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41~50話

48c、名も知らぬ婚約者

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 私が喜びに満たされていく間にも、グレニスの表情は暗く落ち込んでいく。

「迅速に行動したことが、結果的にリヴを追い詰めることになってしまったようだな……」

「グレン! 私———」

 私を抱きしめる腕が、ぐっと力強さを増す。

「だが、今さら逃がしてやるつもりなどない。修道院など行かせるものか。どんなに嫌がろうとこのまま屋敷へ連れ帰る。……厄介な男に惚れられたと諦めるんだな」

 そんな横暴を口にしながらも、グレニスの瞳は泣き出しそうなほどに哀しげで。

 いつも私を心配してばかりの優しいグレニスが、私の意思なんて関係ないという。無理にでも手元に置くという。
 それほどに私が、必要なのだと。

 たまらず両手でグレニスの頬を包み込むと、ぐいと引き寄せ薄い唇に勢いよく口付けた。

 ガチッ! ……歯が痛い。

「———っします! グレンと結婚します! したいですっ!」

「…………は? 今さら俺をあざむいて油断させようとしても———」

「時間も差し上げます! 私の持ってるものならなんだって差し上げます! だから結婚しましょう! グレンと毎日一緒に過ごしたいんです! 一生っ!!!」

「…………」

 グレニスは唖然として固まってしまったので、ここぞとばかりに言い募る。

「私、結婚相手を知らなかったんです。お見舞いの日の言葉がプロポーズだったことにも気付かないまま、ただ突然、お父様から結婚相手が決まったという手紙を受け取って。手紙には相手の名前さえ書いていなかったので、てっきり全然知らない人と結婚させられるものだとばかり……。でもグレン以外の人と結婚するなんて、どうしても考えられなかったんです! だから私、こうなったらもう家を出て修道院に入るしか結婚を逃れる道はないと思って、それで手紙にも……」

 唖然としたまま私の話を聞いていたグレニスが、言葉を探しながらゆっくりと口を開く。

「それは……その、なんだ……。リヴも、はなから俺と結婚する気があった、ということか……?」
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