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10 断罪というよりも更生かも(スカーレット視点)
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「イチゴを育てる手伝いをするですって? この私が?」
お父様は私に頷くと、一枚の紙切れをひらひらとさせた。
「これは?」
「ハーパー家から送られてきた請求書だ」
私はその金額の多さに仰天して思わず声をあげた。
「ずいぶんと派手にオリーブ様にたかったようだな。恥さらしな娘だ。お前はもう娘とは思わん。出て行きなさい。農家で汗水たらして働き自分でそのお金を返すのだ!」
私は屋敷を追い出されて、イチゴ農家に住み込みで働くことになった。
☆彡・
「さぁ、いつまで寝ているんだね! 起きなさいってば」
農園で働くおばさんの一人に、いきなり揺り起こされて思わず叫びだしそうになる。
「まったく、いつまで寝ているつもりだね? 農園の朝は早いだよ」
大柄なおばさんが呆れたように私を見て、ひとつ大きなため息をついた。
「あたしゃ、ここで働くマギー。困ったことがあったら頼っておくれ」
「あ、はい。わかりました」
大きな食堂では数人の女性が、テーブルを拭いたり皿を並べている。私は野菜を洗って切るように指示されるが、どのように切ればいいのかもわからない。戸惑っていると、マギーが優しく手をとって教えてくれた。
「さぁて、ひと仕事してから朝食だからね。パンはここに40分ほど置いておけば二次発酵できるだろうよ。作業が終わる頃に焼きたてが食べられるよう釜に放り込まないとねぇ」
「パンを自分達で焼くのですか?」
「もちろんだよ。焼きたてのパンは美味しいよ。あんたは自分でパンを焼いたこともないのかい?」
「はい。料理はしたことがないので、パンも焼いたものしか見たことがありません」
「それじゃぁ、明日は一緒にパンをこねようかねぇ? パン作りは楽しいもんさね」
マギーは私に、にっこりと微笑んだ。
朝食の支度をあらかた済ますと、これからイチゴの収穫をすると言われる。時間はまだ朝の五時前。明るくなる前にイチゴを摘み取っていく。作業は2時間ほど続いた。
「おいしい。このイチゴ」
働いた後の朝食は野菜サラダに焼きたてのパンと売り物にならないイチゴ。
「だろう? 自分たちでつくったイチゴは格別さ。太陽の光を浴びてたっぷりの栄養が詰まっているよ。イチゴにはね、たくさんの幸せも詰まってるのさ」
幸せがつまっているの? 私の幸せは壊れてしまった。もうアーサー様は手に入らない。貴族でもない、帰る屋敷もないのだから。
「ほら、焼きたてのパンも、温かいうちにお食べよ」
茶色っぽいパンは、皮がパリッとしていて少し噛みごたえのあるものだった。以前の私は、甘くてバターがたっぷりのお菓子のようなパンを食べていた。贅沢をしていたことに、今更ながら気がつく瞬間だった。
「さぁ、次は出荷の準備をするだよ」
綺麗なケースに一個一個イチゴを入れていく。大粒の食べ頃のものは豪華な箱に。小さく形がいびつなものは袋にひとまとめにして平民向けの商品になる。品種もそれぞれ違うようで、貴族用と平民用に分けて栽培していた。
お昼はパンとスープだけ。でもそのスープには野菜とひよこ豆がたっぷり入っていて、野菜の甘みが溶け出し優しい味になっていた。豪華な食事でなくともお腹は充分膨らんで満足だった。
野菜と豆のスープって、こんなに美味しかったんだ・・・・・・
「豆をしっかり噛んでお食べよ。この豆にも野菜にも、たくさんの幸せは詰まっているからね」
「ふふふっ。マギーさんにかかったら、なんにでも幸せが詰まっているのですね?」
かつての我が儘で傲慢だった私は、お父様の暴力で萎縮して、今は自信がなくてびくびくするような性格に変わっていた。
けれどマギーの気さくな態度と温かい言葉は、私に元気を与えてくれた。萎縮していた心と体が、すこしづつほぐされていくようだった。
やがてこの生活にも慣れていき、私はハーパー家へのお金の返済を毎月きっちりとしている。貴族で我が儘放題のスカーレットはもういない。
ここにいるのはイチゴ農園のスカーレットだ。贅沢はできないけれど、ここには暴力も浴びせかけられる怒声もない。お母様から『爵位の高い有望な男性を捕まえるのよ』と言われ続けた日々はもう終わった。
「ほらほらスカーレット! 一緒にパンをこねるよぉおおーー。早くおいで。あんたの好きな白いパンが今日は作れるよ。なんたって今日は感謝祭だ。朝から卵も肉も食べられる」
「はぁーーい!! 今、行きまぁす」
