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「シュリ!」
ラウも思わず叫んでいたが、自分も腕を取られ身動きができず、隣で今にも痛みに崩れ落ちそうなシュリを、ただ見つめることしかできなかった。
「ガルシア! 卑怯だぞ! シュリを放せ!
お前の事は全て調べがついている! もう諦めろ!」
そんな二人を見ながらナギが叫ぶ。
「ほう……。
いきなり人の城に無理矢理踏み込んでおいて、よくそのような事が言えますな。
いくら帝国皇太子とは言え、余りにも非礼ではありませんか。
こちらとしては、それなりの謝罪をいただきたいところですよ。
それにいったい、何を調べ、何を諦めろと言われているのか、さっぱり」
ガルシアが余裕の笑みで応える。
「神国に攻め入り、国王一家と民を人質にして、シュリを連れ去っておきながら、よくもそんな事を!
その後の……シュリへの仕打ちも全て調べはついている!
大人しく俺の言う通りにしろ!」
「殿下、それはオモシロイお伽話ですな。
しかし、いくら帝国皇太子と言えど、この大国の王に向かってそのような事を言うからには、何か確たる証拠でもあるのですかな?
もし、何の証拠も無く、殿下お一人の考えで暴走されているのでしたら、私も黙っておくわけにはいきません。
帝国全体への信用問題と成り得ますぞ?
これはもう貴方お一人の問題では済まされない。
御父上の立場を考えた事がお有りで?」
ガルシアは、この程度の挑発でナギが怯むとは思っていない。
だが、この近衛軍……いや、いずれ帝国そのものを討つにしても、後々困らぬだけの大義が要る。
力づくでいきなり門を破られた。
濡れ衣を着せられ冒涜された。
そういう理由付けも、段階を踏んで手抜かりなくやっておくことが必要なのだ。
「私が証明する!」
だがガルシアの思惑に反して声が上がる。
近衛隊の後ろから聞こえたその声に、シュリはハッと顔を上げた。
それは聞き慣れた声だった。
懐かしささえ感じる。
幼少の頃からずっと傍にあった、ずっと聞いて育ったその声……。
痛みで霞む視界に、初老と言っていい程の年齢の男が映っていた。
……ジ……ル……。
「シュリ様ぁッ!」
ナギの近衛に守られるようにして前へと進み出たのは、神国の侍従長ジルだった。
ジル……!
どうしてお前までこんな所へ……!
来てはダメだ!
塞がれたままの口で言葉にする事が出来ず、シュリは必死に首を振る。
「シュリ様ッ!
……! 大丈夫ですか!
お前達! シュリ様に対してなんという扱いを! 無礼だぞ!
すぐに解放して差し上げろ!
神国でお前達がやった事は全て私が証言する!」
男達に後ろ手にされ、押さえ付けられるようにして捕えられているシュリの姿に、老人とは思えない程の迫力で叫んだ。
「わ、わたしも……証言す……するからな……」
気丈に叫ぶ老人――ジルを前に、遅れをとってはマズイ……とでも思ったのか、次に近衛の垣の中からおずおずと前に歩み出たのは、あの西国の男だ。
その姿にガルシアも、少なからず驚きの表情を見せる。
「ほうー……。お前までワシを裏切る度胸があったとは驚きだな。
お前……自分が今やろうとしている事の意味が判っているのか?
神を悪魔に貶めたその報い、受ける覚悟があるのだな?」
「な……何を……」
男の歩む足が止まった。
膝が震えて歩けなくなったのだ。
ナギは自分の隣に立つヴィルへチラと視線を向け、後ろにいる十数名の近衛達を、墓地から出すように促した。
ガルシアの後ろは断崖絶壁。
入り口さえ固めておけば、もう逃げ場はない。
そしてそれ以上に、シュリの身体の事を、大勢に知られたくはなかったのだ。
ヴィルの指示で近衛達は静かに下がり、残った帝国側はナギとヴィル、ジルと男の四人だけになる。
今まで自分を守っていた近衛が下がって行くのを見て、西国の男はひどく怯えた表情をみせた。
だがそこで渾身の力を振り、もう一歩……前へと踏み出す。
どちらにつけば得か……そんな事を考える余裕さえもない。
声をあげてしまった以上、もう引けぬのだ。
「さ……最初から私を……!
帝国に売るつもりでハメたのはお前だろう! ガルシア!
私は、お前に唆され、騙され、利用されただけ!
ナギ殿下には、もう全てをお話ししたぞ!
優しい殿下は、御咎めなしと、判って下さった!」
「咎め無しだと……?
馬鹿野郎が! ハメたのはその小僧だ!
