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21~30話

30d、無知で恥ずかしい

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「どうした? 『鼻直し』は必要ないのか?」

「わっ、嗅ぎます嗅ぎます! では遠慮なく!」

 逞しい首筋に抱きつこうとして再びマントの留め具に阻まれていると、見かねたグレニスがマントを外してくれた。
 今度こそ遠慮なく抱きついて、むき出しの首筋に鼻を埋める。

 すんすんすんすん

「はぁ……浄化される……」

「ふっ、そんなに好きか」

 あれ、口に出ていただろうか? まぁいいや。

「はい、大好きれふ……」

 ほのかに汗ばむ首筋の香りに、恍惚と目を細める。
 ああ、至福のひと時。



 首筋の動きでグレニスが頷いたのを感じる。
 なんだろうと思っていると、少ししてテーブルにコトッ、コトッと食器の置かれる音がした。

 ちらりと振り返れば、せかせかとお茶を供する店主の姿。

「あっ、ありがとうございます」

「いいのいいの、どうぞごゆっくりっ!」

 店主は赤い顔をしながらケーキと紅茶を置くと、そそくさとカウンターの奥へ引き返してしまった。

「……?」

「さ、いただこう」

 店主の様子に首を傾げていると、ケーキの皿とフォークを手渡された。
 見れば、たっぷりと木苺が混ぜ込まれた素朴なケーキが皿の上で甘い香りを放っている。

 早速フォークで切り分け、一口。

「んんーっ」

 優しい甘味がして、チーズのコクと木苺のほどよい酸味が舌の上に広がる。

「とっても美味しいです! ……あっ、この体勢じゃグレンが食べられないですよね。下りますね」

 膝を下りようと身体をずらせば、ぎゅっと抱きしめ元通りに抱え直された。
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