メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
20 / 234
岩の惑星ラックスフェルン

しおりを挟む
「お疲れ様です。大津さん」

 戦いを終えた修也をジョウジは丁寧な口調で労った。普段ならばここで修也もお礼の言葉を返すはずだ。

 しかし今の修也は疲労で手一杯だった。修也はやっとの思いで『メトロイドスーツ』を解除し、それをカプセルの中へと収納していった。そして戦闘によって蓄積した疲労を抑えることはできず地面の上へと無惨にも倒れ込んだ。

「……これはいけない。誰か! 手を貸してくださいッ!」

 ジョウジの呼び掛けを聞いて周りにいた兵士たちが集まっていった。

 兵士たちは修也を自分の手で運び上げていくと、乗ってきた宇宙船の中へと運び込んでいった。四人がかりで丁寧に運んでいった修也は宇宙船の中に設けられた病室の中へと寝かされた。

 病室というだけのことはあって中央に置いてあるベッドの上には清潔な白色のシーツが敷かれている。枕も掛け布団も先ほど消毒したばかりのように清潔だ。真っ白な床と壁は安心感さえ与えた。

 地獄のような戦いから生還した修也は一度は目を覚ましたものの、安堵感から再びベッドの上で眠りについた。ゆっくりと寝息を立てていき、これまでの疲れを癒すかのように彼は眠りこけていた。

 ようやく目を覚ましたのは半日後であったそうだ。眠っていたベッドの側にパイプ椅子に腰掛けてこちらを見つめていたカエデとジョウジからそう聞かされた際には思わず驚いたものだ。

 余談ではあるが、この時に新しく総督に就任した実長な男との交渉が円滑に進んだそうだ。

 今ではメトロポリス社から運んできたいくつかの娯楽品の他に復興に必要な物資、そして減った人口を補うために地球から新しい人を呼ぶための宣伝の約束と引き換えにルビー数トンを交換したらしい。あの巨大な一枚岩の上に停止している宇宙船の中に運んでいる最中であるそうだ。

「そ、そうでしたか、半日も眠っていたんですね。それから皆様、本当にお疲れ様でした」

「構いませんよ。私の役目はもともと交渉と通訳ですので。それよりもあなたが半日も眠っておられたお陰で出発は明日になりました。これで次の目的地であるラックスフェルンに行く日程が更にまた一日遅れることになります」

「す、すいません」

「私に謝ってもらっても仕方がありません。それよりも大津さんは体を治すことだけに集中してください」

 ジョウジの言葉は心配から出たものではないということは冷徹な目でこちらを見下ろしている様子から見て取れた。
 体が治らなければ次の目的地にいけないという計算から出たものなのだ。
 人間そっくりに作られていたとしても所詮はアンドロイド。情などあるわけがなかった。

 修也は苦笑しながら両目を閉じた。そしてまた寝息を立てて夢の世界へと旅立っていった。
 たっぷりと眠ったこともあって翌日は心地良く目を覚ました修也であったが、一息を吐く暇もなく宇宙船の中へと乗り込んだ。

 ジョウジは無線装置を操作して地球に居たフレッドセンと連絡を取り合っていた。

『そうでしたか。そんなことがあったのですね』

『はい、本当に申し訳ございません」

『時間が掛かってしまったことに関しては仕方がありません。ですが、次はなるべく余計なトラブルに首を突っ込むことなく、手短に交渉を済ませてくださいね』

「……はい。本当に申し訳ありません」

 ジョウジはホログラフとして映る小さなフレッドセンに対して一礼を行った。

 同時にフレッドセンの姿が消えていった。ホログラフのフレッドセンが消えると、しばらくの間は無言で次の惑星へ行くための準備を進めていたジョウジであったが、やがて次の惑星をスクリーンに映していった。

