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Chapter 3 初っ端なのに、ヤバい相手で。

scene 11

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 遠距離から、再び攻めを展開するゴーチェ。上と下からランダムに飛んでくる飛び道具を、大介のサラモンドは器用にかわす。

 しかし、実際にはガードをする機会も多く、体力は少しずつ削られていく。必殺技はガードしても体力が少し減ってしまう……というのは、これまた格闘ゲームと同じ仕様であった。

(残り10%か。ジリ貧だな)

 立って片手で使役盤を操作しているゴーチェの攻撃は、大介のそれと違って矢継ぎ早とはいかなかったが、そのタイミングは大介の想像を超えていやらしかった。特に遠間で放ってくる頭蓋骨は、こちらの突進技が届かない距離というのもあって、ガードする機会が多い。バグ・デ・シャロウでとりあえず避けよう、という発想もあったのだが、ちょうどそれを思いついたタイミングで頭蓋骨を手前へ落とされ、かなり大介の血の気を引かせた。

(あれ、逆に突進してたら喰らってたよな……あいつ、本当に格ゲー的な戦い方を知らないのか?)

 もう少し近づければ突進技が届く、その間合いを維持するのが、ゴーチェは上手かった。間合い取りは格闘ゲーム攻略の要のひとつであり、いかに自分の間合いを維持できるかが、そのまま上手さにつながるゲームも多い。

(クレールが強敵っていうだけのことはあるな。俺も命がかかってるんじゃなければ、こいつと長く遊んでいたいところなんだが)

 もはや彼の中では、これは幻獣使役ではなく格ゲーだった。
 大介は、体力の下にある数値、神通力を確認した。必殺技をひとつ使うたびに数%減るその数値は、50%消費することによって大技を繰り出すことが出来る。
 大介の神通力は83%。技のコマンドと性能は、先程クレールと模擬戦をする際に一通り説明を受けている。だから、少なくとも一回は大技が放てる状況ではあるのだ。

(あとは、それをぶちかますタイミングだが……)

 今は遠距離だ。技の内容にもよるが、この間合いで撃ったとしても容易にかわされるだろう。

(だが……こいつのゲージ消費技が本当に俺の思った通りの技なら、これだけ離れてても使えるはず……)

 大介は遠距離を耐えながら、そのゲージ消費技が使える瞬間を待った。
 しばらくは、じりじりとした展開が続いた。ゴーチェも大介も、慎重に間合いを探り、弾を撃つ。ルーナの弾は地を這うタイプで、見た目には空中を飛ぶフランバルと接触しなさそうに見えるが、互いに弾を撃った時にはちゃんとぶつかり、相殺が起こっていた。

(つーか、じいさん……弾の回転率あがってんな)

 大介に触発されたのか、黒い衝撃波の回数が増えるゴーチェ。相殺の発生も増えている。片手で操作しているはずなのに……いや、待て。もしかしたら、例の動く髪も駆使して使役盤を使っているのかもしれない。大介は疑惑を持ったが、展開の早まったピストから視線を外せず、確認することは叶わなかった。

 一方で、中断技の頭蓋骨は使用回数が限られてきた。どうやらこの技は、神通力の消耗が他の技より少し多い。
 神通力は時間経過とともに回復する他、相手にダメージを与えても増加する。ジリジリした中で弾を撃ちあう展開では、神通力は消費するばかりで回復が間に合わないと判断したのだろう。事実、ルーナの神通力はサラモンドより少なく、60%を切ろうとしている。

(いい展開だ)

 そろそろか、と身構える大介。そして、こっそりと神通力50%消費技、ブレット・デ・キャノンの使役紋を入力する。
 ゴーチェは、完全に無言になっていた。そして、少しだけ後ろに下がったところで、黒い地を這う衝撃波を撃つ

「そこだ、じいさん!」

 刹那、大介は叫び炎の効果円を押す。両掌を突き出したサラモンドが、より大きな火の玉を放つ。
 超高速でそれはルーナに向かっていく。途中にあったはずの衝撃波は、完全に立ち消えた。

「よっしゃ! 想定通り!」

 そのまま、ルーナはブレット・デ・キャノンを真正面から喰らい、大きく吹っ飛ぶ。ダメージも大きい。

「よしよし。じゃあここからは、安全第一でいくか」

 大介はそう言うと、その場に立ち上がった。もはや7%しかなかった体力が、14%に回復する。

「……あれ? 57%じゃないの?」

 こちらは想定外だった。座った時に減った体力が50%だったから、単純に立てば50%戻って来ると大介は考えていたのだが、完全に当てが外れた。
 しかしそれでも、今までの合計でルーナの体力を33%まで削り取った。一方で神通力は大きく減らしたが、今の大技のクリーンヒットを受けて結構回復している。ゲージ消費技を当てたらゲージを回復できる……と考えると、格闘ゲームとは似て非なるものを大介は感じる。

「ゲージの残量が増えたのはラッキーだけど……どうしよう、もう一回座ろうかな?」

 目線が浮つく大介。一瞬だけゴーチェが見えたが、髪の毛はそのままであった。あくまでも片手だけであの操作をしていたのか……適応力の早さは、大介も舌を巻いた。
 程なく、ルーナが立ち上がる。大介は慌ててピストへ視線を戻し、敵幻獣の起き上がりに弾を重ねる。

「……なるほど。だいぶ思ったのとは違う形ですが、あなたが神よりの使者である、というのはよく分かりましたよ」

 少し空恐ろしいほどの冷静さで、ゴーチェは言う。そして、

「……ん?」

 肩透かしを喰らい、声が出る大介。敵の魔族はおもむろに、幻獣をピストから撤退させたのだ。

「おい、なんだよあんた……」

「残念ながら時間切れです。私の足元にいる衛兵が、そろそろ目を覚ましてしまう。連れてきた手下は全員、そちらの女召喚士を取り押さえるのに使ってしまって、幻獣使役をしている私を護る部下がいない有様……準備不足のまま急いで来たツケですね」

「おい。おい、あんた……」

「あなたの戦術等は、また魔王様にご報告すると致しましょう。仕留め損ねた事はお叱りを受けるのでしょうが、まあ仕方ない、私の落ち度ですからね」

「おい、聞けって、おい。あんた、逃げるのかよ」

「もちろん。しばらくは魔窟にこもって、また使役盤とにらめっこの日々ですね。お礼申し上げますよ、神の使者殿。あなたのおかげで、いいリフレッシュが出来ました」

 好き勝手言った挙句、その場で空中に浮きだすゴーチェ。そして、黒く発光したと思うと、次の瞬間にはその姿を消していた。
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