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第八十四話

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「エレナ…やっぱり居たか…!!」

「アリウス…!やはりあなただったのですね…!!」

俺はクロスケから降りてエレナの元へと行く。

「さっきの魔法、エレナ以外にないと思ったんだ。やっぱり参戦してくれていたか」

「先ほどの魔法。絶対にあなたのものだと思いました。アリウス。やはり帰ってきていたのですね」

俺とエレナは抱き合って再会を喜び合う。 

「ちょ…抱き合うなんて大袈裟じゃ……まだ半年じゃないですか…」

背後から誰かさんの不満の声が聞こえてきたような気がしたが多分気のせいだ。

「ありがとうエレナ。領地のために戦ってくれて。俺はてっきりエレナは参戦しないものかと」

侵攻されているのはこちら側とはいえ、あくまでこれは帝国人同士の争いだ。

帝国は貴族領主同士の争いを法によって禁じていない。

だからエレナはひょっとしたらこの戦いを傍観する可能性もあると思ったのだが、どうやらこちら側で戦ってくれるようだ。

「まさか。エラトール家には今までよくしてもらいましたからね。それに私はもう帝国魔道士団に所属しているわけでもないですから、どちらかに肩入れしたって誰からもとがめを受ける言われはないですよ」

「そうか……エレナがいてくれて本当に頼もしいぞ」

「うふふ…私も久々にアリウスにあえて嬉しいですよ。もう五年は会っていないような感覚です」

「ははは。まだ半年だぞ」

俺とエレナは再会を喜び、呑気に笑い合う。

「ちょっと2人とも!!ここは戦場ですよ!!時と場所を考えてください!!」

そんな俺たちを我に返らせたのは、ルーシェの甲高い声だった。

「アリウス。再会を喜び合うのはまた後にしましょう今は」

「ああ。バラバラになったカラレス軍をこのまま駆逐しよう」

俺は再度クロスケに跨る。

「エレナも乗らないか?」

「いいのですか?」

「ああ。クロスケ。エレナは仲間だ。乗せていいよな?」

『ヴァフッ!!』

構わないと言うようにクロスケが返事をする。

「では失礼します」

エレナが跳躍し、クロスケの背中に乗った。

「よし、クロスケ!!行け!!逃げたカラレス兵を追うんだ!」

『ヴァフ!!』

クロスケが俺とエレナを乗せて大地を蹴る。

人を2人乗せても少しも速度は衰えない。

「驚きましたよアリウス。いつの間にテイムを覚えたのですか?」

クロスケの背中でうまくバランスをとりながら、エレナが訪ねてくる。

「色々あってな…気づいたらテイム状態だったんだ」

「なるほど…その話についても後で詳しく聞かせてください。では……暴れますか」

「頼んだぞ」

眼前にカラレス兵たちの背中が迫っていた。

「ひぃいいいいい!?」

「来るなぁああああ!!!」

「お助けぇえええええ!!!」

背後を振り返ったカラレス兵たちが悲鳴を上げる中、俺とエレナはすれ違いざまに容赦なく魔法を放っていく。

「「「ぐあぁあああああ!?!?」」」

「「「ぐおおおおおおお!?!?」」」

大火力の魔法をまともにくらい、宙を舞うカラレスの兵士たち。

並走するクロコの背中の上では、ルーシェも負けじと魔剣の威力を遺憾なく発揮する。

そうして俺たちが通った後には、立っているカラレス兵は1人も存在しなかった。



「ななな、なんなんだよもおおおおお!!」

あまりに混沌とした状況に、ガレス・カラレスは悲痛な叫びをあげる。

せっかく冒険者を雇って戦況を有利なものとしたのに、直後に天候が変わり、空から雷が落ちてきてカラレス兵たちを蹂躙した。

前線の冒険者たちを見捨てて、背中を見せて退散したカラレス兵たちを待ち受けていたのは、獣に乗って暴れ回る魔法使いと魔剣使いだった。

気づかぬ間に後衛陣地に回り込まれ、テイムされた獣に追い回されるカラレス兵たち。

もはや自軍は完全に戦意を喪失して、武器を捨てバラバラになって逃げ出していた。

こうなってはもう戦にはならない。

「あ、あぁ…」

「ガレス様!?」

ガレス・カラレスは絶望し、地面に膝をつく。

「お終いだ…一体どうすれば…」

一方的な戦いになると思っていたエラトール領の侵攻。

蓋を開けてみれば、二倍の兵力差があるにもかかわらず連戦連敗。

挙句のはてに圧倒的な魔法火力によって好き放題蹂躙され、散り散りになって敗走させられている。

ガレスはプライドも何もかもへし折られ、今までに味わったことのない敗北感に蹂躙されていた。

「な、何か策は…」

自分ではどうしようもない。

何か打開策はないかと藁にもすがる思いで新しい参謀であるフロイトを探す。

だが、先ほどまで近くにいたはずのフロイトの姿はもう見えなかった。

「ふ、フロイトはどこだ…?」

「が、ガレス様…非常に言いにくいのですが…」

お付きの騎士が言いにくそうにしながら口にした。

「フロイト様は先ほどお逃げになりました…」

「は…?」

「わ、私は止めたのですが…どうしようもなく…」

「…」

ガレスは頼みの綱だった部下から見捨てられ、逃げ出されたことを悟った。
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