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開発惑星『ベル』
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しばらくの間、両者は一色触発という状態にあった。
だが、目の前にいた男が図々しくも笑顔を浮かべて友だちのように馴れ馴れしく近付いてきたことによってその状態は消滅することになってしまった。
「こんにちは。大津さん」
その男は幼稚園児に笑い掛ける若い保育士の男性のように明るくて大きな声で言った。
「こ、こんにちは」
すっかりと恐怖の感情に囚われていた修也は表情が彫刻のように固くなっていた。どうして目の前にいる男は自分の名前を知っているのだろうか。教えた記憶はない。
思えば自らの手で撃ち殺したグレン星人もそうだった。思わず身震いした修也に顔を近付けながら言った。
「いや、今の場合はこんばんはって言うのかなぁ。まぁ、こんな星だから日付なんてあってないようなものだよねー」
どこか人を食ったような話し方だ。修也はそれが気に入らなかった。
「ところでキミは誰かね? 私はキミのような若い友だちはいないのだが……」
「オレ? あっ、そっかー。自己紹介してなかった。おれの名前はソグ。ラーガレット星の住民さ」
ソグと自らを呼んだ異星の青年は自身を親指で指差しながら言った。
「ラーガレット星? グレン星とは違う星なのか?」
「その通り、ただしうちの星はグレン星と同じで惑星連合に所属しているんだけどね」
修也が撃ち殺したグレン星人の言葉が正しければ『惑星連合』には他の銀河系からの参加者も含めて五百の惑星が加盟しているらしいのでラーガレット星が加盟していてもおかしくはなかった。
修也が納得した顔を浮かべていると、目の前のソグは相変わらずニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ねぇ、大津さん。あんたは今ようやくグレン星の戦闘用ロボ『アストロン』を倒したばかりでさぞかしお疲れの状態にあるよね?」
「そ、それがどうかしたのか?」
修也は声を震わせながら問い掛けた。
「もし、今ここでオレが妙なことをしたら大津さんは終わりだよねぇ」
「な、何を言っているんだッ!」
修也が声を荒げるのとソグが懐から筒のような銀色の何かを取り出すのはほぼ同じだった。既に目と鼻の先の距離に迫っていたソグはその筒にあったと思われるボタンを修也の前で押していった。
すると筒が開き修也に急激な眠気が襲っていった。修也はたちまちのうちに耐え切れなくなってしまい地面の上に倒れ込んだ。
意識が遠のいていく修也に向かってソグは見下ろすように語り掛けていった。
「安心して殺しはしないよ。それどころか、ぼくが大津さんのお仲間がいる宇宙船の元に運んであげるんだ。感謝してよね」
その言葉を最後に修也は夢の世界へと落ちていった。そして気が付いた時には宇宙船にある自身の椅子の上にいたのだ。
そこをジョウジとカエデの両名が心配そうな顔を浮かべて覗き込んでいた。
「おはようございます。大津さん」
「は、はい。おはようございます。あの自分はあの日から何日眠っていましたか?」
「二日と二晩になります。この二日の間は外に行けずに大変でしたよ」
ジョウジは溜息を吐きながら言った。
「申し訳ありません。ただ今回はソグを名乗る宇宙人に眠らされてしまいましてーー」
「分かってます。だから大津さんを責めるつもりはありませんよ」
ジョウジの口調はどこか辛辣ではあったものの、その目には哀れみが混じっていた。少しは同情してくれたかもしれない。
アンドロイドたちの温情ある処置に胸が温かくなった修也が丁寧に頭を下げた時だ。ホログラフにフレッドセンの姿が映し出された。
『皆様、惑星ベルの開発お疲れ様です。昨日カエデさんよりいただいたご連絡が気になりましたので、確認のためこちらから連絡させていただきました』
「お世話になっております。社長」
『大津さん、目覚められたんですね? よかったです。目が覚めたばかりで恐縮ですが、我々人類とそれ以外の知的生命体との最初の接触について詳しくお聞かせ願えないでしょうか?』
「は、はい」
