ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ～皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます！～

８１～９０話

９０c、ご主人様は愛玩の意味するところをわかっていない

　俺はウィルドの発した言葉を何度も反芻し、ようやくその意味を理解すると、愕然と口を開いた。

「は？　では……他の者に買われていたとしたら、マヤは……」

「今頃身も心もボロボロになってたんじゃねーの？」

「……消す」

　思考が追い付くよりも早く、地の底を這うような声が出た。
　立ち上がり、掛けていた外套を引っ掴む。

　そうだ。初めて会った日に負っていた傷だって、奴隷商館の者に受けたと言っていたではないか。
　あれは恐らく日常的なことだったのだ。

　消す。
　マヤに害をなした者など、一人残らず葬り去ってやる。

　軽く腰に触れ、そこに剣のあるのを確認する。
　外套を羽織りながら扉へと向かえば、目の前にウィルドが立ちはだかった。

「待て待て待て待て！」

「なんだ？　……まさか庇い立てするつもりか？」

　目を眇めてウィルドを見やれば、溢あふれ出る怒気に圧され空気さえも震える。

「っ違ぇよ！　んなことしねーって！　けど待て！！　早まるな！」

「そこを退け」

「うわ俺に殺気向けんなって！　なあ、考えてもみろ！　いきなりプルシッカに侵入してそこの奴らを殺せば、お前の方が犯罪者になるんだぞ！？」

「やむを得まい」

「お前はよくてもマヤちゃんはどうなんだよ！　犯罪者の嫁にする気か！？」

「……！」

　……そこまでは考えていなかった。
　俺だけが罪を犯すなら構わないが、マヤまで犯罪者の身内として巻き込んでしまうのは本意ではない。
　その責によって万が一爵位剥奪ともなれば、マヤにいらぬ苦労をかけてしまう恐れもある……。

　剣の柄にかけていた右手が力なく落ちる。