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255.宴1

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大半の魔物が討ち取られ、残りは戦場から逃散していった。近隣の街や村にとって、非常に迷惑な話であったが、冒険者や巡回中の騎士により次第にその数を減らしていくだろう。
北関より前進を拒んでいた魔物の一軍は潰え、ヴェルトール王国軍は歓喜の渦に巻き込まれていた。陽が傾き、戦場に転がる死体を闇が覆い隠した。北関にいる者たちには、風が運ぶ血と死体の臭いが戦の凄惨さを思い起こさせた。しかし、北関では酒が振舞われ、今日を生きた歴戦の兵士たちは、陽気に歌い、踊り、己の功を誇っていた。

 魔術院や騎士学園の学生にも犠牲者はいた。犠牲者の親しい間柄のある者は泣き、ある者は沈痛な表情でうつむいていた。無惨に殺された知人の死体が脳裏に浮かび、戦場を生き延びたことを素直に喜ぶことが出来なかった。明日は我が身と思い、震える者もいた。

 悲喜こもごもの北関で誠一は、サリナといた。ヴェルは魔術院の同級生たちと無事を喜んで騒いでいた。シエンナは相部屋の先輩が大怪我を負っており、その介抱に忙しそうだった。

誠一とサリナは、終始無言であった。誠一は何と話しかけていいか分からずに通路の壁にもたれ掛かりちびちびと水を飲んでいた。その隣でサリナも同じようにしていた。この沈黙に先に耐えられなくなったのはサリナであった。
「ねえ、あなたって、友人いないの?」
「いや、いるのかな」
彼女の言葉を否定しようとしたが、言葉を濁した。魔術院では、友人といえるのはヴェルやシエンナくらいであった。高校時代の友人とは大学入学後、疎遠であった。プレーヤーに伝えた連中も学内で何となく一緒にいるだけで呑みに行ったり、旅行に行くような仲ではなかった。

「ふーん、貴族様だから友人も親が選んでるのかしらね」
皮肉と受け取れるサリナの言葉に誠一は苦笑した。
「エスターライヒ家の長子と言えどもまあ、廃嫡されているけどね」

「なんかごめんなさい」
そこでまた、会話は途切れてしまい、二人は黙ってしまった。
今度は誠一が沈黙に耐えられなくなり、話し掛けた。
「さてと、ここにこうしていてもしょうがないし、部屋に行こうか」

「えっ」
はじめて、無表情だったサリナの表情が変わった。
「まあ、見つからないようにすれば、大丈夫でしょ」

「嫌」
強い拒絶がであった。誠一はここまで強く拒絶されるとは思わずに驚いてしまった。

「嫌、嫌、あんたも所詮は同じよ」

「おちついて。君の部屋に行こうと言ってるだけだから」

「嘘。あいつらみたいにただやりたいだけでしょ。あいつらがああ言ったから、やれると思ってるだけでしょ。死ね、死んじまえ」

とんでない誤解に誠一は慌ててしまった。無論、誠一にも性欲はあるが、流石にそこまでの鬼畜ではなかった。
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