修也はかいつまみながら惑星ベルでの出来事を修也に向かって語っていく。その中で語られる話は一字一句そのままとは言わずともなるべく正確にグレン星人やラーガレット星人との会話や、やり取りを報告していた。
それから『メトロイドスーツ』を使っての初の人類以外との知的生命体との戦闘について語り、最後にラーガレット星人のソグなる男によって眠らされたことを語っていった。
一連の会話をフレッドセンは難しい顔を浮かべながら聞いていた。
『なるほど、教えていただきありがとうございます。それでジョウジさん、カエデさん、あなた方お二方はソグなる宇宙人と接触されたとお伺いしましたが、その時の様子を詳しくお教え願えませんか?」
フレッドセンは修也の側で自身とやり取りをしていた二人に目をやりながら問い掛けた。
「はい、分かりました」
ジョウジはソグが意識を失った修也を連れて帰ってきた時には既に『アストロン』の魔の手から逃れ、宇宙船の中で一連の出来事を伝えるための報告書を書いていたのだそうだ。
その時にドンドンと宇宙船を叩く音が聞こえてきた。初めは強い風がしつこく宇宙船の扉を叩いているのかと思ったのだが、定期的に繰り返し聞こえてくることを考慮して二人はそよ風のいたずらなどではないと判断し相手を確認することにした。
安全のため操縦室の外線モニターを確認すると、そこには意識を失った修也とその修也を担いでいる得体の知れない若い男の姿が見えた。
グレン星人の一件もあり警戒心を強く抱いていた二人だったが、意識を失った修也がいる以上は応対せざるを得ない。
宇宙船の中、モニター越しでジョウジは問い掛けた。
「もしもしあなたは何者ですか?」
ジョウジは警戒していたこともあって敢えて母国語である日本語を使って問い掛けた。
「オレ? オレは惑星ラーガレットの調査員であるソグって者だよ」
ソグなる宇宙人は流暢な日本語で回答を述べていた。
「そうですか、ではソグさん。何の用でここに来られたんですか?」
「えっ~、決まってるじゃん! おたくのお仲間を運んできてやったんだよ。だから開けてよ」
「信用できません」
ジョウジの言葉は正論だった。扉を開けた瞬間にジョウジたちを攻撃しないとは限らないのだ。
「えっ~せっかくぶっ倒れたおっさんをわざわざ運んできてやったのにその態度はないんじゃあないの?ひっどいなぁ」
ソグは明らかに先ほどよりも機嫌の悪い声で言った。
「しかしあなたを信用できない以上は扉を開くわけにはいきません」
「あっそ、じゃあいいよ」
ソグはポケットから取り出した銀の筒を抜き出したかと思うと、それを軽い調子で振った。同時に宇宙船から少し遠く離れた場所で轟音が鳴り響いた。と同時に地響きが起こっていく。
「ま、まさか……」
「うん、その『まさか』さ! この近くの土地を少し壊させてもらったんだぁ~」
それを聞いた二人は顔を見合わせた。不安げな顔を浮かべる二人とは対照的にソグは明るい笑みを浮かべながら言った。
「分かったでしょ? どんなにきつく扉を閉めたとしてもぼくのこれで爆破して開けさせてやるんだから」
ソグは自身が手にしていた銀色の筒を古の物語に登場する魔法使いのように振りながら言った。それを見た二人は観念して扉を開いていった。
後は二人の予想に反してスムーズに事が運んだ。ソグは倒れていた修也を修也の指定席の上に置き、二日後に目覚めることを教えるとそのまま宇宙船から立ち去っていったのである。
そしてその直後にカエデが宇宙人のことを伝えるためフレッドセンに連絡を入れたのだった。
そこまでの経緯を聞いたホログラフ状のフレッドセンは腕を組みながら難しい顔を浮かべて唸っていた。
『なるほど、確かに大津さんを助けてくれたことに関しては感謝するべきでしょう。ですが、彼のやり方は少し洒落になりませんね』
「えぇ、どうなさいますか? 社長」
『この件に関しては我が社だけでの対応はできません。日本政府や各国の政府にも連絡を入れるべきでしょう』
フレッドセンの言葉は正論だった。そしてフレッドセンは何も言わずにそのままホログラフを消していった。
知的生命体との人類の最初の接触は穏やかなものではなかった。これは古来からの知的生命体との友好的な最初の接触を描いたSF映画を観て育ってきた人たちには大きな衝撃を受けることになるだろう。
修也は地球での混乱のことを思うと胸が痛かった。
