(完結)第二王子に捨てられましたがパンが焼ければ幸せなんです! まさか平民の私が・・・・・・なんですか?

青空一夏

文字の大きさ
20 / 24

16 カスコイン伯爵視点(カスパー第二王子殿下)そのいち

しおりを挟む
 今、俺は屋敷の地下にいる。そこは子ドラゴンを閉じ込めていた部屋で一筋の光りも差さない暗闇だった。床はカビだらけでそこに蠢く虫には羽があり、身体は茶色くカサカサと音を立てて移動する。

「うわっ、気持ち悪い。なんで俺がここに閉じ込められなきゃならない? おい、そこの騎士。ここから出せよ。俺は第二王子なのだぞ」

「出せませんよ。それに、貴方はもう王子ではありません」

 ふざけてる。俺は王家の血筋を引いた尊い男なのだ。本来なら病弱な兄上がもっと早くに亡くなり、この俺が王太子になっているはずだったのだ。

「くっそ! あんな聖女なんて殺してしまえば良かったんだ。あんなものがいるから死ぬはずだった病人が元気になって棺桶に入らない。おかしいだろう!」
「本当に以前のカスパー第二王子殿下とは別人ですね。こちらが本当の人格なのかと思ったら空恐ろしいです。セオドリック王太子殿下が、アンジェリーナ様のお蔭で健康になられて実に良かったです。あなたみたいな人が国王陛下になったら、この国は滅んでしまいすからね」

 なんて無礼なことを言う騎士だ。俺がここから出たらただじゃおかない。騎士の職を解き放り出してやる! さらにイライラさせたのは騎士達のおしゃべりだった。

「アンジェリーナ様とセオドリック王太子殿下は凄いお方だよなぁ。子ドラゴンにすっかり懐かれて、おまけに金銀のドラゴンとも仲良くなっている」
「あぁ、びっくりさせられることばかりさ。金のドラゴンがお二人を背中に乗せた時なんて、とても現実とは思えなかったよ」
「だよな。夢でも見ているのかと思ったぜ。あっははは」

(くっそ! 俺は苦労して子ドラゴンを捕まえた。必死に調教しようと苦労していたのに、なぜ横から俺のものになるはずだった夢を奪う? ドラゴンに乗って世界を支配したかったのは俺なのに、なぜあいつらがドラゴンに乗るんだよ! そこは俺の場所だったはずなんだ)

 なにもかもぶち壊しにする、アンジェリーナが憎くてたまらない。そのアンジェリーナを大事にする兄上も大嫌いだ。俺は王族なんだぞ。王子なんだ。いずれ国王になるはずだった・・・・・・俺はこのままで終わりたくない・・・・・・






 数日後、俺とヒルダは王都まで護送された。手足には鎖をつけられ、猿ぐつわまで噛まされた。王都に着くとすぐに一番大きな広場まで連れて行かれる。そこにはたくさんの出店が並び、多くの民が押し寄せていた。チラシが風で舞い俺の頬をかすめていき、ほんの少し先に落ちる。

『元第二王子殿下が処刑される! 今、明かされる悪行の数々!』 

 大きな文字にビクンと心臓が跳ねた。

「嘘だろう? 王族が処刑されるわけないんだ。どんなに罪を犯しても幽閉されるぐらいで死刑はない。今までの歴史上それはあり得ないんだ。これはなんの冗談だよ?」

「冗談ではありません。カスコイン伯爵は死刑になるのですよ。本日の今から一時間後です」

「嘘だ、嘘だ。父上に会わせてくれ。母上はなんとおっしゃっているんだ? 兄上は? 皆、俺を見捨てるのか?」

 子ドラゴンを誘拐したぐらいで俺を死刑にするのか? ドラゴンなんかより俺の命の方が何万倍も重いはずだぞ。俺は王子なのに・・・・・・王子なのに・・・・・・

 少し前までは人気者で誰もが俺に声をかけてもらいたがった。そう、誰もが笑顔で俺に話しかけていたのに、今は憎悪に満ちた目で俺を睨む。なかには石を投げつけてくる者さえいた。嘘だろう? 誰か嘘と言ってくれ・・・・・・

「殺せ、殺せぇーー!! 嘘つき王子なんていらないぞーー」
「そうだ、そうだ!! 邪悪な王子は処刑しろぉおーー」

 すっかり興奮している観衆は言いたい放題だ。罪人の処刑はお祭り騒ぎで、それを見物するのは娯楽のひとつとされていた。だが、いざ自分が処刑される立場になってみると、初めて酷い慣習だと気づかされる。今の俺は吐き気がするほどに身体が震え、今更ながら自分がしてきたことへの後悔で涙した。

(俺はどこかで甘えていたんだ。どんなことをしたって殺されるはずがないと)

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

氷の公爵家に嫁いだ私、実は超絶有能な元男爵令嬢でした~女々しい公爵様と粘着義母のざまぁルートを内助の功で逆転します!~

紅葉山参
恋愛
名門公爵家であるヴィンテージ家に嫁いだロキシー。誰もが羨む結婚だと思われていますが、実情は違いました。 夫であるバンテス公爵様は、その美貌と地位に反して、なんとも女々しく頼りない方。さらに、彼の母親である義母セリーヌ様は、ロキシーが低い男爵家の出であることを理由に、連日ねちっこい嫌がらせをしてくる粘着質の意地悪な人。 結婚生活は、まるで地獄。公爵様は義母の言いなりで、私を庇うこともしません。 「どうして私がこんな仕打ちを受けなければならないの?」 そう嘆きながらも、ロキシーには秘密がありました。それは、男爵令嬢として育つ中で身につけた、貴族として規格外の「超絶有能な実務能力」と、いかなる困難も冷静に対処する「鋼の意志」。 このまま公爵家が傾けば、愛する故郷の男爵家にも影響が及びます。 「もういいわ。この際、公爵様をたてつつ、私が公爵家を立て直して差し上げます」 ロキシーは決意します。女々しい夫を立派な公爵へ。傾きかけた公爵領を豊かな土地へ。そして、ねちっこい義母には最高のざまぁを。 すべては、彼の幸せのため。彼の公爵としての誇りのため。そして、私自身の幸せのため。 これは、虐げられた男爵令嬢が、内助の功という名の愛と有能さで、公爵家と女々しい夫の人生を根底から逆転させる、痛快でロマンチックな逆転ざまぁストーリーです!

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...