華燭の城

文字の大きさ
上 下
183 / 199

- 182

しおりを挟む
「シュリ!」

 ラウも思わず叫んでいたが、自分も腕を取られ身動きができず、隣で今にも痛みに崩れ落ちそうなシュリを、ただ見つめることしかできなかった。

「ガルシア! 卑怯だぞ! シュリを放せ!
 お前の事は全て調べがついている! もう諦めろ!」
 
 そんな二人を見ながらナギが叫ぶ。

「ほう……。 
 いきなり人の城に無理矢理踏み込んでおいて、よくそのような事が言えますな。
 いくら帝国皇太子とは言え、余りにも非礼ではありませんか。
 こちらとしては、それなりの謝罪をいただきたいところですよ。
 それにいったい、何を調べ、何を諦めろと言われているのか、さっぱり」
 
 ガルシアが余裕の笑みで応える。

「神国に攻め入り、国王一家と民を人質にして、シュリを連れ去っておきながら、よくもそんな事を!
 その後の……シュリへの仕打ちも全て調べはついている!
 大人しく俺の言う通りにしろ!」
 
「殿下、それはオモシロイお伽話はなしですな。
 しかし、いくら帝国皇太子と言えど、この大国の王に向かってそのような事を言うからには、何か確たる証拠でもあるのですかな?
 もし、何の証拠も無く、殿下お一人の考えで暴走されているのでしたら、私も黙っておくわけにはいきません。
 帝国全体への信用問題と成り得ますぞ?
 これはもう貴方お一人の問題では済まされない。
 御父上の立場を考えた事がお有りで?」

 ガルシアは、この程度の挑発でナギが怯むとは思っていない。
 だが、この近衛軍……いや、いずれ帝国そのものを討つにしても、後々困らぬだけのが要る。
 
 力づくでいきなり門を破られた。
 濡れ衣を着せられ冒涜された。
 そういう理由付けも、段階を踏んで手抜かりなくやっておくことが必要なのだ。


「私が証明する!」
 
 だがガルシアの思惑に反して声が上がる。
 近衛隊の後ろから聞こえたその声に、シュリはハッと顔を上げた。

 それは聞き慣れた声だった。
 懐かしささえ感じる。
 幼少の頃からずっと傍にあった、ずっと聞いて育ったその声……。
 
 痛みで霞む視界に、初老と言っていい程の年齢の男が映っていた。

 ……ジ……ル……。

「シュリ様ぁッ!」

 ナギの近衛に守られるようにして前へと進み出たのは、神国の侍従長ジルだった。

 ジル……!
 どうしてお前までこんな所へ……!
 来てはダメだ!

 塞がれたままの口で言葉にする事が出来ず、シュリは必死に首を振る。

「シュリ様ッ!
 ……! 大丈夫ですか!
 お前達! シュリ様に対してなんという扱いを! 無礼だぞ!
 すぐに解放して差し上げろ! 
 神国でお前達がやった事は全て私が証言する!」

 男達に後ろ手にされ、押さえ付けられるようにして捕えられているシュリの姿に、老人とは思えない程の迫力で叫んだ。

「わ、わたしも……証言す……するからな……」

 気丈に叫ぶ老人――ジルを前に、遅れをとってはマズイ……とでも思ったのか、次に近衛の垣の中からおずおずと前に歩み出たのは、あの西国の男だ。

 その姿にガルシアも、少なからず驚きの表情を見せる。

「ほうー……。お前までワシを裏切る度胸があったとは驚きだな。
 お前……自分が今やろうとしている事の意味が判っているのか?
 神を悪魔におとしめたその報い、受ける覚悟があるのだな?」

「な……何を……」

 男の歩む足が止まった。
 膝が震えて歩けなくなったのだ。

 ナギは自分の隣に立つヴィルへチラと視線を向け、後ろにいる十数名の近衛達を、墓地から出すように促した。

 ガルシアの後ろは断崖絶壁。
 入り口さえ固めておけば、もう逃げ場はない。
 そしてそれ以上に、シュリの身体の事を、大勢に知られたくはなかったのだ。
 ヴィルの指示で近衛達は静かに下がり、残った帝国側はナギとヴィル、ジルと男の四人だけになる。

 今まで自分を守っていた近衛が下がって行くのを見て、西国の男はひどく怯えた表情をみせた。
 だがそこで渾身の力を振り、もう一歩……前へと踏み出す。
 どちらにつけば得か……そんな事を考える余裕さえもない。
 声をあげてしまった以上、もう引けぬのだ。

「さ……最初から私を……!
 帝国に売るつもりでハメたのはお前だろう! ガルシア!
 私は、お前にそそのかされ、騙され、利用されただけ!
 ナギ殿下には、もう全てをお話ししたぞ!
 優しい殿下は、御咎めなしと、判って下さった!」

「咎め無しだと……? 
 馬鹿野郎が! ハメたのはその小僧だ!
 お前はその小僧に騙されているのが、わからんのか!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

調教専門学校の奴隷…

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:236

片翅の蝶は千夜の褥に舞う

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:176

犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~

BL / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:72

ドSな俺複数の従者を飼う

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:88

淫獄の玩具箱

BL / 連載中 24h.ポイント:2,393pt お気に入り:42

ノンケの俺がメス堕ち肉便器になるまで

BL / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:1,577

おしっこ8分目を守りましょう

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:81

カントボーイ専門店でとろとろになるまで愛される話

BL / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:474

処理中です...