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Chapter 4 レバーとボタンは、やっぱりマストで。

scene 14

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 城内に入った一同は、あまり広くない質素な部屋に通された。

「神の使者様をお通しするには……少々粗末じゃないですか?」

「何でそれを俺に訊くんだ?」

「まあまあ、まずは落ち着いて待とう。こいつの雑な風貌を見て、疑われたのかもしれんし」

 大介の恰好は依然、灰色のスウェットのままだ。

「さすがクレール! きっとそれだよ!」

「おー、そーだな」

「……こういう時怒らないのは、さすがだなお前」

 王城の内装とは思えない木製の椅子に座る一同。大介は頬杖をつくが、他のふたりは机に触れもせず、姿勢正しく黙って待った。
 育ちがいいな、と大介が言おうとした次の瞬間、待合室のドアが開いた。トーガをまとった中年が現れると、座ったばかりのアデラとクレールが勢いよく立ち上がった。慌てて大介がそれへ倣う。

「近衛官の、ユーグと申します」

 ゆっくりと、しかしながらよく通るはっきりとした声で、彼は言った。

「クグシボンに降臨された救世主、神の使者様でございますね? さっそくで恐縮ですが、陛下よりの願い出によりまして、ラテカ南門の復興に助力をお願いしたく存じます」

「あー、なんかそっちの方が大変だって話だったな」

 ユーグの言葉に理解を示す大介。だが、連れの女性ふたりは納得いかない様子であった。

「ま、待ってください、ユーグ様!」

 先に声をあげたのは、クレールだった。

「彼はまだ、こちらの世界に来たばかりで状況を完全に理解しておりません! 加えて、すでにあのゴーチェと一戦交え、生還したばかりです! まずはある程度英気を養ってもらった方が良いと、私は思います!」

 声こそあげていないが、アデラもしっかり首を縦に振る。ユーグはそれへ、やや冷たい目を向けて言った。

「もちろん、今日はこちらでゆっくり休んでいただきたいと思っている。救世主様に要望があれば、極力聞く用意もある……お前たちに口をはさまれる謂れはないぞ」

 丁寧な物言いながら、ねっとりとした嫌味めいたものが内に潜んでいる。クレールは不満を隠しきれない表情で押し黙った。

(あいつ……物を言う順番がなってねえな。そりゃ、クレールもつっかかるってもんだぜ)

 とは言え、話の内容自体は決してこちらにとって悪いものではない。

「……じゃあ、さっそくお言葉に甘えていいか?」

「無論にございます」

 こちらへ向き直るユーグ。表情に変化がほとんどなく、大介は彼へ、少しずつ苦手意識を膨らませていく。

「ふたつ頼み事をしたい。まずは俺が南門へ行くにあたり、このふたりを一緒に連れて行くことを許してほしい」

「え?」

 困惑の声はアデラがあげたものだった。クレールと顔を見合わせている。ふたりの顔は鏡のように同じ感情をあらわにしていた。

「それはまったく構いませんが……一体、何故でしょう?」

「いい歳してなんだけど、俺、結構人見知りなんだよ。だから、あまり案内役をコロコロ変えられるのは好きじゃねえんだ。思いっきりワガママ言ってる自覚はあるから、無理にとは言わねえけど……」

「いいえ、どのみち同行者の人選はしなければならないところでしたので。他ならぬ救世主様のご意向とあれば、むしろこちらとしても手間がひとつ省けたというもの」

「あ、いいんだ。……スマン、こんな簡単に通る話とは思ってなかったから、すげー勝手言っちまった」

「別に構わんよ」

「私も大丈夫です」

 確認をとる順番が完全にあべこべになっちまった。大介はバツの悪い思いをしたが、幸いふたりの機嫌は悪くなっておらず、ホッと胸をなでおろす。

「お前たち、後で所属を教えてくれ。代わりの人間を派遣する故な。……して、ふたつめの頼みとは?」

「ああ。この使役盤なんだけど、俺の使いやすいようにカスタマイズしてほしいんだ。こういうのって、誰に頼んだらいいのかな?」

 大介としては、どうしてもレバーとボタンで格ゲーっぽく使役盤を使いたかった。現実問題としてそれが叶うかどうかは分からなかったが、まずはどうしても一回、要望を通したかったのだ。
 大介の言葉を受け、ユーグは黙って腕を組む。しかし程なくそれをすぐに解くと言った。

「分かりました……もしよろしければ、今からでも時間をお作り致しますが?」

「お。なんだ、随分話が早いな」

「使役盤に関しては、王城の地下に研究所がございます。そこで希望をお伝えしていただければ良いかと存じます」

「ここから近いのか?」

「ご案内いたしますよ。……お前たちも来るか?」

「あ……すみません。私はウモス聖堂の者ですので……」

「ああ、そうか。じゃあ、お前は?」

 ……?
 アデラの言葉に大介が首を傾げる。浮ついたままキョロキョロすると、後で説明すると言いたげなクレールと目が合った。

(……ま、いっか。後で聞こう)

「私は同行します」

「心得た。では、お前はしばらくここで待て」

 アデラにだけ待合室に残るよう伝え、ユーグは大介とクレールを研究所へ案内する。
 しばらく真っすぐ行った後、階段を降りる一行。そしてしばらく廊下を歩き、曲がってまた階段を降りる。そしてまた歩いて、降りて、また降りて……

(いや、待てって。結構歩くぞ、コレ)

 心の中で愚痴をこぼす大介。もちろん、こちらからの申し出がきっかけの為、それを口に出すわけにもいかない。彼はただ黙って、ユーグの背中を追いかける。
 進むごとに、人とすれ違う回数が露骨に減った。地下へ降りた時点で、光源は窓から降り注ぐ日光から薄暗い蝋燭に代わっていたが、その蝋燭が置かれている間隔が進むほど広がっていき、暗さに拍車がかかっていく。

 振り返ると、クレールは無表情で大介の後をついてきている。彼女は無言のまま、顎で前へ向き直るよう促す。
 素直に従うと、目の前に大きな鉄製の扉があった。

「うぉっ! いつの間に?」

 暗がりのせいか、存在にまったく気が付いていなかった。よく見ると、ここは通路の行き止まりである。
 ユーグは扉をノックする。少し間を空けて、鍵の開く音がした。少しだけ開いた扉から、ユーグは中の人間とヒソヒソ話をする……が、すぐにこちらに向き直った。

「こちらが、使役盤の研究所です。わたくしはここでお待ちしておりますので、どうぞ中へお進みください」

 恭しく頭を下げるユーグ。大介はそれへ小さく会釈すると、扉の取っ手を持ち押した。
 意外とあっさり開く扉。大介は、すぐ後ろにクレールがいることを確認すると、扉の奥へ足を進める。

 後ろで盛大に扉の閉まる音がした。
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