上 下
39 / 115
11~20話

いざないの乙女【上】

しおりを挟む
 翌日。
 今日は待ちに待った『ユニコーンの角』採取のための遠征出立日。

 本来なら私の仕事場に行く日だけれど、出立を見届けようと二人して騎士棟の前にやってきた。
 私とディノの命運は彼らの手に握られているのだ。

 今回遠征に向かうのは、五十人ほどの第六部隊員を五つに分けた班のうちの一つ。
 騎士たちはみんな騎乗していくようで、一台だけ用意されている小振りな馬車はおそらく『乙女』用だろう。

 出発直前の慌ただしさのなか、班長が指示を飛ばし新米騎士たちが雑用に奔走している。

「食糧は積んだろーな!? 『いざないの乙女』はまだ来ねぇのか!? ワリト・キズナオールは一人三本、まだ受け取ってねぇやつはさっさと取りに来い! ――おい、他の持参薬は用意できてんだろうな!?」
「はいっ! 一式馬車に積んでます!」
「よし。今回の敵ぁユニコーンだか――」


「なにやってんだ!!!」


 突然の大声に、全員が声のした方を見た。

 ルークが、なにやらベテラン騎士の一人に怒鳴られているようだ。
 弱りきった様子でおろおろと狼狽うろたえていたルークは、こちらに気付くなり転げるように駆け寄ってきた。

「隊長っ! ほ、報告しますっ! 妹が――『いざないの乙女』が失踪しました!」

「なんだと!?」

「すんません! すんません、俺……っ!」

「ルーク、まずは落ち着いて詳細を話せ」

 ディノが冷静に促すと、ルークは大きく一度深呼吸して、改めて口を開いた。

「……はい。今日の遠征に備え、昨夜妹にユニコーンに対する注意点を説明してたんっす。音を立てんなとか、不安だったら目をつぶっときゃいいとか、なんかあったら俺が守ってやるから心配すんなとか」

 話しながら妹のことを思い出しているのか、いつもは輝いているルークの目がみるみるくらく伏せられていく。

「妹は動物好きなもんで、本物のユニコーンを間近で見られるなんて楽しみだっつってニコニコしながら説明を聞いてたんすけど……の人間が縄張りに立ち入ると襲われるっつー話をした途端、急に顔が曇って……」

 何かに耐えるように声が震える。

「本人が『なんでもない』っつーもんで、気になりつつもそのまま寝たんす。そんで今朝起きたら……『ごめんなさい』ってメモだけ残して、妹が消えてました……」

 地に向けられたルークの目には、もはや涙さえ浮かんでいた。

「あー……」

 方々から、納得のような、ため息のような、なんとも形容しがたい声が漏れる。

 たぶん、私を含めて全員が察した。

 家族に『男性とは手も繋いだことがない』と話していたルークの妹は、実際のところ――すでに『乙女の資格』を手放してしまっていたのだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺、悪役騎士団長に転生する。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,936pt お気に入り:2,504

蒼い海 ~女装男子の冒険~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:36

女装転移者と巻き込まれバツイチの日記。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:24

オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,643pt お気に入り:2,635

甘えたオメガは過保護なアルファに溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:958pt お気に入り:1,877

すきにして

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:0

あなたの愛なんて信じない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:111,176pt お気に入り:3,626

俺の妹が優秀すぎる件

青春 / 連載中 24h.ポイント:369pt お気に入り:2

処理中です...