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第二章『共存と滅亡の狭間で』
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一般的な高校生から仮面を付けた騎士へと変身を遂げた感触をもし誰かに問われることがあれば清々しい気分だ、と迷いなく答えるだろう。
パワードスーツを纏った安心感というのはそれ程までに悠介の気を高めさせていたのだ。装甲をつけた戦闘スーツは己の体のうちから自信というものが湧き出ているような気がしてならなかった。
悠介は隠れ家で痛め付けられたお返しだとばかりにショウの兜に向かって強烈な右ストレートを繰り出していった。
ショウは悠介の拳を受け悲鳴を上げながら背後に下がっていく様子を見せていた。反撃の機会は今しかあるまい。悠介は続け様にショウに向かって何度も何度も拳を振るっていく。
「クソが! 調子に乗るなッ!」
ショウは腰に巻いていたベルトに下げていたビームソードを取り出し、悠介の目の前に突き出していった。ショウはこのまま反撃に転じるつもりであったに違いない。
悠介は自らのビームソードを盾にして突進を防ぎ、そのままショウごとビームソードを弾き返したのだった。
衝撃のためかアンドロイドであるにも関わらず、ビームソードを握る手がビリビリと痺れていくのを感じた。
どうやら目の前で対峙している悠介なる青年はショウが思っていたよりも戦闘面での腕を持っていたらしい。
悠介の姉である麗俐が戦闘面において苦戦していたこととは対照的だ。
仲間たちが明らかにした確実なデータであったのでショウは遺伝的な問題から麗俐と同様に悠介も弱いのだと予測を立てていた。
しかし予測とは裏腹にショウはみるみるうちに追い詰められていくことになった。
そして先ほどマリーを追い込んだ時とは逆に今度は自身が地面の上に叩き付けられてしまう羽目になった。
完全に油断した。大津悠介と『ゼノン』の相性は完璧だった。初めて身に付けた装甲の付いた戦闘スーツを自由自在に使いこなしていた。
悠介は予測が外れ、悔しげな顔を浮かべるショウに向かってビームソードを突き付けながら言った。
「オレの勝ちだな。これでお前は終わりだ」
悠介から挑発するような言葉を贈られたショウは兜の下で両目を尖らせて睨み付けていた。
歴戦の『賞金稼ぎ』として多くの敵を葬り去ってきたショウからすればこれ以上ないほどに屈辱的な言葉だった。
歯軋りによってゴリゴリという凄まじい音が兜の下から聞こえてきた。
だが、いくら強い表情で睨んでいたとしても、歯を軋ませて凄まじい音を鳴らしたとしても今の悠介からすればなんの意味も持たないことだった。いうならば負け惜しみに過ぎない行動だった。
例えるのならば魚があまり釣れていない男が大量に魚を釣った人に質が悪いと難癖を付けて自尊心を保つような行動そのものだったのだ。
そう考えると哀れで仕方がなかった。先ほどの得意げな笑みからは一転して悲哀を含んだ顔を浮かべながらショウの胸部へとビームソードを突き刺そうとした時だ。
ショウが一か八かの賭けに打って出た。
ビームソードを突き付けていた悠介の両腕を掴み上げ、そのまま柔道の要領で地面の上に投げ飛ばしたのだった。
予期しない反撃に悠介は悲鳴を上げて地面の上へと倒れ込んだ。
「うぅ、こんな馬鹿な」
悠介が慌てて起き上がろうとしたところをショウがその臀部に向かって蹴りを喰らわせていった。
臀部にアンドロイドの強靭な蹴りを喰らった悠介は悲鳴を上げていったが、ショウはそれこそが至高だとばかりに悠介を何度も蹴っていった。
その度に兜の下で悠介は苦痛に顔を歪めていた。
確かに悠介は戦闘の才能やパワードスーツの適性に関しては姉よりもあったかもしれない。
だが、油断によって彼はそれまでに持っていた有利な状況を捨て去り、一気に不利な状況へと追い込まれてしまうことになったのだった。
それからショウによって苛立ち紛れに胸ぐらを掴まれた後で地面の上へと乱暴に放り投げられてしまった。
不幸中の幸いか、このことによって悠介の体からマリーの時のように『ロトワング』が分離するようなことはなかった。
ただ、不利な状況に追い込まれてしまったことも事実である。悠介が唸り声を上げて立ちあがろうとしていると、もう一度蹴りを喰らわせようとショウが近付いてきた。
「やめろッ!」
