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16 カスコイン伯爵視点(カスパー第二王子殿下)そのいち
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今、俺は屋敷の地下にいる。そこは子ドラゴンを閉じ込めていた部屋で一筋の光りも差さない暗闇だった。床はカビだらけでそこに蠢く虫には羽があり、身体は茶色くカサカサと音を立てて移動する。
「うわっ、気持ち悪い。なんで俺がここに閉じ込められなきゃならない? おい、そこの騎士。ここから出せよ。俺は第二王子なのだぞ」
「出せませんよ。それに、貴方はもう王子ではありません」
ふざけてる。俺は王家の血筋を引いた尊い男なのだ。本来なら病弱な兄上がもっと早くに亡くなり、この俺が王太子になっているはずだったのだ。
「くっそ! あんな聖女なんて殺してしまえば良かったんだ。あんなものがいるから死ぬはずだった病人が元気になって棺桶に入らない。おかしいだろう!」
「本当に以前のカスパー第二王子殿下とは別人ですね。こちらが本当の人格なのかと思ったら空恐ろしいです。セオドリック王太子殿下が、アンジェリーナ様のお蔭で健康になられて実に良かったです。あなたみたいな人が国王陛下になったら、この国は滅んでしまいすからね」
なんて無礼なことを言う騎士だ。俺がここから出たらただじゃおかない。騎士の職を解き放り出してやる! さらにイライラさせたのは騎士達のおしゃべりだった。
「アンジェリーナ様とセオドリック王太子殿下は凄いお方だよなぁ。子ドラゴンにすっかり懐かれて、おまけに金銀のドラゴンとも仲良くなっている」
「あぁ、びっくりさせられることばかりさ。金のドラゴンがお二人を背中に乗せた時なんて、とても現実とは思えなかったよ」
「だよな。夢でも見ているのかと思ったぜ。あっははは」
(くっそ! 俺は苦労して子ドラゴンを捕まえた。必死に調教しようと苦労していたのに、なぜ横から俺のものになるはずだった夢を奪う? ドラゴンに乗って世界を支配したかったのは俺なのに、なぜあいつらがドラゴンに乗るんだよ! そこは俺の場所だったはずなんだ)
なにもかもぶち壊しにする、アンジェリーナが憎くてたまらない。そのアンジェリーナを大事にする兄上も大嫌いだ。俺は王族なんだぞ。王子なんだ。いずれ国王になるはずだった・・・・・・俺はこのままで終わりたくない・・・・・・
数日後、俺とヒルダは王都まで護送された。手足には鎖をつけられ、猿ぐつわまで噛まされた。王都に着くとすぐに一番大きな広場まで連れて行かれる。そこにはたくさんの出店が並び、多くの民が押し寄せていた。チラシが風で舞い俺の頬をかすめていき、ほんの少し先に落ちる。
『元第二王子殿下が処刑される! 今、明かされる悪行の数々!』
大きな文字にビクンと心臓が跳ねた。
「嘘だろう? 王族が処刑されるわけないんだ。どんなに罪を犯しても幽閉されるぐらいで死刑はない。今までの歴史上それはあり得ないんだ。これはなんの冗談だよ?」
「冗談ではありません。カスコイン伯爵は死刑になるのですよ。本日の今から一時間後です」
「嘘だ、嘘だ。父上に会わせてくれ。母上はなんとおっしゃっているんだ? 兄上は? 皆、俺を見捨てるのか?」
子ドラゴンを誘拐したぐらいで俺を死刑にするのか? ドラゴンなんかより俺の命の方が何万倍も重いはずだぞ。俺は王子なのに・・・・・・王子なのに・・・・・・
少し前までは人気者で誰もが俺に声をかけてもらいたがった。そう、誰もが笑顔で俺に話しかけていたのに、今は憎悪に満ちた目で俺を睨む。なかには石を投げつけてくる者さえいた。嘘だろう? 誰か嘘と言ってくれ・・・・・・
「殺せ、殺せぇーー!! 嘘つき王子なんていらないぞーー」
「そうだ、そうだ!! 邪悪な王子は処刑しろぉおーー」
すっかり興奮している観衆は言いたい放題だ。罪人の処刑はお祭り騒ぎで、それを見物するのは娯楽のひとつとされていた。だが、いざ自分が処刑される立場になってみると、初めて酷い慣習だと気づかされる。今の俺は吐き気がするほどに身体が震え、今更ながら自分がしてきたことへの後悔で涙した。
