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1~10話

2d、息をしていただけ

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 することもなく鍛錬場の片隅に突っ立って、ぼーっとグレニスを眺める。
 私が来た時にはもう鍛錬は始まっていた。一体何時からやっていたのだろう。

「うわぁ……」

 見るからに重そうな鉄の塊の付いた棒を剣のように構えて振るうのにも驚いたが、倒立をした状態で腕立て伏せをしだしたのには目を疑った。しかもよくよく見れば、手のひらを浮かせ十本の指だけで体重を支えている。
 手首足首に巻き付けてあるゴツゴツした黒い物体は、もしや重しだろうか……。

 淀みなく行われていく鍛練に、この一連の流れが日々のルーティンワークなのだと思い知る。

 一時間ほど眺めていると、鍛錬を終えたのかグレニスがこちらへやって来た。

「お、お疲れ様です!」

「ああ」

 涼しい朝方とはいえシャツが張り付くほど汗だくになったグレニスへ、慌ててゴブレットに注いだ冷たい果実水を差し出す。

 ごくり、ごくり、

 仰向けた顎の下、汗の伝う首筋に男らしく突き出た喉仏が上下する。
 なんだか見てはいけないものを見ているような気分になって、とりあえず目を見開いてガン見した。

 グレニスが受け取った果実水を飲み干すのを待ってタオルを差し出せば、それは受け取らずチョイチョイと指先で手招きをされる。

「……?」

 すでに三歩ほどの距離にいるのに、これ以上近くへ寄れと?
 はてなマークを飛ばしながらも、拒否権を持たない私は一歩前へ踏み出す。

 チョイチョイ

 指示されるまま、もう一歩前へ。

 あと一歩で触れてしまうという距離まで近づいた途端、逞しい腕がグッと肩を抱き、強引に私を引き寄せた。
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