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第四十六話

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「いや、流石に極端すぎるじゃろ、これは」

帝国魔法学校の理事長を務めるオズワルドは、とある受験生の入試結果を見て思わず声を出してしまった。

帝国魔法学校の奥まった場所にある理事長室。

たくさんの魔法書と過去の理事長の肖像画に囲まれた静謐な雰囲気の室内に、オズワルドの場違いな驚愕の声が反響する。

「なんじゃこれ……こんな合格の仕方をした受験生は前代未聞じゃ…」

オズワルドの手の中には、今年の帝国魔法学校入学試験の結果が記された書類があった。

例年に比べ高い合格率となった優秀な世代の名簿を、長いひげを撫でながら上機嫌で確認していたオズワルドは、とある受験生の点数を見て驚きのあまり思わず声を上げてしまったのだった。

その受験生の名前は、ルクス・エルド。

無能皇子と名高い帝国の第七皇子だった。

「何がどうなったらこうなるんじゃ…?ルクス皇子は実技試験に賭けておったのか?」

筆記試験0点。

実技試験満点。

それがルクスの入試の点数だった。

ここまで極端な点数で合格した受験生は、帝国魔法学校の歴史の中で未だかつて一人も存在していなかった。

帝国魔法学校の入試は、どちらかというと実技の方に重きを置いているため、筆記テストが0点だったルクスでも合格することが出来たのだが、それでも点数で考えれば合格ラインギリギリだった。

実技テストで満点の結果でなければ、ルクスは入学試験に落ちていただろう。

「まああのパペットを倒してしまうぐらいだからな。相当な自信があったのだろう」

実技試験第二段階で起こった出来事は、すでにオズワルドの耳にも入ってきていた。

試験官である魔法教師パペットが、何をとち狂ったのか、受験生であるルクス皇子に本気で魔法を使用したのだ。

さらにはその暴走したパペットを、魔法が不得手の無能皇子などと呼ばれていた第七皇子ルクスが、全くの無傷で打ち負かしてしまったのだ。

側で見ていた採点者からは、攻撃魔法の五重奏を使用したという報告も上がってきている。

信用していた魔法教師の唐突な暴走、そして受験生であるルクス皇子が五重奏魔法をもって暴走した魔法教師を無傷で倒したという、にわかには信じ難い報告の数々に、オズワルドはすぐにその事実を受け止めることが出来なかった。

幸いだったのはルクス皇子に怪我がなかったことと、このことは不問にすると寛大な処置を施してくれたことだろうか。

兎にも角にも、一歩間違えば帝国の皇子に取り返しのつかない大怪我を負わせてしまったかもしれない大変な事件を引き起こしてくれた魔法教師パペットを、オズワルドは問い詰めなければならなかった。

しかし、入学試験から数日後、意識を取り戻したパペットをオズワルドが問いただしてみても、「第一段階の試験の結果からルクス皇子の魔法の実力が他の受験生に比べて高いことがわかっていたのでついつい力が入ってしまった」などと要領の得ないことを言うばかりだった。

誰がどうみてもパペットは嘘をついていた。

だがオズワルドがどれだけ尋ねても、何かを隠すように同じ文言をくり返すだけだった。

結局事件の真相には至れなかったが、責任は取ってもらわなくてはならない。

オズワルドは、信用していたパペットにすっかり失望し、魔法教師の資格を剥奪し、帝国魔法学校から追放した。

そしてルクス宛に、帝国魔法学校の入学試験合格の通知と共に、今回の事件に関して、心からの謝罪の意と寛大な処置に対する感謝する旨の手紙を添えたのだった。

そして今日、実際に合格者の一人であるルクスの入試の点数を見て、オズワルドは初めてルクスの筆記試験の点数が0点だったことを知ったのだった。

「実技試験の点数が満点なのは、当然だとして……筆記試験が0点。最初から捨てていたとしか考えられない点数じゃな」

魔法が使えない出来損ないなどと呼ばれているルクスが今回入学試験を受けるということで、オズワルドはむしろルクス皇子は筆記試験にこそ力を入れてくるものだとばかり思っていた。

筆記試験ならば、知識を詰め込めば高得点を取ることができる。

魔法の不得意なルクス皇子は、実技試験はなかば捨て気味で、筆記試験にこそ力を入れてくるはずだとそう思っていたのだ。

だが実際にはその真逆で、ルクス皇子は筆記試験は0点、実技試験で満点を取ることにより入学試験を見事突破してみせた。

この結果を持って、オズワルドはルクス皇子にまつわる噂が完全に嘘だったことを知った。

「誰なんじゃ……十歳で帝国魔法学校の魔法教師を倒すほどの逸材を無能など呼んだのは……そう呼び始めたものこそが無能なのではなかろうか…」

本当かどうか定かではないが、十歳にして五重奏魔法を使える魔法使いなどオズワルドは未だかつて聞いたことがなかった。

実際に実技試験の現場にいたわけではないのでルクスの実力がどの程度のものなのか、正確にはわからなかったが、少なくとも帝国魔法学校の魔法教師の中でも魔法の腕前は優秀な部類に入るパペットを倒した時点で、どう考えても稀代の逸材には違いなかった。

ということは、ダスト第二皇子を一騎打ちで打ち負かした、王国で剣聖と呼ばれたあのアイギス第一王子との勝負に勝った、という最近広まりつつある噂も本当なのかもしれない。

「実際にこの目で見るのが待ち遠しいな。全く……皇族はとんでもない逸材を送り出してくれたな。一帝国民として、喜んでいいのか、はたまた心配しなければならないのか…」

ルクスがこれからどのような道を歩むのかはオズワルドには知る由もなかったが、ただ一つ言えるのは、ルクス皇子の台頭でますます帝国の次期皇帝の座をめぐる権力闘争が激化するだろうということだけだった。




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