ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ~皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます!~

南田 此仁

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91~100話

93a、ご主人様は深夜の人影をわかっていない2

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「仲間を見捨てて逃げる気か?」

「ひっ!」

 重たそうなトランクを手に、馬車と馬を繋ぐ留め具を外そうと格闘している人影へと声をかける。

 突然の呼びかけに大きく肩を跳ねさせ、錆び付いた鎧のようにギギギ……とこちらを向いたのは。

 月明かりの元でもわかるほどに青ざめたそれは紛うことなく、あの日オークション会場で契約書を交わした、奴隷商館の『オーナー』と呼ばれる年老いた男だった。

「…………誰の差し金です?」

「さてな」

 前へと一歩踏み出せば、オーナーもまた一歩後ずさる。
 オーナーまでは、まだ剣先も届かないほどの距離がある。

「……私を隣国まで護衛すれば、今の依頼主より多額の報酬を約束しましょう」

 その提案に軽く首をすくめ、俺は質問を投げかけた。

「一つ聞きたいことがある」

「なんです?」

 俺が交渉に前向きだと思ったらしきオーナーは、護衛報酬の相談かと乗り気で続きを促す。

「道で拐い・・、愛玩奴隷とした少女を覚えているか?」

「……? さて、どれ・・の事やら。愛玩奴隷が欲しいのなら、護衛完遂後にそれなりのものを用意しますが?」

 視界がじわりと赤く染まり、剣を握ったままの右手が即座に走ろうとするのを、ゆっくりと、努めてゆっくりと息を吐いて押し止める。

「…………覚えがないか? 髪と目の黒い、小柄な少女だ」

「髪と目が黒……? ……ああ、双黒の!」

 ようやく思い至ったのか、怪訝そうに細められていた目がパッと開かれた。
 自分から発した質問ではあるが、この男の脳内にマヤの姿が浮かんでいるかと思うだけで、今すぐにでも斬り捨てたくなる。
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