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第三十四話
しおりを挟む吹き飛ばされたダストからもくもくと煙が立ち上る。
大惨事を避けるために威力を調整済みであるため、大怪我はしていないはずだ。
しかしダストの体はゆうに十メートルは吹き飛び、服の一部も消し飛んでしまっている。
とても戦闘続行可能な状態には見えない。
俺は審判の男の方を見た。
「あ、えっと、その…え…?あれ…?」
審判の男は戸惑ったように俺とダストを見比べた。
どうやら完全に想定外のことが起こってどうしていいかわからなくなってしまっているらしい。
「そんな…」
「こんなことって…」
「何が起こっているの…?」
「信じられない…」
「ルクスが……ダストを魔法で上回った…」
「あいつ…魔法の使えない無能ではなかったのか…?」
見物人である他の皇子や側室たちからは、驚きの声が聞こえてくる。
皆、てっきりダストが俺を一方的に打ち負かす展開になると思っていたのか、無傷で立っている俺のことを間抜けな顔で見つめてくる。
「もう勝負はついています」
いつまで立っても立ち上がらないダストを見て、俺は審判の男にいった。
「ダスト様は戦闘不能に見えます。早く勝負の判定をし」
「たちなさい!!何をやっているのダスト!!!!」
審判に向かって勝敗の宣言を促した俺の声を、金切り声が遮った。
「ダスト!!たつのよ!!!たちなさい!!私の声が聞こえないの!?!?」
「お、母様…?」
ダストの母親だった。
血走った目で、血に伏しているダストに立ち上がるよう怒鳴っている。
「あんな無能なんかにあなたが負けるなんて
許されていいはずがないわ!!!立ち上がりなさい!!立ってあの穢らわしい娼婦の子供をうちのめすのよ」
「ぐ、ぐぉおおおお…」
ダストが苦痛の声を上げながらも、なんとか立ち上がった。
そして立っているのもやっとのヨレヨレの状態ながら、必死に俺に魔法を放ってくる。
「ま、だん…魔弾…」
何発かの魔法が放たれた。
威力も、速度も話にならないレベルの。
もはや防御魔法を展開する必要性すら感じなかった俺は、少し体を動かすだけでダストの魔法を避ける。
ダストの魔法は虚しく俺の後方へと飛んでいき、地面に当たって霧散した。
「何をしているの!!」
ダストの母親が金切り声をあげる。
「さっさと無能皇子を倒しなさい!!」
「か、母様…でも…」
「早くしなさい!!!!」
プライドの高いダストの母親にとって、自らの手塩にかけて育てた息子が俺に魔法戦で負けるなどあってはならないことのようだった。
目を血走らせ、肩を怒らせ、息も絶え絶えになっているダストに、早く倒せと何度も怒鳴る。
「う、うわぁああああああああああ」
自らの母親に追い立てられたダストが、腰にさした短剣を引き抜いて俺に突進してくる。
「身体強化」
俺は王国でアイギスにならった身体強化の魔法を使用し、向かってくるダストの短剣を握る手に蹴りを喰らわせた。
ビシュ!!!!
「あだぁああ!?!?」
カランカランッ…
俺の蹴りは、ダストの手に見事命中。
ダストは短剣を取り落とす。
「ふん」
そのまま俺は、無防備となったダストの腹に、右拳を打ち込んだ。
ドシュ!!!
「おごぉ!?」
ダストが低い悲鳴をあげて白目を剥いた。
俺が右手を引き抜くと、そのまま地面に倒れ、ぴくりとも動かなくなる。
気絶してしまったようだ。
シーン…
静寂が周囲を包み込んだ。
俺は審判の男に、さっさと勝負の判定を下すよう顎で促した。
「しょ、勝者、第七皇子ルクス!!!」
審判の男が俺の右手をあげていった。
「いやあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
ダストの母親の絶叫が中庭に響き渡った。
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