お前はその小僧に騙されているのが、わからんのか!」
ラウも思わず叫んでいたが、自分も腕を取られ身動きができず、隣で今にも痛みに崩れ落ちそうなシュリを、ただ見つめることしかできなかった。
「ガルシア! 卑怯だぞ! シュリを放せ!
お前の事は全て調べがついている! もう諦めろ!」
そんな二人を見ながらナギが叫ぶ。
「ほう……。
いきなり人の城に無理矢理踏み込んでおいて、よくそのような事が言えますな。
いくら帝国皇太子とは言え、余りにも非礼ではありませんか。
こちらとしては、それなりの謝罪をいただきたいところですよ。
それにいったい、何を調べ、何を諦めろと言われているのか、さっぱり」
ガルシアが余裕の笑みで応える。
「神国に攻め入り、国王一家と民を人質にして、シュリを連れ去っておきながら、よくもそんな事を!
その後の……シュリへの仕打ちも全て調べはついている!
大人しく俺の言う通りにしろ!」
「殿下、それはオモシロイお伽話ですな。
しかし、いくら帝国皇太子と言えど、この大国の王に向かってそのような事を言うからには、何か確たる証拠でもあるのですかな?
もし、何の証拠も無く、殿下お一人の考えで暴走されているのでしたら、私も黙っておくわけにはいきません。
帝国全体への信用問題と成り得ますぞ?
これはもう貴方お一人の問題では済まされない。
御父上の立場を考えた事がお有りで?」
ガルシアは、この程度の挑発でナギが怯むとは思っていない。
だが、この近衛軍……いや、いずれ帝国そのものを討つにしても、後々困らぬだけの大義が要る。
力づくでいきなり門を破られた。
濡れ衣を着せられ冒涜された。
そういう理由付けも、段階を踏んで手抜かりなくやっておくことが必要なのだ。
「私が証明する!」
だがガルシアの思惑に反して声が上がる。
近衛隊の後ろから聞こえたその声に、シュリはハッと顔を上げた。
それは聞き慣れた声だった。
懐かしささえ感じる。
幼少の頃からずっと傍にあった、ずっと聞いて育ったその声……。
痛みで霞む視界に、初老と言っていい程の年齢の男が映っていた。
……ジ……ル……。
「シュリ様ぁッ!」
ナギの近衛に守られるようにして前へと進み出たのは、神国の侍従長ジルだった。
ジル……!
どうしてお前までこんな所へ……!
来てはダメだ!
塞がれたままの口で言葉にする事が出来ず、シュリは必死に首を振る。
「シュリ様ッ!
……! 大丈夫ですか!
お前達! シュリ様に対してなんという扱いを! 無礼だぞ!
すぐに解放して差し上げろ!
神国でお前達がやった事は全て私が証言する!」
男達に後ろ手にされ、押さえ付けられるようにして捕えられているシュリの姿に、老人とは思えない程の迫力で叫んだ。
「わ、わたしも……証言す……するからな……」
気丈に叫ぶ老人――ジルを前に、遅れをとってはマズイ……とでも思ったのか、次に近衛の垣の中からおずおずと前に歩み出たのは、あの西国の男だ。
その姿にガルシアも、少なからず驚きの表情を見せる。
「ほうー……。お前までワシを裏切る度胸があったとは驚きだな。
お前……自分が今やろうとしている事の意味が判っているのか?
神を悪魔に貶めたその報い、受ける覚悟があるのだな?」
「な……何を……」
男の歩む足が止まった。
膝が震えて歩けなくなったのだ。
ナギは自分の隣に立つヴィルへチラと視線を向け、後ろにいる十数名の近衛達を、墓地から出すように促した。
ガルシアの後ろは断崖絶壁。
入り口さえ固めておけば、もう逃げ場はない。
そしてそれ以上に、シュリの身体の事を、大勢に知られたくはなかったのだ。
ヴィルの指示で近衛達は静かに下がり、残った帝国側はナギとヴィル、ジルと男の四人だけになる。
今まで自分を守っていた近衛が下がって行くのを見て、西国の男はひどく怯えた表情をみせた。
だがそこで渾身の力を振り、もう一歩……前へと踏み出す。
どちらにつけば得か……そんな事を考える余裕さえもない。
声をあげてしまった以上、もう引けぬのだ。
「さ……最初から私を……!
帝国に売るつもりでハメたのはお前だろう! ガルシア!
私は、お前に唆され、騙され、利用されただけ!
ナギ殿下には、もう全てをお話ししたぞ!
優しい殿下は、御咎めなしと、判って下さった!」
「咎め無しだと……?
馬鹿野郎が! ハメたのはその小僧だ!
お前はその小僧に騙されているのが、わからんのか!」
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