貴族だったころに当たり前に食べていたものは、今ではご馳走だ。私は、笑いながらマギーの元に駆けて行ったのだった。
お父様は私に頷くと、一枚の紙切れをひらひらとさせた。
「これは?」
「ハーパー家から送られてきた請求書だ」
私はその金額の多さに仰天して思わず声をあげた。
「ずいぶんと派手にオリーブ様にたかったようだな。恥さらしな娘だ。お前はもう娘とは思わん。出て行きなさい。農家で汗水たらして働き自分でそのお金を返すのだ!」
私は屋敷を追い出されて、イチゴ農家に住み込みで働くことになった。
☆彡・
「さぁ、いつまで寝ているんだね! 起きなさいってば」
農園で働くおばさんの一人に、いきなり揺り起こされて思わず叫びだしそうになる。
「まったく、いつまで寝ているつもりだね? 農園の朝は早いだよ」
大柄なおばさんが呆れたように私を見て、ひとつ大きなため息をついた。
「あたしゃ、ここで働くマギー。困ったことがあったら頼っておくれ」
「あ、はい。わかりました」
大きな食堂では数人の女性が、テーブルを拭いたり皿を並べている。私は野菜を洗って切るように指示されるが、どのように切ればいいのかもわからない。戸惑っていると、マギーが優しく手をとって教えてくれた。
「さぁて、ひと仕事してから朝食だからね。パンはここに40分ほど置いておけば二次発酵できるだろうよ。作業が終わる頃に焼きたてが食べられるよう釜に放り込まないとねぇ」
「パンを自分達で焼くのですか?」
「もちろんだよ。焼きたてのパンは美味しいよ。あんたは自分でパンを焼いたこともないのかい?」
「はい。料理はしたことがないので、パンも焼いたものしか見たことがありません」
「それじゃぁ、明日は一緒にパンをこねようかねぇ? パン作りは楽しいもんさね」
マギーは私に、にっこりと微笑んだ。
朝食の支度をあらかた済ますと、これからイチゴの収穫をすると言われる。時間はまだ朝の五時前。明るくなる前にイチゴを摘み取っていく。作業は2時間ほど続いた。
「おいしい。このイチゴ」
働いた後の朝食は野菜サラダに焼きたてのパンと売り物にならないイチゴ。
「だろう? 自分たちでつくったイチゴは格別さ。太陽の光を浴びてたっぷりの栄養が詰まっているよ。イチゴにはね、たくさんの幸せも詰まってるのさ」
幸せがつまっているの? 私の幸せは壊れてしまった。もうアーサー様は手に入らない。貴族でもない、帰る屋敷もないのだから。
「ほら、焼きたてのパンも、温かいうちにお食べよ」
茶色っぽいパンは、皮がパリッとしていて少し噛みごたえのあるものだった。以前の私は、甘くてバターがたっぷりのお菓子のようなパンを食べていた。贅沢をしていたことに、今更ながら気がつく瞬間だった。
「さぁ、次は出荷の準備をするだよ」
綺麗なケースに一個一個イチゴを入れていく。大粒の食べ頃のものは豪華な箱に。小さく形がいびつなものは袋にひとまとめにして平民向けの商品になる。品種もそれぞれ違うようで、貴族用と平民用に分けて栽培していた。
お昼はパンとスープだけ。でもそのスープには野菜とひよこ豆がたっぷり入っていて、野菜の甘みが溶け出し優しい味になっていた。豪華な食事でなくともお腹は充分膨らんで満足だった。
野菜と豆のスープって、こんなに美味しかったんだ・・・・・・
「豆をしっかり噛んでお食べよ。この豆にも野菜にも、たくさんの幸せは詰まっているからね」
「ふふふっ。マギーさんにかかったら、なんにでも幸せが詰まっているのですね?」
かつての我が儘で傲慢だった私は、お父様の暴力で萎縮して、今は自信がなくてびくびくするような性格に変わっていた。
けれどマギーの気さくな態度と温かい言葉は、私に元気を与えてくれた。萎縮していた心と体が、すこしづつほぐされていくようだった。
やがてこの生活にも慣れていき、私はハーパー家へのお金の返済を毎月きっちりとしている。貴族で我が儘放題のスカーレットはもういない。
ここにいるのはイチゴ農園のスカーレットだ。贅沢はできないけれど、ここには暴力も浴びせかけられる怒声もない。お母様から『爵位の高い有望な男性を捕まえるのよ』と言われ続けた日々はもう終わった。
「ほらほらスカーレット! 一緒にパンをこねるよぉおおーー。早くおいで。あんたの好きな白いパンが今日は作れるよ。なんたって今日は感謝祭だ。朝から卵も肉も食べられる」
「はぁーーい!! 今、行きまぁす」
貴族だったころに当たり前に食べていたものは、今ではご馳走だ。私は、笑いながらマギーの元に駆けて行ったのだった。
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