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46-1 夏至祭りの奇跡

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「ごめんなさい! 立ち聞きするつもりはなかったのですけれど、ソフィ様の姿を見つけてこちらに向かっていたら、お二人の会話が聞こえてしまいましたわ」

 いきなり謝ってきた声の主を振り返れば、そこにはマリエッタ様とジョディ様、アーリン様がいらっしゃった。

「まぁ、とんでもない会話を聞かれてしまいましたね。ニッキーシェフ長は錬金術師で、不思議な奇跡を起こすエリクサーを作成することができますのよ。私はライオネル殿下の記憶を持っているのが辛いのですわ」

 私の話を聞いて三人とも顔を見合わせた。今回のライオネル殿下の事件は、メドフォード国民が憤った大事件だったから、彼女達もことの経緯は知っていた。

「もうすぐ夏至祭りですわよね。ビニ公爵邸にお帰りにならないなら、私達四人でお祭りにいきませんこと?」

 私に合わせるように、最近は週末も屋敷に戻らないマリエッタ様たちに誘われた。

「今回の夏至祭りは私たち皆、屋敷に戻りませんわ。理由はね、お母様と喧嘩してしまっただけですのよ」

 それは彼女達の優しい嘘だ。マリエッタ様たちが家族と良好な関係であることは、週末前に届くたくさんの特産物や新しいドレスや手紙でわかる。この三人は私を心底心配してくれる大切な友人になっていた。



☆彡 ★彡



 夏至祭りは毎年6月21日に開催され、夏の始まりを祝う壮麗な祭りになっていた。この特別な日には、王都の中心にある王宮の前に壮大な広場が設けられ、祭りのための飾り付けと装飾が数週間前から進められる。
 春祭りと違う点は飾り付けの基調となる色がオレンジや赤なことだ。アーチや噴水周辺にバラのつるを絡ませるのだけれど、その色も深紅やオレンジ色のバラになる。

 ラベンダーが小道や歩道に植えられて、その青紫色の花が風に揺れ、訪れる人々を魅了した。レマチスは広場の噴水周辺に絡まり、美しい花のカーペットを形成していた。その花弁は様々な色に彩られ、祭りの色鮮やかさを増していく。アジサイは庭園に植えられ、青やピンクの大きな花が咲き誇り、その美しさを鑑賞できた。
 広場の中央には大きな太陽の模型が設置され、オレンジ色の旗や大きなヒマワリの花が並ぶ。大輪の黄色い花は祭りの象徴で、太陽を称える意味も込められている。

 さらに、会場から聞こえる楽しい音楽や歓声、お祭りの色とりどりの屋台が、私たちを待ち構えていた。私たちは笑顔で手をつなぎ、屋台めぐりを始めた。
 最初に目に入ったのは、キラキラ光る宝石や、手作りアクセサリーが並ぶ屋台だった。試着してみたり、新しいアクセサリーを見つけたりする楽しみは、私たちを幸せな気分にさせた。

 食べ物の屋台も多く、焼きたてのパンやケーキ、フルーツ、ソーセージ、クレープ、アイスクリーム、新鮮なジュース、ワイン、そして夏至祭りの名物であるヒマワリの種から作られるスナックなどが提供されていた。人々はこれらの美味しい料理や飲み物を楽しむために列を作り、食べ物と会話を楽しんでいた。

 友人と来る夏至祭りはなんの気兼ねもない。おしゃべりをしながら食べたい物を食べて、少しぐらいワンピースに食べ物がこぼれても気にしないで笑っていられた。
 
 けれど、気がつけば周りはカップルだらけで、私達はカップルに囲まれながらアイスクリームを食べていた。前のカップルの言い争う声や、横のカップルの男性の不機嫌そうな声などを聞いていると、ついライオネル殿下と比べてしまう。

 ジュースをこぼしてワンピースを汚した女性に、冷たい言葉を投げつける男性もいれば、自分の話題ばかりを話している男性もいた。
 私はまわりにいる恋人同士と思われるカップルの会話に耳を澄ます。すると、ライオネル殿下と同じような気遣いを見せる男性が、とても少ないことに気づいた。

「どうしたのですか? ソフィ様」

 マリエッタ様が、急に黙ってしまった私を、心配して話しかけた。ジョディ様もアーリン様も、私の顔を覗き込み首を傾げている。私はまわりの男性たちが、あまりにライオネル殿下と違うので、驚いたことを打ち明けた。

 ライオネル殿下は私が失敗をしても、少しもあざ笑ったり機嫌が悪くなることはなかった。それどころか、自分も失敗をしたように見せかけて、私の心を軽くしてくださった。
 いつも気にかけてくださって、楽しませてくださった。朗らかで思いやりがあって・・・・・・彼の長所を言い始めたら止まらない。

 私はライオネル殿下に優しくされることに慣れすぎていた。思いやりとたくさんの愛情を注がれることが、当たり前になっていた。だから、自分が望んだ行動をしてくれなかった彼に、私は失望したり悲しんだりしていたのよ。彼はおかしなエリクサーを飲まされて、命の危険だってあったかもしれないのに! 
 
「私、ライオネル殿下に会いに行くわ」

 私は自分自身を励ますようにそうつぶやいた。

「会いに行かなくても、ライオネル殿下はソフィ様の後ろにいますよ」

 マリエッタ様はそう言って、私に振り返るように促したのだった。

 
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