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第十四話

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『ギィギィ!!!』
『グギャギャ!!!』
『グゲェエエエエエエ!!!』
『ブモォオオオオオオ!!!』
『ガルルルルルルルルル!!!』

全方位からこちらに迫ってくる無数のモンスターたち。

「魔壁!魔壁!魔壁!魔壁!」

俺は馬車と自身の周りに魔壁を展開し、まずはその侵攻を食い止める。

『『『グギャァ!?』』』

『『『グォオオオオオオ!!!』』』

『『『ギィギィギィギィ!?』』』』

魔壁によって侵攻を阻まれたモンスターたちが、こちらに向かって威嚇行動を取る。

俺は魔壁の魔力を維持しながら、攻撃魔法の雨を彼らに容赦なく降らせた。

「魔弾!魔槍!魔剣!魔矢!」

魔力で形作られた弾丸が、剣が、槍が、矢が、馬車の周りに集まったモンスターたちに降り注ぐ。

『『『『グギャァアアアアアアア
ア!?!?』』』

モンスターたちの凄まじい悲鳴が森の中に響き渡った。

「爆散!」

モンスターたちを捉えた俺の魔法は、着弾すると同時にその内部にある魔力を外部に惜しみなく発散させる。

ドガァアアアアアアン!!

バゴォオオオオオオオン!!!

『『『『グギャァアアアアアア!?!?』』』』

あちこちで魔力爆発が起こり、モンスターたちが巻き込まれて吹き飛ばされる。

モンスターたちの肉片と砂塵が周囲を舞って、視界が曇る。

「魔風」

俺が魔力によって風を起こし、砂塵を吹き飛ばすと、そこには肉の塊となったモンスター
たちの死体の山が築き上げられていた。

生きているモンスターは一匹もいないようだった。

「倒したか」

俺は周囲に散らばるモンスターたちの死体を見渡し、勝利を確信する。

これだけ魔法を連続で行使したにも関わらず、体内魔力が尽きることはなかった。

赤ちゃんの頃から、辛い思いをしながらも諦めずに魔力拡張の訓練に努めてきた甲斐があった。

これだけの規模のモンスターの群れと戦ったのは初めての経験だったが、結局小さな傷一つ負うことなく勝利したことで、俺は自分の魔法使いとしての実力の向上を実感する。

「「「なっ!?!?」」」

「お、お前たち。どこに行ってたんだ?」

服にこびりついた血や臓物を払っていると、いつの間にか消えた従者たちが戻ってきていたようだ。

彼らは周りに散らばるモンスターたちの死骸と俺を見て、唖然としている。

「そっちは大丈夫だったのか?」

俺はもしかしたら従者たちもモンスターの襲撃を受けたかもしれないと、安否を心配する。

「一体どうして…?」

「どうやって…」

「何が起きているんだ…?」

「まさかこの数のモンスターをたった一人で……」

「あり得ない…10歳にも満たない子供がこんなことを…」

「おいお前ら?」

呆然として何やらぶつぶつと呟いていた従者たちに俺が再度声をかける。

「はっ!?」

「も、申し訳ございませんでした!」

「大切な時のおそばにいられず…」

「怪我はないでしょうか、ルクス様!」

彼らは俺の声でようやく我に帰り、まるで取ってつけたように俺の安否を心配し始めた。

「俺はこの通り無事だが?」

「「「…っ」」」

そういうと従者たちは気まずそうに目を逸らす。

俺がモンスターに襲われた時に加勢できなかったことをもしかしたら悔いているのかもしれない。

「別に攻めたりはしないから安心してくれ。それよりも……御者台になぜか魔石が置かれていたんだ。おそらくあれの発する魔力によってモンスターが集まってきてしまったのかもしれない。今すぐに箱の中にでもしまっておいてくれ」

「わ、わかりました!」

「す、すぐに…!」

「了解です!」

従者たちが弾かれたように動き出す。

その後、魔石は箱の中に終われ、俺は問題なく王国へ向けた馬車旅を再開させた。

なぜか従者たちと俺の間には、終始気まずい空気が流れていた。



「ふざけないで!!」

「そんな話、信じられるわけがないでしょう!?」

「あなた、私たちに嘘をつこうっていうの!?」

「そんなこと、あり得るわけありませんわ!!!」

「ひぃ!?」

監視、報告役を仰せつかった男が、後宮にて皇帝の妻たちに詰め寄られていた。

魔石によりモンスターを集め、馬車を襲撃させてルクスを殺す。

そんな彼女たちの暗殺計画を、ルクスはその魔法の実力によって正面から粉砕した。

一部始終を見ていた男は、後宮へ戻り、計画は失敗し、ルクスは生きて帝国を出たことを報告した。

だが、ルクスがたった一人でモンスターの群れを壊滅させたという報告は、とても皇帝の妃たちに受け入れられるものではなかった。

「あの出来損ないがモンスターの群れを一人で壊滅!?」

「馬鹿も休み休み言ってください!!」

「そんなことがあり得るはずがないでしょう!?」

「あの無能皇子は、魔法もろくに使えないのよ!?モンスターの群れに襲われて生き延びれるはずがないわ!!」

「本当なんです!本当にルクス様がお一人でモンスターの群れを壊滅させたのです!あ、あのような凄まじい魔法を私は未だかつて見たことがありません…!!」

「うるさい黙りなさい!」

「この役立たず!!!」 

「まともな報告もできないなんて……なんの目的があってそのような出鱈目の嘘をつくの?」

「もういい!私たちの目の前から消えなさい!!」

「はいぃいいいい」

報告役だった男は、逃げるようにして部屋を退出した。

怒りの収まらない様子の妃たちはその背中に罵詈雑言を浴びせた後、互いに顔を見合わせあった。

「死んでいるはず…あの皇子は死んでいるに決まっているわ…」

「あの男は錯乱して幻覚でも見たのでしょう……私たちの計画が失敗するはずはありません…」

「あの出来損ないが一人でモンスターの群れを相手に生き延びられるはずがないわ……きっと今頃モンスターの餌食となっているは
ず…」

「仕方ありません。経過を見ましょうか。いずれにせよ近いうちに真実が判明するはずですから…」

彼女たちはルクスが死んだと信じて疑っていなかった。

だが数日後、彼女たちは王国の王室から発されたとある重大な事実をもって、ルクスが生きていたことを知ることになる。



第七皇子ルクスとエリザベート王女の婚約の成立。


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