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第二十八話
しおりを挟むブリターニャ王国第一王子、アイギス・ブリターニャは憤慨していた。
国の端にある山での山賊狩り遠征を終えて王城に戻ってきたら、妹のエリザベートが婚約をするという話になっていたからだ。
「ふざけるなよ…!僕の可愛いエリーを帝国の皇子なんかに渡してなるものか…!」
アイギスは実の妹であるエリザベートを溺愛していた。
ゆえにエリザベートが帝国の皇子と婚約し、政治の道具となることなどアイギスにとって許されていいことではなかった。
しかもエリザベートの婚約の相手は、よりにもよってあの帝国で冷遇されている第七皇子のルクスだということだった。
どうやらエリザベートが帝国の森で命の危機に晒され、そこを助けたルクスにエリザベートが夢中になっているらしい。
「僕の妹を危険な目に合わせた上に、恩を打って取り入ろうとするとは…おのれ帝国の皇子め…!!!」
アイギスは、王女であるエリザベートが絶体絶命のピンチに陥り、そこへ助けにやってきた帝国の皇子とエリザベートが恋に落ちる…などという出来すぎた物語を信じるつもりはなかった。
これはエリザベートを陥れるために罠だと勝手に自分の中で決めつけた。
「父上に直談判だ…絶対にこの婚約を止めてみせる…!」
もはやアイギスの頭の中には、帝国と王国の間に円滑な協力関係が結ばれることの重要性など、そんなことは存在しなかった。
いかにしてエリザベートの婚約を阻止するか、そのことだけに囚われていた。
アイギスは、エリザベートの婚約を破棄させるために単身で王の間へと乗り込んでいった。
自らの父であり、この国の王であるハロルド・ブリターニャを説得するためだった。
「父上…!僕はこの結婚に反対……っ!?」
果たして、王の間へと乗り込んでいったアイギスの目に、信じられない光景が飛び込んできた。
愛しい妹であるエリザベートと第七皇子ルクスがキスをしようとしていたのだ。
「僕の妹に何をしようとしてんじゃこの無能皇子がぁあああああああ!!!」
アイギスはたまらず叫んでキスをしようとしている二人を阻止した。
そしてエリザベートの前でルクスを無能皇子だと罵り、ハロルドの説得を試みた。
だが結果は失敗に終わった。
一番婚約破棄に反対したのは、最愛のエリザベート本人だった。
「これ以上ルクス様を貶すようなことを言うのなら、お兄様なんて嫌いです!!!」
「ぐふぅ!?」
溺愛している妹にそう言われ、正直アイギスは心が折れそうになったのだが、しかしそれでもなんとか立ち直って食い下がった。
アイギスは絶対にエリザベートは騙されてい
ると思った。
エリザベートがルクスに抱いている気持ちも、一時の気の迷いだと信じて疑っていなかった。
「そんなに婚約に納得がいかないなら、二人で一騎討ちをして見せよ。そうすれば両者納得のいく結果が得られよう」
見かねたハロルドがそんなことを提案してきた。
ルクスをどうしてもペテンの無能皇子だと言い張るアイギスと一騎討ちをさせて、エリザベートを助けた実力が本物であることを証明すればいいと言うことだった。
ルクスはこれを快諾した。
アイギスにとっても悪い話じゃなかったため、この提案を飲んだ。
(無能皇子を完膚なきまでに打ち砕いて、幻滅させてやる…そうすれば妹も目を覚ますだろう…)
アイギスはルクスを完封し、妹の前で膝をつかせてやろうと思った。
そうすれば妹も騙されていたことに気づくだろうし、ルクスに対して幻滅すると思ったのだ。
かくしてアイギスはルクスと、王城の中庭で大勢に見守られながら一騎討ちをした。
そして完封負けを喫した。
剣聖と呼ばれ、剣の天才ともてはやされてきたアイギスはたった一発の攻撃すらもルクスに与えることはできなかった。
年下のルクスに、長年培われ、洗練された王国の誇りである魔剣術で挑んだのだが、全く歯が立たずに敗北を喫してしまった。
生まれて初めての完封負けだった。
地に膝をついたのは自分の方だった。
「きゃあっ!!やりました!ルクス様!!」
ルクスの勝利を喜ぶエリザベートを見ながら、アイギスは目の前が真っ暗になった。
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