 地球と同様に生命の息吹きの象徴ともいえる海の姿が見えたが、地球と異なるのは星の北と南に巨大な岩が設置されていることや巨大な大陸のところどころに緑が欠けているところだろう。

 草木が生えていない分は岩ばかりの地帯が続いているそうだ。それ故にラックスフェルンは地球から岩の惑星だと呼ばれていた。

「あそこが我々の新しい目的地です。通常岩の惑星と呼ばれる星です」

「い、岩の惑星ですか?」

 修也が困惑した様子で問い掛けた。

「はい。岩の惑星ラックスフェルンはポーラとは異なり、植民惑星ではありません。先住民の方が住まれており、地球の各国政府もインドネシアの北センチネル島のようにあくまでも放っておこうという考えで一致しております」

「そんな星に我々がお邪魔しても構わないのでしょうか?」

「もちろん本来ならばNGです。彼らの文化を壊すことになりますからね。ですが、社長の根回しによって彼らの文化を壊さない程度のものならば可能ということです」

「たとえば?」

「紙の皿などの土に埋めれば溶ける消耗品や食料などの消えてしまい歴史に残らないようなものです。もちろん、プラスチックの包装などは絶対に渡してはなりません。我々の手で破ってから直接手渡しすることになっています」

 ここまで徹底していると本当にタイムトラベラーになったような心境だ。
 歴史を勝手に変えてしまうというのは重罪であると古今東西のSF小説や漫画では言われているが、実際にそうなのかもしれない。

 修也が運転席の上で唸っていると、宇宙船はラックスフェルンの中へと落ちていった。

 ラックスフェルは地球と同等の重力があるらしく、ポーラの時と同様に凄まじい力で引っ張られることになった。
 修也は恐怖心に駆られながらもなんとか座椅子のロックを掴んで叫ぶ声を押し留めた。

 無事に宇宙船はラックスフェルンへと着陸したらしい。宇宙船の周りには一般の樹木よりも何倍も大きくて太い木が並んでいるのが見えた。どうやら二人は宇宙船を森の中心部に着陸させたらしい。

 まだ椅子の上で恐怖心に駆られて頭を両手で抑える修也に対してジョウジとカエデの両名はアンドロイドというだけのこともあって宇宙船が引っ張られている間も眉一つ動かそうとしなかった。

 人間であるのならばあり得ない行動である。宇宙船が着陸してもまだ椅子の上で震えていた修也とは対照的であった。
 カエデは眉一つ変えずに冷静沈着に宇宙船の荷物部から圧縮された商品が詰め込まれたショルダーバッグを取り出していた。

 二人はそんな修也を引っ張り上げてラックスフェルンの中へと降ろしたのだった。

 用心のため修也は最初から用心のために『メトロイドスーツ』を着用して生活圏と思われる森の中を進むように指示を出された。

 修也は『メトロイドスーツ』の兜からラックスフェルンの森の中を観測していた。
 ラックスフェルンの森に生えている樹木は地球の樹木と比較しても分厚いものだった。

 修也が知っている樹木の中で一番太いのは檜の木だ。修也が地球にある日本の東京都、町田に建てた一軒家の大黒柱は大工からの薦めで檜を使っている。

 薦められた際に修也の家の建築を担当した大工から実際に映像を通して自然に生えている檜の木を見せてもらったが、檜の木は本当に太くて大黒柱にするには最適な木であったことはいうまでもない。

 しかしこの惑星に生えている木々は一番細い木であったとしても映像で見た檜の木よりも三倍とは思えるほどの太さが特徴的だった。
 加えて古い冒険映画に登場する木のように曲がった植物がどの木にも巻き付いていることが特徴的だ。

 と、その時だ。修也に向かって動物のような鋭い牙を生やした植物が修也に向かって襲い掛かってきた。











すいません。本日は投稿可能です。ですが、ここ最近は不安定ですのでどこで途切れる可能性があるかもしれません。
改めてお詫びの言葉を述べさせていただきます。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...