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第8章 そのザマァ、本当に必要ですか?

第88話 腹黒い小悪魔と黒い悪魔

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「あらあら、エーリック様、大丈夫かしら?」

 見た目詐欺のウェルシェからお色気攻撃を不意打ちで食らい、エーリックがフラフラと地に足がつかない状態で帰っていく。

 それを見送りながらウェルシェはくすくす笑った。

「あれはやり過ぎだったのではありませんか?」

 ウェルシェがチラリと背後を見やれば、カミラが半眼ジト目を向けていた。

「ん、何の事?」

 だが、ウェルシェは頬に右手を添えて可愛い仕草ですっとぼける。

「そんな可愛い子ぶっても私には無意味ですよ」
「むぅ、カミラも可愛いの好きでしょ?」

 ウェルシェが口を尖らせるが、そんな子供っぽい態度も愛らしく、同性であってもくらりときそうだ。

「小さい頃はお嬢様はお可愛らしくモノホンの妖精でございましたのに……」

 カミラはハァっとため息を吐き出して、どこで間違ったのかと嘆いた。

「何よ、今だって私はカワイイわよ。学園じゃ『妖精姫』って呼ばれてるんだから!」

 みんなから背中に美しい羽根が見えるって言われてるんだからと、カミラの前でウェルシェはクルリと回って見せた。

 拍子にふわりとスカートが舞う姿は、とても幻想的で絵本から美しい妖精が出てきたよう――

「最近の妖精にはコウモリの羽と悪魔の尻尾が生えているとは存じ上げませんでした」

 ――だが、物心ついた頃より傍にいたカミラには妖精の皮の下に隠しているウェルシェの本性はバレバレである。

「それに胸を押し当てるのは少々破廉恥ではありませんか?」
「頑張ったエーリック様にちょっとしたご褒美くらいいいじゃない」

 淑女の在り方についてたしなめるカミラに対してウェルシェは悪びれる様子もない。

「お嬢様の巨乳それは殿方には凶器なんですよ。特に純情な殿下には強烈過ぎます」
「殿方ってこういう意外性ギャップが好きよねぇ」

 先程のエーリックのオタオタぶりを思い出してウェルシェはケタケタ笑った。

「あんまり揶揄からかうのは可哀想ですよ」

 もて遊ばれている純情ボーイエーリックが憐れでならない。

「それに、不用意に刺激していたら羊の王子様でも狼に変わりかねません。少しお気をつけてくださいませ」
「あれくらいなら大丈夫じゃない?」
「お嬢様はご自分の魅力値の高さを見誤っているので少し心配です」

 今回の騒動、元はと言えばウェルシェが男子生徒を無意識に魅了しまくったのが発端だ。カミラとしては主人に己がどれだけ男達を惑わせているか自覚してほしい。

「お嬢様が一人の男性を魅了すると百人の男性が惑わされるんですよ」

 頭痛がするような気がしてカミラはこめかみを押さえた。

「まるで台所の黒い悪魔みたいね」

 そう言ってケタケタ笑うウェルシェにカミラは刺すような冷たい視線を向けるのだった。
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