だが、それは自分にはどうしようもできないことなのだ。修也はもう一度大きく溜息を吐いた。
だが、目の前にいた男が図々しくも笑顔を浮かべて友だちのように馴れ馴れしく近付いてきたことによってその状態は消滅することになってしまった。
「こんにちは。大津さん」
その男は幼稚園児に笑い掛ける若い保育士の男性のように明るくて大きな声で言った。
「こ、こんにちは」
すっかりと恐怖の感情に囚われていた修也は表情が彫刻のように固くなっていた。どうして目の前にいる男は自分の名前を知っているのだろうか。教えた記憶はない。
思えば自らの手で撃ち殺したグレン星人もそうだった。思わず身震いした修也に顔を近付けながら言った。
「いや、今の場合はこんばんはって言うのかなぁ。まぁ、こんな星だから日付なんてあってないようなものだよねー」
どこか人を食ったような話し方だ。修也はそれが気に入らなかった。
「ところでキミは誰かね? 私はキミのような若い友だちはいないのだが……」
「オレ? あっ、そっかー。自己紹介してなかった。おれの名前はソグ。ラーガレット星の住民さ」
ソグと自らを呼んだ異星の青年は自身を親指で指差しながら言った。
「ラーガレット星? グレン星とは違う星なのか?」
「その通り、ただしうちの星はグレン星と同じで惑星連合に所属しているんだけどね」
修也が撃ち殺したグレン星人の言葉が正しければ『惑星連合』には他の銀河系からの参加者も含めて五百の惑星が加盟しているらしいのでラーガレット星が加盟していてもおかしくはなかった。
修也が納得した顔を浮かべていると、目の前のソグは相変わらずニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ねぇ、大津さん。あんたは今ようやくグレン星の戦闘用ロボ『アストロン』を倒したばかりでさぞかしお疲れの状態にあるよね?」
「そ、それがどうかしたのか?」
修也は声を震わせながら問い掛けた。
「もし、今ここでオレが妙なことをしたら大津さんは終わりだよねぇ」
「な、何を言っているんだッ!」
修也が声を荒げるのとソグが懐から筒のような銀色の何かを取り出すのはほぼ同じだった。既に目と鼻の先の距離に迫っていたソグはその筒にあったと思われるボタンを修也の前で押していった。
すると筒が開き修也に急激な眠気が襲っていった。修也はたちまちのうちに耐え切れなくなってしまい地面の上に倒れ込んだ。
意識が遠のいていく修也に向かってソグは見下ろすように語り掛けていった。
「安心して殺しはしないよ。それどころか、ぼくが大津さんのお仲間がいる宇宙船の元に運んであげるんだ。感謝してよね」
その言葉を最後に修也は夢の世界へと落ちていった。そして気が付いた時には宇宙船にある自身の椅子の上にいたのだ。
そこをジョウジとカエデの両名が心配そうな顔を浮かべて覗き込んでいた。
「おはようございます。大津さん」
「は、はい。おはようございます。あの自分はあの日から何日眠っていましたか?」
「二日と二晩になります。この二日の間は外に行けずに大変でしたよ」
ジョウジは溜息を吐きながら言った。
「申し訳ありません。ただ今回はソグを名乗る宇宙人に眠らされてしまいましてーー」
「分かってます。だから大津さんを責めるつもりはありませんよ」
ジョウジの口調はどこか辛辣ではあったものの、その目には哀れみが混じっていた。少しは同情してくれたかもしれない。
アンドロイドたちの温情ある処置に胸が温かくなった修也が丁寧に頭を下げた時だ。ホログラフにフレッドセンの姿が映し出された。
『皆様、惑星ベルの開発お疲れ様です。昨日カエデさんよりいただいたご連絡が気になりましたので、確認のためこちらから連絡させていただきました』
「お世話になっております。社長」
『大津さん、目覚められたんですね? よかったです。目が覚めたばかりで恐縮ですが、我々人類とそれ以外の知的生命体との最初の接触について詳しくお聞かせ願えないでしょうか?』
「は、はい」
修也はかいつまみながら惑星ベルでの出来事を修也に向かって語っていく。その中で語られる話は一字一句そのままとは言わずともなるべく正確にグレン星人やラーガレット星人との会話や、やり取りを報告していた。