悠介は咄嗟に腰からレーザーガンを抜いて熱線を放射した。流石のショウもレーザーガンによる反撃は予想できなかったらしい。
装甲の上に火花を散らして後退していく様を見せた。
今だ。悠介は地面の上から飛び上がると、その勢いのまま相手の拳に自身の強烈な一撃を喰らわせていった。
ショウは悲鳴を上げながらよろめく姿を見せた。この機会を逃してはならない。
悠介からすればスラムダンクいわゆる決めの一撃を決めるのは今だった。
ショウの体に向かって蹴りを喰らわせていった。これによってショウは耐え切れなくなり、地面の上へと倒れていった。
そしてそのままショウの胸部へとビームソードを突き刺していった。
ショウが身に付けていた『ロトワング』の装甲から黒い煙が立ち込め、破損した箇所から火花がバチバチと鳴っているのが見えた。
最期の時は近い。そう確信を持った悠介はショウの元から離れていった。
同時にショウの体がフジツボ型の『ロトワング』ごと木っ端微塵に砕かれていく様子が見えた。
「ざまぁみやがれ、クソ野郎」
悠介は自身を何度も痛ぶってきたショウに向かって最後に罵声を浴びせた。罵声を浴びせたことに対する後悔の念はない。ただ初めて『ゼノン』を装着した時と同様に清々しい気持ちになったばかりだった。
そんな素晴らしい気分のまま姉の支援へと向かっていった。ビームソードを使って互いに得物を使って打ち合う中に割り込んでいき、鶴の型をした『ロトワング』の装着者ーーニイナに向かってビームソードを振り上げていった。
不意を突かれ、ニイナは悲鳴を上げて地面の上へと倒れ込んだ。
「ゆ、悠介!?」
麗俐は自分の弟が突然割り込んできたという事実が信じられずに目を丸くしていたが、悠介は表情を変えることなく言った。
「心配するな。お姉ちゃん……オレがこいつを徹底的に叩きのめしてやるから」
悠介はそのままニイナに向かって蹴りを喰らわせようとしたが、その際にニイナはビームソードを築き上げながら勢いよく飛び上がっていった。
その姿は鶴が嘴突き上げて飛んでいくかのようだった。それから引き続き攻撃を喰らわせようとしてくる悠介に対してビームソードを振り下ろしていった。
素早く振り下ろされてきたために悠介は避けることが難しかった。真上から襲い掛かってくるビームソードの刃を受けて悠介は地面の上へと倒れ込んだ。
「悠介!」
弟の危機を受けて姉として麗俐はビームソードを振り回しながらニイナに向かって飛び掛かっていった。
だが、ニイナは焦る様子も見せずにあっさりとビームソードを交わし、麗俐の背後へと回り込んでいった。
麗俐は慌ててビームソードを使って自身に振り下ろされてきた攻撃を防いでいつた。
しかしニイナはあっさりと麗俐を蹴り飛ばしたかと思うと、そのままその場から去っていった。
「……参ったな。まさか他のアンドロイドたちがあんなに強いなんて……」
麗俐は兜で覆われた頭を抑えながら言った。
「でも、まぁ、オレは助かったんだし、このゼノなんちゃらってパワードスーツも無事だったんだし、いいじゃん」
悠介はあっけからんとした表情を浮かべながら言った。
兜の下で呑気な笑顔を浮かべているとは知らずに麗俐はあっさりとした口調で言った。
「じゃあ、あたしたちでお父さんを助けに行こうか」
悠介は小さく首を縦に動かした。二人が修也の方を向くと、そこでは修也が蝶を模した型をした『ロトワング』を身に付けた男と戦っている様子が見えた。
修也は指導役の江田山から受けた拳や蹴りを用いて男を圧倒している姿を見せた。二人は思わず感嘆の声を上げていた。
このまま上手くいけば男を倒してくれるだろう。
「ハァ!! タァ!」
と、修也は叫び声を上げて男を圧倒している姿を見せていた。
そしていよいよトドメだとばかりにビームソードを抜いて男に向かって突き刺そうとしていた。
だが、男もそれをわざわざ受けるほどお人好しではなかった。
自身の武器を抜いて、迫り来る修也に対して向かっていった。
ビームソードによる打ち合いが五、六回ほど繰り返された後に修也のビームソードが右下から左上へと振り上げられていった。男の体を逆袈裟掛けで斬り倒したのだった。
ビームソードが『ロトワング』の装甲を破壊していくのと同時に男が装着していた『ロトワング』に黒煙と火花が生じていき、巨大な音を立てて爆発していった。爆風によって周囲の木々がガサガサと鳴っていく音が聞こえてきた。
修也はそれを見届けると、自身のパワードスーツを解除してカプセルに戻していった。
