華燭の城

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 部屋に戻り、シュリをベッドに横たえると、
「すまない……」
 薄く目を開けたシュリが小さく呟いた。

 シュリの脳裏には、あの、ラウとガルシアの行為が焼き付いている。

「私の身代わりに……。 
 ……あんな、おぞましい事を……」

 閉じた瞳の端から、後悔と謝罪の涙が零れ落ちる。

「シュリ様、あれは、もうずっと昔……15年も前からの事。
 シュリ様のせいではありません。
 私のような者のために、涙など……」

「ラウ……」

 やはり自分の思った通りだった……。
 ラウは子供の頃から、ああやってガルシアに……。
 そして、その脚までも……。

 シュリは悔しさで何も言えなくなった。
 何を言っても、どんなに多くの慰めの言葉を連ねても、それはあまりにも軽過ぎる気がしたからだ。

「シュリ様、 私の事はお気になさらず……と申し上げたはず」

 そう言いながらラウは、鞭とナイフで裂かれたシュリの体の手当を始める。
 シュリはその痛みに、黙ったまま唇を噛んだ。

 自分にはラウがいる。
 こうして手当ても……。
 だが幼かったラウは……。
 今までどうやってこの痛みをしのいできたのか……。
 ずっと一人で耐えてきたのか……。
 それなのに……。
 そのラウに、自分の身代わりをさせた……。
 
 そう思うと居た堪れなくなった。
 もう二度とあんな事は……。

「ラウ……」
 消毒を続けるラウの手に、自分の手を重ねた。

「痛みますか? もう少しです、辛抱して下さい。
 あとは包帯を……」

「……教えて欲しい」

 その言葉に、ラウが不思議そうにシュリの顔を見た。

「何を……ですか?」

「二度とお前を、私の身代わりになどさせない……。
 だから……」

 ラウの手がピタリと止まった。

「シュリ様、私にできる事は何でもいたします。
 ですから先程の事は、もうお忘れに」

「ダメだ。
 私がやらなければ、お前はまたガルシアに……。
 頼む教えてくれ。
 いや……教えろ。
 これは皇子としての命令だ」

「……命令……」

 その言葉に少し驚いた表情を見せたラウは、そのまま何も言わずシュリの手当てを続けていたが、しばらくすると溜息のようにフッと小さく息を吐いた。

「……今までにあのようなご経験は?」

「まさか……。
 あるわけがない……」

 シュリが目を逸らす。

 包帯を巻き終え、残った薬を片付けながら、
「ですね……」
 と、ラウは一瞬考えるように言葉を切った。

「それでは……失礼いたします……」

 そう言うとベッドへと上がり、横たえていたシュリの身体をそっと抱き起こした。
 包帯の巻かれた背中にクッションを挟み座らせる。

「傷は痛みませんか?」

 正面からラウに見つめられた。
 少し蒼いラウの頬に一筋、ガルシアの鞭痕が赤を引き、それはゾクリとするほど美しい。

「大……丈夫だ……」 

 その声にラウは小さく頷くと、
「何も知らなければ 真似さえできません」

 シュリの腰まで掛かっていた上掛けをゆっくりと剥いでいく。

「ラウ、なにを……」

「これから私がすることをよく見て、覚えてください。
 恥かしがらず、言う通りに……」

「……でも……」

 ラウの言葉に、引き下げられていく上掛けを指先で引き止め、視線を外した。

「……ならば……せめて、灯りを…………」

「いけません、見ていなければ」

 強い口調にシュリの指が震える間に、ラウは上掛けを全て奪い去り、自分の身体をシュリの足元に置いた。
 
 一糸纏わぬシュリの体。
 そこに巻かれた包帯が透き通る肌に痛々しい。


「脚を開いて」
 ラウの静かな声が告げた。
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