上 下
254 / 718

256.宴2

しおりを挟む

「違うって。荷物を運ぼうと思って。
おそらく部屋は余ってるからさ。場所を変えよう」

「嘘、嘘だ。あいつらも最初はそう言って、
啓示で動きを縛って無理やり。
嘘ばっかり!神の言葉なんて」

暴れるサリナを無理やり押さえつけた誠一だった。
するとサリナの目は死んだように光を失い、身体は脱力した。

「ここでやればいいでしょ。さっさと済ませて」

何も感じさせない瞳に逆に誠一は恐怖を感じてしまった。
サリナは誠一に背を向けるとカチャカチャと服を脱ぎ始めた。
誠一のまえに露わになった尻に身体が正直に反応してしまった。
理性が飛びそうになるのを懸命に抑えて、下着とズボンを引き上げた。
そして、無理やりだったが、彼女を振り向かせた。彼女は震えていた。
「さっさと荷物を引き払おう」

「怖い。あいつらの部屋に行くのは、怖いよう」
彼女の置かれていた状況を正確に理解した誠一だった。
「大丈夫。酒盛りに夢中で部屋には誰もいない。鍵は持ってる?」

「うん」

動こうとしない彼女の手を優しく握り、
歩き始めると、トボトボと彼女は誠一の後について来た。

 部屋に向かう途中の大広間では、冒険者たちによって
大きな輪が出来ていた。
その中央では冒険者のパーティがやりあっているようだった。
周りを囲む冒険者たちは、酒の注がれたジョッキを
片手に好き放題に野次を飛ばしていた。

 誠一は関りを避けるために素通りしようとしたが、
野次に交じって聞こえる名前に憶えがあるために
立ち止まってしまった。
「すみません、前を通して貰えませんか?」

人ごみを掻き分けて進む誠一の視界に輪の中央の状況が
目に入った。
片膝を床につき、右肩を脚で踏みつけられているロジェ。
片腕を握られて、今にも抱かれそうになっているキャロリーヌ。
その二人の姿を見た瞬間、誠一の理性が吹き飛び、
騒ぎに飛び込もうとしたが、腕を引っ張られた。

「あっあいつらよ。あなたじゃ、相手にならないわよ」
サリナに引き留められて、冷静さを取り戻した誠一であったが、
結局、やることは変らずに飛び出した。

「その手をキャロリーヌから離せ」
激しい語気を浴びせると同時にキャロリーヌの腕を
掴んでいる戦士に殴りかかった。
戦士は難なくその一撃を躱すと、逆に誠一の腹部へ
強烈な膝蹴りを加えた。

「ぐううっ」
その場で呻く誠一だった。呻く誠一の背にはサリナがいた。
「ちょっと、アル君。大丈夫?」
助けに割って入って、逆にキャロリーヌに心配される誠一だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王命を忘れた恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:201,792pt お気に入り:3,114

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56,148pt お気に入り:4,993

限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,249pt お気に入り:1

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:36,513pt お気に入り:2,367

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:596pt お気に入り:15

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:1,278pt お気に入り:2

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,977pt お気に入り:57

【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,149pt お気に入り:825

処理中です...