修也がパワードスーツを解除したのを見て、子どもたちもそれぞれのパワードスーツを解除して父親の元へと向かっていった。
パワードスーツを解除した三人は実に明るい顔を浮かべていた。
パワードスーツを纏った安心感というのはそれ程までに悠介の気を高めさせていたのだ。装甲をつけた戦闘スーツは己の体のうちから自信というものが湧き出ているような気がしてならなかった。
悠介は隠れ家で痛め付けられたお返しだとばかりにショウの兜に向かって強烈な右ストレートを繰り出していった。
ショウは悠介の拳を受け悲鳴を上げながら背後に下がっていく様子を見せていた。反撃の機会は今しかあるまい。悠介は続け様にショウに向かって何度も何度も拳を振るっていく。
「クソが! 調子に乗るなッ!」
ショウは腰に巻いていたベルトに下げていたビームソードを取り出し、悠介の目の前に突き出していった。ショウはこのまま反撃に転じるつもりであったに違いない。
悠介は自らのビームソードを盾にして突進を防ぎ、そのままショウごとビームソードを弾き返したのだった。
衝撃のためかアンドロイドであるにも関わらず、ビームソードを握る手がビリビリと痺れていくのを感じた。
どうやら目の前で対峙している悠介なる青年はショウが思っていたよりも戦闘面での腕を持っていたらしい。
悠介の姉である麗俐が戦闘面において苦戦していたこととは対照的だ。
仲間たちが明らかにした確実なデータであったのでショウは遺伝的な問題から麗俐と同様に悠介も弱いのだと予測を立てていた。
しかし予測とは裏腹にショウはみるみるうちに追い詰められていくことになった。
そして先ほどマリーを追い込んだ時とは逆に今度は自身が地面の上に叩き付けられてしまう羽目になった。
完全に油断した。大津悠介と『ゼノン』の相性は完璧だった。初めて身に付けた装甲の付いた戦闘スーツを自由自在に使いこなしていた。
悠介は予測が外れ、悔しげな顔を浮かべるショウに向かってビームソードを突き付けながら言った。
「オレの勝ちだな。これでお前は終わりだ」
悠介から挑発するような言葉を贈られたショウは兜の下で両目を尖らせて睨み付けていた。
歴戦の『賞金稼ぎ』として多くの敵を葬り去ってきたショウからすればこれ以上ないほどに屈辱的な言葉だった。
歯軋りによってゴリゴリという凄まじい音が兜の下から聞こえてきた。
だが、いくら強い表情で睨んでいたとしても、歯を軋ませて凄まじい音を鳴らしたとしても今の悠介からすればなんの意味も持たないことだった。いうならば負け惜しみに過ぎない行動だった。
例えるのならば魚があまり釣れていない男が大量に魚を釣った人に質が悪いと難癖を付けて自尊心を保つような行動そのものだったのだ。
そう考えると哀れで仕方がなかった。先ほどの得意げな笑みからは一転して悲哀を含んだ顔を浮かべながらショウの胸部へとビームソードを突き刺そうとした時だ。
ショウが一か八かの賭けに打って出た。
ビームソードを突き付けていた悠介の両腕を掴み上げ、そのまま柔道の要領で地面の上に投げ飛ばしたのだった。
予期しない反撃に悠介は悲鳴を上げて地面の上へと倒れ込んだ。
「うぅ、こんな馬鹿な」
悠介が慌てて起き上がろうとしたところをショウがその臀部に向かって蹴りを喰らわせていった。
臀部にアンドロイドの強靭な蹴りを喰らった悠介は悲鳴を上げていったが、ショウはそれこそが至高だとばかりに悠介を何度も蹴っていった。
その度に兜の下で悠介は苦痛に顔を歪めていた。
確かに悠介は戦闘の才能やパワードスーツの適性に関しては姉よりもあったかもしれない。
だが、油断によって彼はそれまでに持っていた有利な状況を捨て去り、一気に不利な状況へと追い込まれてしまうことになったのだった。
それからショウによって苛立ち紛れに胸ぐらを掴まれた後で地面の上へと乱暴に放り投げられてしまった。
不幸中の幸いか、このことによって悠介の体からマリーの時のように『ロトワング』が分離するようなことはなかった。
ただ、不利な状況に追い込まれてしまったことも事実である。悠介が唸り声を上げて立ちあがろうとしていると、もう一度蹴りを喰らわせようとショウが近付いてきた。
「やめろッ!」
悠介は咄嗟に腰からレーザーガンを抜いて熱線を放射した。流石のショウもレーザーガンによる反撃は予想できなかったらしい。
装甲の上に火花を散らして後退していく様を見せた。
今だ。悠介は地面の上から飛び上がると、その勢いのまま相手の拳に自身の強烈な一撃を喰らわせていった。
