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43.冒険者ギルド2

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受付口は、いくつもあり、どこもそこそこ
冒険者が並んでいた。
その一角で妙に空いている場所があり、
アルたちはそこへ並んだ。
他の受付からは聞こえない激しい口論が
たまに聞こえ、すれ違う冒険者たちの表情は
面白くなさそうであった。

「はい、次ぃ」
強面の壮年男性がテーブルに肘をついて、
アルたちを呼んだ。
場所も端のために薄暗く、それが男性の態度の
悪さを強調していた。

呼ばれたリシェーヌは、普段と変わらぬ態度で
トコトコと強面の男の前に向かった。
そして誠一はその後に続いた。
なんだろう、彼女の進むと薄暗くて、
雰囲気の悪いこの場所も明るく感じられた。
彼女の存在感のなせる業なのだろうか、
誠一は感心してしまった。

「おい、小娘。頭を使えよ。
こんな所で魔術を使うなんて浪費以外にない。
そんなんじゃ早死にするぜ」
男がけんか腰で凄んだ。
えっ魔術をつかっていたんかーい、
数秒前の感動をかえせ。
と心の中で突っ込みいれる誠一だった。

男どもの思惑や態度など、全く意に介さずに
リシェーヌが答えた。
「依頼の内容を違えずに契約するには
明るい方がいいから。
ケチって、不利な契約をするよりましでしょ」
そう言って、冒険者証と依頼表を男に提示した。

「くはっ、相変わらず威勢のいい餓鬼だな。
おい、そっちのびくついてる小僧、
おまえも冒険者証を出せ」
誠一は、挙動不審にならないように
努めて、提示した。
「ふー噂の魔術院とこのひよっこどもか。
チーム名はいい。
特に問題ないが、赤字になろうとも
回復薬は十分に準備しとけや。
僧侶が同行しないなら、尚更だな」
男はぶっきらぼうに答えた。

「すみません、やはり僧侶がいた方が
この手の依頼でもいいでしょうか?」
誠一が質問した。

「当たり前だろうが。
それにどうも最近、色んな場所で
今までの常識ではありえなことが
多々、発生しているんだよ。
本来なら、お前らのような餓鬼は
保護者付きで行かせたいくらいだ」
言っていることは正しく、恐らくだが、
安否を気遣っている筈なのだが、
男の態度と言葉遣いが、全てを台無しにしていた。

「そうなの。じゃあ、あなたをスカウトする。
この5日間、チームに入って。
まだ、祈ることはできるでしょ」
全く予想だにしない内容を当たり前のように
話すリシェーヌだった。
誠一は驚きを隠せなかった。

「おいおい、婆の差し金か?
そっちの餓鬼が驚いているぞ」

「えっ、リシェーヌ、知り合いなの?」
誠一はまたも驚きを隠せなかった。

「そう、知り合い。
司祭様の下で研鑽していたけど、
とある事故で右脚を失ってからは、
不貞腐れて、ここで冒険者相手に
暴言をまき散らしている」
相変わらず、誰に対しても
容赦のないリシェーヌだった。

「ちっ、おまえ相手だと調子が狂うな。
でっ同行する場合は、どんな依頼を
受けるんだ、見せてみろ」
リシェーヌから、依頼票をひったくった。
そして、微動だにせず、依頼内容を読んでいた。

受付の片隅の淀んだ空気が
冷たく冷気を孕んだようだった。
それは目の前の男より発している殺気に
よるもであろう。
その殺気にあてられてなお、
リシェーヌは飄々としていたが、
誠一は咄嗟に杖を構えてしまった。

「おい、小娘、おまえはいいとして、
そっちの餓鬼はこの依頼内容を
把握しんのか?どうなんだ?」
これが聖職者であった者の声とは
思えぬほどの底冷えするような声だった。

「ええ、納得している。
それに依頼自体は、さほど大した内容じゃないから」

「おいっ、その背景にあることを
こいつが理解してるかって、聞いているんだよ!」
凄まじい勢いで依頼表をテーブルに叩きつけた。
「いい加減、その妄執から離れろ。
婆もそう言っているだろうが!
こいつは絶対に駄目だ。
こっちの薬草採取にしろ。こっちを受理した。
いいな、こいつは他の冒険者に回す」
手早く処理して、誠一に依頼受理票を手渡した。
その後、男は一切、口をきかず、黙っていた。
誠一は取り上げられた依頼票の内容を
僅かが見ることができた。
アルフレートの記憶にない村の名前だが、
誠一の記憶でその村を知っていた。

そこはバッシュの生まれ育った村であった。
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