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第0章 そのザマァ、本当に必要ですか?

第5話 最愛の婚約者

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「エーリック様!」

 鈴を転がすような声がエーリックの耳を打つ。

 四阿ガゼボまで暗い感情を引きずっていたエーリックの気分が一気に晴られた。

「ウェルシェ!」

 それは最愛の婚約者のもの。

 居ても立っても居られなくなったウェルシェが四阿ガゼボを飛び出し、エーリックに走り寄ってくる姿が見えた。

 妖精のように可憐な婚約者にエーリックも喜色を隠さず、満面の笑みでウェルシェに駆け寄りそのまま抱き締めた。

「ウェルシェ、君にずっと会いたかったんだ」
「私もですエーリック様……」

 二人は互いの温度を噛み締めるように確かめ合う。

 しばし愛しの婚約者に包まれて陶酔していたが、ウェルシェはエーリックの胸に埋めていた顔を上げた。

「……ですが、このところエーリック様はお忙しくしてらして、全然お会いできないんですもの」

 私とても寂しかったんです、と愛しい婚約者に少し恨みがましい目で睨まれて、エーリックはむしろデレっとだらしなく相好そうごうを崩し悶えてしまった。

 上目遣いでのうえ恨み言がいじらしく、ウェルシェのあまりの可愛さに心臓を射抜かれてしまったのだ。

「ごめんよウェルシェ……僕も寂しかったけど、城内がごたごたしていて時間が取れなかったんだ」

 これは事実である。

 オーウェンの婚約破棄は高位貴族の子息である側近達も巻き込んでおり、騒動の波紋があちらこちらに飛び火したのだ。

 実はエーリックも事情聴取を受けていた。

 それと言うのもオーウェンの浮気相手である男爵令嬢アイリス・カオロが、見目の良い貴族子弟に馴れ馴れしく絡むとんでもない女で、エーリックも学園で幾度となく声を掛けられたからだ。

 しかも、オーウェンはイーリヤを断罪する際にエーリックにも協力を求めてきた。

 もちろんエーリックは断ったし、馬鹿な真似は止めるように忠告もした。

 しかし、オーウェンやアイリスと話しているのを大勢の者に目撃されていたエーリックにも嫌疑がかかったのである。

(僕は無関係だって何度も言っているのに!)

 この尋問で拘束されていた彼は婚約者に会いたくとも会えなかったのである。

「ふふっ、冗談です」

 困り顔のエーリックに悪戯っぽく笑う可愛いさと、「分かっております」と事情を汲んでくれるウェルシェの優しさにエーリックは何度も恋に落ちるのだ。
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