(俺はどこかで甘えていたんだ。どんなことをしたって殺されるはずがないと)
「うわっ、気持ち悪い。なんで俺がここに閉じ込められなきゃならない? おい、そこの騎士。ここから出せよ。俺は第二王子なのだぞ」
「出せませんよ。それに、貴方はもう王子ではありません」
ふざけてる。俺は王家の血筋を引いた尊い男なのだ。本来なら病弱な兄上がもっと早くに亡くなり、この俺が王太子になっているはずだったのだ。
「くっそ! あんな聖女なんて殺してしまえば良かったんだ。あんなものがいるから死ぬはずだった病人が元気になって棺桶に入らない。おかしいだろう!」
「本当に以前のカスパー第二王子殿下とは別人ですね。こちらが本当の人格なのかと思ったら空恐ろしいです。セオドリック王太子殿下が、アンジェリーナ様のお蔭で健康になられて実に良かったです。あなたみたいな人が国王陛下になったら、この国は滅んでしまいすからね」
なんて無礼なことを言う騎士だ。俺がここから出たらただじゃおかない。騎士の職を解き放り出してやる! さらにイライラさせたのは騎士達のおしゃべりだった。
「アンジェリーナ様とセオドリック王太子殿下は凄いお方だよなぁ。子ドラゴンにすっかり懐かれて、おまけに金銀のドラゴンとも仲良くなっている」
「あぁ、びっくりさせられることばかりさ。金のドラゴンがお二人を背中に乗せた時なんて、とても現実とは思えなかったよ」
「だよな。夢でも見ているのかと思ったぜ。あっははは」
(くっそ! 俺は苦労して子ドラゴンを捕まえた。必死に調教しようと苦労していたのに、なぜ横から俺のものになるはずだった夢を奪う? ドラゴンに乗って世界を支配したかったのは俺なのに、なぜあいつらがドラゴンに乗るんだよ! そこは俺の場所だったはずなんだ)
なにもかもぶち壊しにする、アンジェリーナが憎くてたまらない。そのアンジェリーナを大事にする兄上も大嫌いだ。俺は王族なんだぞ。王子なんだ。いずれ国王になるはずだった・・・・・・俺はこのままで終わりたくない・・・・・・
数日後、俺とヒルダは王都まで護送された。手足には鎖をつけられ、猿ぐつわまで噛まされた。王都に着くとすぐに一番大きな広場まで連れて行かれる。そこにはたくさんの出店が並び、多くの民が押し寄せていた。チラシが風で舞い俺の頬をかすめていき、ほんの少し先に落ちる。
『元第二王子殿下が処刑される! 今、明かされる悪行の数々!』
大きな文字にビクンと心臓が跳ねた。
「嘘だろう? 王族が処刑されるわけないんだ。どんなに罪を犯しても幽閉されるぐらいで死刑はない。今までの歴史上それはあり得ないんだ。これはなんの冗談だよ?」
「冗談ではありません。カスコイン伯爵は死刑になるのですよ。本日の今から一時間後です」
「嘘だ、嘘だ。父上に会わせてくれ。母上はなんとおっしゃっているんだ? 兄上は? 皆、俺を見捨てるのか?」
子ドラゴンを誘拐したぐらいで俺を死刑にするのか? ドラゴンなんかより俺の命の方が何万倍も重いはずだぞ。俺は王子なのに・・・・・・王子なのに・・・・・・
少し前までは人気者で誰もが俺に声をかけてもらいたがった。そう、誰もが笑顔で俺に話しかけていたのに、今は憎悪に満ちた目で俺を睨む。なかには石を投げつけてくる者さえいた。嘘だろう? 誰か嘘と言ってくれ・・・・・・
「殺せ、殺せぇーー!! 嘘つき王子なんていらないぞーー」
「そうだ、そうだ!! 邪悪な王子は処刑しろぉおーー」
すっかり興奮している観衆は言いたい放題だ。罪人の処刑はお祭り騒ぎで、それを見物するのは娯楽のひとつとされていた。だが、いざ自分が処刑される立場になってみると、初めて酷い慣習だと気づかされる。今の俺は吐き気がするほどに身体が震え、今更ながら自分がしてきたことへの後悔で涙した。
(俺はどこかで甘えていたんだ。どんなことをしたって殺されるはずがないと)
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