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第四十四話

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「どうしてこうなった…どうしてこうなった…どうしてこうなった…どうしてこうなった…」

ある日の早朝。

1人の男が、貧民街を彷徨いていた。

ガイズである。

手には酒瓶を持ち、ふらついた足取りでゆっくりと進んでいく。

その瞳は虚で、色がない。

ぶつぶつと恨言のようなものを呟きながら、目的もなく歩いている。

「何もない…俺には、もう…何も…」

アルトを連れ戻すためにアルトリア家をおとずれたのが今からひと月ほど前。 

あれからギルド『青銅の鎧』は、アルトリア家から依頼を達成できなかったことに関して訴えられ、その日に敗訴が決定した。

『青銅の鎧』には損賠賠償請求が課せられ、資産は一気に吹き飛び、借金まで背負うことになった。

当然、ギルド内は混乱し、所属する冒険者は次々と辞めていった。

「すみません…今までお世話になりました」

最後に残った新米の冒険者が辞表を提出したのが、訴訟から一週間がたった頃だった。

それまでに、職員含めた全てのメンバーが辞めてしまい、青銅の鎧に残ったのは、ギルマスとガイズだけになってしまった。

「「…」」

ガランとしたギルドホームで2人は途方に暮れていた。

もはや何もかも手遅れであり、今更どうしようもない。

あと数日もしたら、ギルドホームも差し押さえられて住む場所さえ失ってしまうだろう。

「まさか…たった1人の男をクビにしただけでここまで落ちてしまうとはな…ははは」

ギルマスが自嘲気味に呟いた。

「…っ」

ガイズは悔しさに唇を噛み締めるだけで何も言葉を発しない。 

ギルマスは今更ガイズの責任を追求したところでどうにもならないために、静かにギルドホームを去っていった。

そしてその翌日、ガイズがギルドホームを訪れてみると、執務室に一枚の書類が残されていた。

そこには、ギルドマスターの地位をガイズに移譲するということが書かれてあった。

「あ、あの野郎…!」 

ガイズは、ギルマスがガイズに全てを押し付けて逃げたことを知った。

急いで隠し金庫の中を確認すると、そこには何も入っていなかった。 

ガイズが途方に暮れる中、ドンドンドンとギルドホームのドアを叩く音が聞こえた。

おそらく業者がこのホームを差し押さえに来たのだろう。

今彼らに捕まってしまうと、借金は全てガイズが背負うことになってしまう。

ガイズは夢中で二階の窓から隣の家の屋根に飛び移り、逃げ出したのだった。

「アルト…俺はどうしてあいつを追放したのだろうか…?」

そして今に至る。

巨額の借金を背負い、指名手配されて街にいられなくなったガイズはあれから、貧民街に紛れて生活していた。

埃っぽい、一軒の空き家を根城としていて、一日中呑んだくれている。

わずかながらに持ち出した金を、現実逃避のための酒に日々浪費している。

この調子でいけば、ひと月後には金が尽きて頼る当てもなくのたれ死ぬことになる。

そんな現実を忘れるために、ガイズは今日も酒を飲んでいた。

「アルト…あいつを追放さえしなければ…もっとうまくやっていれば…」

うわごとのようにそう繰り返す。

全てはアルトを追放したことから始まった。

アルトを追放せずに、ギルドに留めておけば、自分は何もかも失うことはなかったのだ。

「はは…俺は無能だ…本物のバカだ…」

ガイズはようやく、自分の無能さ加減を自覚した。

そして誰によってギルドが支えられていたのかを、理解することになった。

「もう遅い…後悔したって…手遅れた」

全てを失った男は、酒をぐいっと煽り、貧民街をふらつき回る。

その背中はボロボロで、悲壮感の漂うものだった。
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