ショウは悲鳴を上げながらよろめく姿を見せた。この機会を逃してはならない。
悠介からすればスラムダンクいわゆる決めの一撃を決めるのは今だった。
ショウの体に向かって蹴りを喰らわせていった。これによってショウは耐え切れなくなり、地面の上へと倒れていった。
そしてそのままショウの胸部へとビームソードを突き刺していった。
ショウが身に付けていた『ロトワング』の装甲から黒い煙が立ち込め、破損した箇所から火花がバチバチと鳴っているのが見えた。
最期の時は近い。そう確信を持った悠介はショウの元から離れていった。
同時にショウの体がフジツボ型の『ロトワング』ごと木っ端微塵に砕かれていく様子が見えた。
「ざまぁみやがれ、クソ野郎」
悠介は自身を何度も痛ぶってきたショウに向かって最後に罵声を浴びせた。罵声を浴びせたことに対する後悔の念はない。ただ初めて『ゼノン』を装着した時と同様に清々しい気持ちになったばかりだった。
そんな素晴らしい気分のまま姉の支援へと向かっていった。ビームソードを使って互いに得物を使って打ち合う中に割り込んでいき、鶴の型をした『ロトワング』の装着者ーーニイナに向かってビームソードを振り上げていった。
不意を突かれ、ニイナは悲鳴を上げて地面の上へと倒れ込んだ。
「ゆ、悠介!?」
麗俐は自分の弟が突然割り込んできたという事実が信じられずに目を丸くしていたが、悠介は表情を変えることなく言った。
「心配するな。お姉ちゃん……オレがこいつを徹底的に叩きのめしてやるから」
悠介はそのままニイナに向かって蹴りを喰らわせようとしたが、その際にニイナはビームソードを築き上げながら勢いよく飛び上がっていった。
その姿は鶴が嘴突き上げて飛んでいくかのようだった。それから引き続き攻撃を喰らわせようとしてくる悠介に対してビームソードを振り下ろしていった。
素早く振り下ろされてきたために悠介は避けることが難しかった。真上から襲い掛かってくるビームソードの刃を受けて悠介は地面の上へと倒れ込んだ。
「悠介!」
弟の危機を受けて姉として麗俐はビームソードを振り回しながらニイナに向かって飛び掛かっていった。
だが、ニイナは焦る様子も見せずにあっさりとビームソードを交わし、麗俐の背後へと回り込んでいった。
麗俐は慌ててビームソードを使って自身に振り下ろされてきた攻撃を防いでいつた。
しかしニイナはあっさりと麗俐を蹴り飛ばしたかと思うと、そのままその場から去っていった。
「……参ったな。まさか他のアンドロイドたちがあんなに強いなんて……」
麗俐は兜で覆われた頭を抑えながら言った。
「でも、まぁ、オレは助かったんだし、このゼノなんちゃらってパワードスーツも無事だったんだし、いいじゃん」
悠介はあっけからんとした表情を浮かべながら言った。
兜の下で呑気な笑顔を浮かべているとは知らずに麗俐はあっさりとした口調で言った。
「じゃあ、あたしたちでお父さんを助けに行こうか」
悠介は小さく首を縦に動かした。二人が修也の方を向くと、そこでは修也が蝶を模した型をした『ロトワング』を身に付けた男と戦っている様子が見えた。
修也は指導役の江田山から受けた拳や蹴りを用いて男を圧倒している姿を見せた。二人は思わず感嘆の声を上げていた。
このまま上手くいけば男を倒してくれるだろう。
「ハァ!! タァ!」
と、修也は叫び声を上げて男を圧倒している姿を見せていた。
そしていよいよトドメだとばかりにビームソードを抜いて男に向かって突き刺そうとしていた。
だが、男もそれをわざわざ受けるほどお人好しではなかった。
自身の武器を抜いて、迫り来る修也に対して向かっていった。
ビームソードによる打ち合いが五、六回ほど繰り返された後に修也のビームソードが右下から左上へと振り上げられていった。男の体を逆袈裟掛けで斬り倒したのだった。
ビームソードが『ロトワング』の装甲を破壊していくのと同時に男が装着していた『ロトワング』に黒煙と火花が生じていき、巨大な音を立てて爆発していった。爆風によって周囲の木々がガサガサと鳴っていく音が聞こえてきた。
修也はそれを見届けると、自身のパワードスーツを解除してカプセルに戻していった。
修也がパワードスーツを解除したのを見て、子どもたちもそれぞれのパワードスーツを解除して父親の元へと向かっていった。
パワードスーツを解除した三人は実に明るい顔を浮かべていた。
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