!』

「今度はこっちのターンだ」

空中からのブレス攻撃を防いだ俺は、リトル・ドラゴンに向かって魔法を放つ。

「む?」

だがリトル・ドラゴンは空中を飛び回ることで俺の魔法攻撃を回避した。

そのまま空中を縦横無尽に滑空する。

これでは狙いが定まらない。

「なるほど…それなら魔法が当たらないってか?」

ドラゴンは知能が非常に高い種族だと知っていが、なるほど確かにこれまでのどのモンスターよりも戦略的だ。

しかし…動く的に攻撃を当てる手段ならないこともない。

「メガ・ファイア・アロー。ホーミング」

俺は空中に魔力を込めて作った巨大な炎の矢を生成した。

そこへさらに追撃の改変を加え、魔力を持って解き放つ。

「行け!仕留めろ!!」

放たれた巨大な炎の矢は、空中を逃げ回るリトル・ドラゴンをどこまでも追いかけ、その翼を捉えた。

『グギャァアアアアア!?!?』

リトル・ドラゴンが悲鳴と共に地面へと落ちてくる。

「ウィンド」

俺はすかさず風魔法を使ってその距離を詰めて、堕ちたリトル・ドラゴンへと肉薄する。

「悪いが終わらせてもらう。ライトニング・ソード」

そしてその無防備に曝け出された首に向かって魔法で生成した光の剣を思いっきり叩き込んだ。

斬ッ!!

切断音と共に伝わってくる確かな手応え。

リトル・ドラゴンの首が落ちて、鮮血が地面に撒き散らされる。

『…』

一泊遅れて、頭部を失い沈黙した胴体の方が音を立てて地面に倒れる。

シーン…という静寂が周囲を支配した。

「ふぅ」

俺は光の剣を解除して額の汗を拭った。

俺の勝ちだ。

災厄級のモンスターを仕留めたことによる圧倒的な勝利感が体を満たす。

「「「うおおおおおお!!!!」」」

少し遅れて、離れた場所で戦いを見守っていた騎士たちから歓声が上がったのだった。
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