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11~20話
いざないの乙女【上】
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翌日。
今日は待ちに待った『ユニコーンの角』採取のための遠征出立日。
本来なら私の仕事場に行く日だけれど、出立を見届けようと二人して騎士棟の前にやってきた。
私とディノの命運は彼らの手に握られているのだ。
今回遠征に向かうのは、五十人ほどの第六部隊員を五つに分けた班のうちの一つ。
騎士たちはみんな騎乗していくようで、一台だけ用意されている小振りな馬車はおそらく『乙女』用だろう。
出発直前の慌ただしさのなか、班長が指示を飛ばし新米騎士たちが雑用に奔走している。
「食糧は積んだろーな!? 『いざないの乙女』はまだ来ねぇのか!? ワリト・キズナオールは一人三本、まだ受け取ってねぇやつはさっさと取りに来い! ――おい、他の持参薬は用意できてんだろうな!?」
「はいっ! 一式馬車に積んでます!」
「よし。今回の敵ぁユニコーンだか――」
「なにやってんだ!!!」
突然の大声に、全員が声のした方を見た。
ルークが、なにやらベテラン騎士の一人に怒鳴られているようだ。
弱りきった様子でおろおろと狼狽えていたルークは、こちらに気付くなり転げるように駆け寄ってきた。
「隊長っ! ほ、報告しますっ! 妹が――『いざないの乙女』が失踪しました!」
「なんだと!?」
「すんません! すんません、俺……っ!」
「ルーク、まずは落ち着いて詳細を話せ」
ディノが冷静に促すと、ルークは大きく一度深呼吸して、改めて口を開いた。
「……はい。今日の遠征に備え、昨夜妹にユニコーンに対する注意点を説明してたんっす。音を立てんなとか、不安だったら目をつぶっときゃいいとか、なんかあったら俺が守ってやるから心配すんなとか」
話しながら妹のことを思い出しているのか、いつもは輝いているルークの目がみるみる昏く伏せられていく。
「妹は動物好きなもんで、本物のユニコーンを間近で見られるなんて楽しみだっつってニコニコしながら説明を聞いてたんすけど……処女以外の人間が縄張りに立ち入ると襲われるっつー話をした途端、急に顔が曇って……」
何かに耐えるように声が震える。
「本人が『なんでもない』っつーもんで、気になりつつもそのまま寝たんす。そんで今朝起きたら……『ごめんなさい』ってメモだけ残して、妹が消えてました……」
地に向けられたルークの目には、もはや涙さえ浮かんでいた。
「あー……」
方々から、納得のような、ため息のような、なんとも形容しがたい声が漏れる。
たぶん、私を含めて全員が察した。
家族に『男性とは手も繋いだことがない』と話していたルークの妹は、実際のところ――すでに『乙女の資格』を手放してしまっていたのだ。
今日は待ちに待った『ユニコーンの角』採取のための遠征出立日。
本来なら私の仕事場に行く日だけれど、出立を見届けようと二人して騎士棟の前にやってきた。
私とディノの命運は彼らの手に握られているのだ。
今回遠征に向かうのは、五十人ほどの第六部隊員を五つに分けた班のうちの一つ。
騎士たちはみんな騎乗していくようで、一台だけ用意されている小振りな馬車はおそらく『乙女』用だろう。
出発直前の慌ただしさのなか、班長が指示を飛ばし新米騎士たちが雑用に奔走している。
「食糧は積んだろーな!? 『いざないの乙女』はまだ来ねぇのか!? ワリト・キズナオールは一人三本、まだ受け取ってねぇやつはさっさと取りに来い! ――おい、他の持参薬は用意できてんだろうな!?」
「はいっ! 一式馬車に積んでます!」
「よし。今回の敵ぁユニコーンだか――」
「なにやってんだ!!!」
突然の大声に、全員が声のした方を見た。
ルークが、なにやらベテラン騎士の一人に怒鳴られているようだ。
弱りきった様子でおろおろと狼狽えていたルークは、こちらに気付くなり転げるように駆け寄ってきた。
「隊長っ! ほ、報告しますっ! 妹が――『いざないの乙女』が失踪しました!」
「なんだと!?」
「すんません! すんません、俺……っ!」
「ルーク、まずは落ち着いて詳細を話せ」
ディノが冷静に促すと、ルークは大きく一度深呼吸して、改めて口を開いた。
「……はい。今日の遠征に備え、昨夜妹にユニコーンに対する注意点を説明してたんっす。音を立てんなとか、不安だったら目をつぶっときゃいいとか、なんかあったら俺が守ってやるから心配すんなとか」
話しながら妹のことを思い出しているのか、いつもは輝いているルークの目がみるみる昏く伏せられていく。
「妹は動物好きなもんで、本物のユニコーンを間近で見られるなんて楽しみだっつってニコニコしながら説明を聞いてたんすけど……処女以外の人間が縄張りに立ち入ると襲われるっつー話をした途端、急に顔が曇って……」
何かに耐えるように声が震える。
「本人が『なんでもない』っつーもんで、気になりつつもそのまま寝たんす。そんで今朝起きたら……『ごめんなさい』ってメモだけ残して、妹が消えてました……」
地に向けられたルークの目には、もはや涙さえ浮かんでいた。
「あー……」
方々から、納得のような、ため息のような、なんとも形容しがたい声が漏れる。
たぶん、私を含めて全員が察した。
家族に『男性とは手も繋いだことがない』と話していたルークの妹は、実際のところ――すでに『乙女の資格』を手放してしまっていたのだ。
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