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17 カスコイン伯爵視点(カスパー第二王子殿下)そのに

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 なぜか服を着替えさせられて頭に麻袋を被せられた。目の前は真っ暗だ。そのまま鳩尾(みぞおち)に拳骨を食らわせられ意識を失う。逃げだそうとして暴れるとでも思われたのかもしれない。目覚めるとまだ麻袋が被せられたままで、辺りは静まりかえっていた。おそらく観衆達は期待に胸を膨らませていて、手に汗握り待ち構えているところだろう。

「さて、カスコイン伯爵よ。いよいよですので絞首刑台に登ってください」

 死刑執行人の男の声にビクンと身体が震えた。一歩一歩、階段を登っていく。俺を死へと誘うこの歩みの重みにくじけそうになると、容赦なくムチが飛んできた。高い絞首刑台をやっと登り切り、首に太い縄がかけられる。

(こうして俺は死んでいくのか? この国の王子として生まれて、騎士団長として人々から尊敬されていたのに・・・・・・怖い、怖いよ・・・・・・死ぬのは嫌だ・・・・・・お願いだ、助けてくれ、なんでもするから)

 俺の身体が落下していく・・・・・・そのうちくる首の衝撃に備えて目をギュッと閉じて死を待つ。・・・・・・しかし、その衝撃は訪れずに、代わりになにか柔らかい物に身体が受け止められた。麻袋が取られて辺りを見回すと、そこは先ほどの広場ではなかった。そこには物見高い民衆は一人もいない。ただ兄上と死刑執行人の男だけがいて、にわか仕立ての絞首刑台が置かれた原っぱだった。

「一度死んだ気分はどうだい? さぁ、馬車に乗ってカスコイン伯爵の最期を見届けようか?」
「は? どういうことですか? 意味がわかりません」

 馬車に乗せられ元いたはずの広場に着くと、俺の騎士団長服を着た男がテントから出てきて、絞首刑台に向かうところだった。

「あれはいったい誰なんですか?」
「人を無差別に殺した凶悪犯だよ。死刑が決まっていた男だ。民衆も貴族達も皆、あれがカスコイン伯爵だと思っている」

 その男が絞首刑台に登り処刑されると、観衆がどっと湧き俺が死んだことを喜び合っている。

「俺はまだここに生きている。兄上達は俺をこの世から抹殺したのか? 酷い、酷いよ」

「王子だという無駄なプライドがやり直すチャンスを奪うと、アンジェリーナ様がおっゃっていた。いちから苦労して、自分を見つめ直すんだな。お前は身分がない方が良かったんだよ。新しく生きるチャンスをもらえたことに感謝しろ」

 あれほど助けてほしいと願ったのに、今は全てを取り上げられて生かされたことに憤りを覚えた。ヒルダも同じく処刑されたことになっていたが生きていて、俺と一緒に市井に放り出された。


❁.。.:*:.。.✽.


 俺は死人だ。高貴な血筋が自慢だったのに元の名前は名乗れず、どんな仕事に就いても「悪名高い元カスパー第二王子にそっくり」と言われ蔑まれた。

「俺は本物だぞ!」
 たまに我慢できずにそう叫ぶ。すると・・・・・・

「カスパー第二王子は処刑されてこの世にいない。一応、あんな人でも王子だった方だ。その方の名前を騙るなんて不敬だぞ」
 そう怒鳴られ俺は袋だたきにされた。この顔のままでは生きづらいし、どう生きていけばいいのかわからない。もしかして、あの時に潔く処刑されていた方がよほど楽だったのかもしれないと思う。国外に逃げようとしても国境を守る隣国の騎士達からは拒絶された。

「ドラゴンとの全面戦争を目論んだ男に似ているなんて不吉すぎるぜ。ダメダメ、入国は許可できないよ」
 俺が処刑された時に配られていたビラはどこにでも出回っていた。鮮明に顔が描かれたそれはいつでもどこでも俺を責め続けるんだ。そうして国境を守っている騎士達の手にもしっかりとそのビラは握られていた。

「あなたには生きて償ってほしいのです」
 そんな言葉をアンジェリーナが言っていたことを思い出す。

(あぁ、これが罰なのか。死刑になるよりプライドも保てず一生を惨めに暮らすことの方が辛い気がするのだが・・・・・・新しく生きるチャンスなんてどこにもないよ)

 一緒に居たヒルダは金持ちの男と行方をくらまし、俺は酒に溺れて冷たい雨に打たれながら、早く命が終わることを願った。一度は生かされた命だけれど、もう生きていたくないよ。雨のなかを歩き続けてそのまま行き倒れた。このまま冷たい雨のなか、死ぬのも悪くないかもしれない・・・・・・




❁.。.:*:.。.✽.



 目が覚めると清潔なベッドに寝かされていて、7、8歳の少女が俺に声をかけた。
「大丈夫ですか? 苦しくありませんか? パン粥ぐらいなら食べられますか?」
「えぇっと、ここはどこだい?」
 その問いに対する答はすぐにわかった。わらわらと部屋に入ってきたのはたくさんの子供達で、後ろには神父様もいたからだ。
「ここは孤児院も併設された教会かな? 俺に一番相応しくない場所だな」
「いいえ、あなたに一番相応しい場所ですよ」
 神父様は俺に優しく微笑みかけたのだった。
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