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455.再会3

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誠一は天に向けて両手をかざした。

「神よ、神ヨ。目の前に座る男の真贋をご教授したまえ。
男はバッシュであるかそうでないか、教えたまえ」

『えっ知らない。どうやって調べるの?』

どうやらプレーヤーは、ROM専に徹していたようであった。
誠一はプレーヤーに声を出さずに囁いた。
『神の懐紙は残っていますか?』

『あります』

『お手数ですが、今から言うように
書き記して送ってください』

『了解です。では、送ります』

誠一の前に神の懐紙がひらひらと舞い落ちて来た。
誠一たちはそれを当たり前のように受け取ったが、
黒靄と頭領はその冷静そのものの態度が少し揺らいだようであった。

拾い上げた懐紙を誠一が読み上げた。

「我知る。バッシュの神を。
我の信徒でなく、啓示を与えることは出来ぬが、
彼の神がバッシュに啓示をくだすだろう」
誠一は読み上げ終わると、心で強く強く念じた。

『バッシュよ。
アルフレート・フォン・エスターライヒの前に姿を現せ。現せ』

黒靄が蒸発するように雲散霧消した。
そして、ことりとテーブルに突っ伏した。
倒れるほんの一瞬だが、誠一たちの目に潰された顔が映った。

それと同時に使用人の一人が呻き出した。
「ぐっうう。今になって何故、神が神が」

誠一は命令を下すのを止めた。
誠一は強力な手駒を手に入れたと心の中で笑っていた。
上手く活用すれば、元の世界に戻るための情報を集めることができると。

「はぁはぁ、糞が。貴様らのやりたいようにさせぬ」
咄嗟にバッシュは、左手に持った短剣で声帯を掻っ切ろうした。
頭領の左腕がその短剣を妨げた。

「主よ。落ち着きなさい。所詮は神々の一時の遊びにすぎません」
全ての偽装が剥がれた隻腕白髪の男が誠一たちの目の前に姿を現した。

主客転倒し、誠一はバッシュの様子から主導権を握ったことを実感した。

「さてと、まず、目の前の死体を片付けてください。
それとですね。この地から安全に抜け出れることを、
保障して貰いましょう。ご安心してください。
神にお願いすることはありませんから」
品の良い顔に下品な笑いを浮かべる誠一だった。
誠一以外は口を挟まずに押し黙って事の経緯を見守っていた。
バッシュの目は誠一の瞳孔を捉えて離さなかった。

「主に代わり答えます。
アルフレート、貴様の希望は受け入れよう」

「次だ。あのマスタークラスの暗殺者たちの質問だ。
何故、あんなことを貴様は知りたい?」

『バッシュ、貴様自身が嘘偽りなく答えよ』

頭領が答えようとするのを一瞬だが
眉間に皺を寄せたバッシュが制した。
「知れたことよ。あの小娘は俺の汚点だ。
ファルク伯爵家の唯一の生き残りだからだ。
皆殺しを旨とした神の意思と
俺の主旨に反する生き残りだからだ」

バッシュは滔々と話した。
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