それから『メトロイドスーツ』を使っての初の人類以外との知的生命体との戦闘について語り、最後にラーガレット星人のソグなる男によって眠らされたことを語っていった。
一連の会話をフレッドセンは難しい顔を浮かべながら聞いていた。
『なるほど、教えていただきありがとうございます。それでジョウジさん、カエデさん、あなた方お二方はソグなる宇宙人と接触されたとお伺いしましたが、その時の様子を詳しくお教え願えませんか?」
フレッドセンは修也の側で自身とやり取りをしていた二人に目をやりながら問い掛けた。
「はい、分かりました」
ジョウジはソグが意識を失った修也を連れて帰ってきた時には既に『アストロン』の魔の手から逃れ、宇宙船の中で一連の出来事を伝えるための報告書を書いていたのだそうだ。
その時にドンドンと宇宙船を叩く音が聞こえてきた。初めは強い風がしつこく宇宙船の扉を叩いているのかと思ったのだが、定期的に繰り返し聞こえてくることを考慮して二人はそよ風のいたずらなどではないと判断し相手を確認することにした。
安全のため操縦室の外線モニターを確認すると、そこには意識を失った修也とその修也を担いでいる得体の知れない若い男の姿が見えた。
グレン星人の一件もあり警戒心を強く抱いていた二人だったが、意識を失った修也がいる以上は応対せざるを得ない。
宇宙船の中、モニター越しでジョウジは問い掛けた。
「もしもしあなたは何者ですか?」
ジョウジは警戒していたこともあって敢えて母国語である日本語を使って問い掛けた。
「オレ? オレは惑星ラーガレットの調査員であるソグって者だよ」
ソグなる宇宙人は流暢な日本語で回答を述べていた。
「そうですか、ではソグさん。何の用でここに来られたんですか?」
「えっ~、決まってるじゃん! おたくのお仲間を運んできてやったんだよ。だから開けてよ」
「信用できません」
ジョウジの言葉は正論だった。扉を開けた瞬間にジョウジたちを攻撃しないとは限らないのだ。
「えっ~せっかくぶっ倒れたおっさんをわざわざ運んできてやったのにその態度はないんじゃあないの?ひっどいなぁ」
ソグは明らかに先ほどよりも機嫌の悪い声で言った。
「しかしあなたを信用できない以上は扉を開くわけにはいきません」
「あっそ、じゃあいいよ」
ソグはポケットから取り出した銀の筒を抜き出したかと思うと、それを軽い調子で振った。同時に宇宙船から少し遠く離れた場所で轟音が鳴り響いた。と同時に地響きが起こっていく。
「ま、まさか……」
「うん、その『まさか』さ! この近くの土地を少し壊させてもらったんだぁ~」
それを聞いた二人は顔を見合わせた。不安げな顔を浮かべる二人とは対照的にソグは明るい笑みを浮かべながら言った。
「分かったでしょ? どんなにきつく扉を閉めたとしてもぼくのこれで爆破して開けさせてやるんだから」
ソグは自身が手にしていた銀色の筒を古の物語に登場する魔法使いのように振りながら言った。それを見た二人は観念して扉を開いていった。
後は二人の予想に反してスムーズに事が運んだ。ソグは倒れていた修也を修也の指定席の上に置き、二日後に目覚めることを教えるとそのまま宇宙船から立ち去っていったのである。
そしてその直後にカエデが宇宙人のことを伝えるためフレッドセンに連絡を入れたのだった。
そこまでの経緯を聞いたホログラフ状のフレッドセンは腕を組みながら難しい顔を浮かべて唸っていた。
『なるほど、確かに大津さんを助けてくれたことに関しては感謝するべきでしょう。ですが、彼のやり方は少し洒落になりませんね』
「えぇ、どうなさいますか? 社長」
『この件に関しては我が社だけでの対応はできません。日本政府や各国の政府にも連絡を入れるべきでしょう』
フレッドセンの言葉は正論だった。そしてフレッドセンは何も言わずにそのままホログラフを消していった。
知的生命体との人類の最初の接触は穏やかなものではなかった。これは古来からの知的生命体との友好的な最初の接触を描いたSF映画を観て育ってきた人たちには大きな衝撃を受けることになるだろう。
修也は地球での混乱のことを思うと胸が痛かった。
だが、それは自分にはどうしようもできないことなのだ。修也はもう一度大きく溜息を吐いた。
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