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220.輜重隊出征9

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「むうううっ、もういい。
戦場で機をみることが出来ないなら、
そこで見ていろ!俺だけでいく」
若い男は、竜に軽く一鞭、当てると
輜重に向かって、動き出した。

「隊長、どうしますか?」
公国より罰せられることはないだろうが、
あの男が一人で輜重を燃やせば、
戦場の機微を読めぬ無能者と批判の的になり、
見殺しにすれば、臆病者の誹りを受けるだろう。
部下の暴走が難しい立場に立たせていた。
「追うぞ。敵軍を牽制する。
火玉を使い切ったら、即時、撤収だ」

 若い男は、後を追ってくる竜騎兵を見て、
ほそく微笑んだ。
功績を独り占めされることを恐れて、
慌てて、追って来やがった。
後方で派手に燃え上がる輜重を眺めてろと毒づくと、
火玉の封印されている魔石を持っているだけ投じた。

 竜騎士に選らばれる者は、比較的目が良い。
更に魔道具で強化された視力が魔術師たちを
視界にはっきりと捉えていた。

 目に映る5人ほどの魔術師は、若かった。
乱世でなければ、まだ、机でお勉強を
している学生だろうと判断した。
同じ歳の頃には、竜を駆って、大空に舞い、
戦場を疾駆していた自負がおろおろしている魔術師たちを
見下していた。
昨日の件は運が良かっただけだなと断じて、
嘲り笑いながら、燃えあがるだろう輜重を悠然と
眺めていた。

 魔石が破裂し、炎が輜重の上空で広がり、
大気を一瞬だけ焦がしたが、直ぐに消えてしまった。

まるっこい女の魔術師と視線が交わった。
しかし、若い竜騎士は、この距離でダメージを
与えられる魔術などそうそうないと思っており、
悠然と空を舞いながら、睨みつけた。
矢を番えて、魔術師目がけて放ったが、
途中で勢いを失い、落ちた。

「おい、撤収だ!
あの周辺に展開されている水膜がみえるだろう。
若いが、相当な実力だ、急げ」
追い付いて来た隊長の言葉に若い男は、
輜重の方を凝視した。
よく見れば、輜重の上の辺りで陽の光が歪んでいた。
その上、5人の中心にいるまるっこい女が
手招きをしながら、踊っていた。

「くそっ、なんだありゃ!
接近して、一気に突き倒してやる」
若い男は激発し、憤怒の表情で手槍に持ち替えた。

「冷静になれ。あれほどの魔術を展開しているのだ。
恐らく他にも用意してあるだろう。
嵌められる前に撤収だ」

隊長の叱責が更に若い男から冷静さを失わせた。
若い男は全速力で降下した。

輜重の守備に当たっている魔術師たちは、
竜騎士が降下してくるのを見て、表情や態度には
表さなかったが、内心、酷くたじろいていた。
陣の中央で奇妙な踊りをするシエンナを
恨みがましく見つめていた。
戦場でなければ、笑い転げていただろうが、
怒気を発した竜騎士が凄まじい勢いで
降下してくるとなれば、笑うどころの話ではなかった。
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