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1~10話
9d、おしまい、れふか……?
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———ああ、ついに恐れていた瞬間が来てしまった。
朝のこの時間を失ったら、もう私がグレニスの香りを嗅げる機会など二度とやって来ないだろう。
精神が現実から逃れようとするあまり、ぐらりと目眩がする。
「……おしまい、れふか……?」
声が震える。
すがるように、離されないように、ぎゅっとグレニスにしがみつく。
「主人の決定に逆らうのか?」
「………………いえ」
冷静な声に、シャツを握り込んでいた手をゆっくりと開く。
ぎこちなく腕の力を抜くと、静かに一歩、身体を離した。
私は行儀見習いとしてここに置いてもらっている身。
主人であるグレニスへ要求を告げることなどできる立場ではないし、この『香り』は私のものでもない。
世界中の何よりも好きな香りを取り上げられたとて、異議を唱えられる正当な理由など一つもありはしないのだ。
これが休日の件のように私を気遣っての提案であれば、気遣いはご無用ですと突っぱねることもできたのに。
グレニスの意思による決定となれば、私にはどうしようもないではないか。
下唇を噛んで顔を俯ける。
部屋に戻ったら、革鞄に頭を突っ込もう。
マニーの目が気になるけれど、もうそんなことは言っていられない。
休憩時間に屋敷の物置を探って潤滑油の匂いを嗅ぐのもいい。
何を嗅いでも満足感は得られないだろうけれど、それでもどうにかして自分を慰めなくては。
「おい、泣いてるのか!?」
「いいえ……」
視界は滲んで何も見えないけれど、雫は零れ落ちてないから泣いていないはずだ。
「〰〰あー……ったく! わかったわかった、俺が悪かった!」
力強い腕にぐっと引き寄せて抱きしめられれば、今しがた今生の別れを告げたはずの大好きな香りがふわりと私を包んだ。
反動で零れ落ちた涙がグレニスのシャツに染み込んで消える。
朝のこの時間を失ったら、もう私がグレニスの香りを嗅げる機会など二度とやって来ないだろう。
精神が現実から逃れようとするあまり、ぐらりと目眩がする。
「……おしまい、れふか……?」
声が震える。
すがるように、離されないように、ぎゅっとグレニスにしがみつく。
「主人の決定に逆らうのか?」
「………………いえ」
冷静な声に、シャツを握り込んでいた手をゆっくりと開く。
ぎこちなく腕の力を抜くと、静かに一歩、身体を離した。
私は行儀見習いとしてここに置いてもらっている身。
主人であるグレニスへ要求を告げることなどできる立場ではないし、この『香り』は私のものでもない。
世界中の何よりも好きな香りを取り上げられたとて、異議を唱えられる正当な理由など一つもありはしないのだ。
これが休日の件のように私を気遣っての提案であれば、気遣いはご無用ですと突っぱねることもできたのに。
グレニスの意思による決定となれば、私にはどうしようもないではないか。
下唇を噛んで顔を俯ける。
部屋に戻ったら、革鞄に頭を突っ込もう。
マニーの目が気になるけれど、もうそんなことは言っていられない。
休憩時間に屋敷の物置を探って潤滑油の匂いを嗅ぐのもいい。
何を嗅いでも満足感は得られないだろうけれど、それでもどうにかして自分を慰めなくては。
「おい、泣いてるのか!?」
「いいえ……」
視界は滲んで何も見えないけれど、雫は零れ落ちてないから泣いていないはずだ。
「〰〰あー……ったく! わかったわかった、俺が悪かった!」
力強い腕にぐっと引き寄せて抱きしめられれば、今しがた今生の別れを告げたはずの大好きな香りがふわりと私を包んだ。
反動で零れ落ちた涙がグレニスのシャツに染み込んで消える。
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