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488.使節団1

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 ヴェルとの手合わせから数日後、
誠一は王宮からの呼び出しを受けていた。
呼び出された場所が王立図書館の一室であったために
誠一は怪訝な表情で向かった。

「アルフレート・フォン・エスターライヒ君、始めましてかな。
第一席宮廷魔術師ジルベルトール・カルザティといいます。
おっと、フォンは外した方が良かったかな?」

案内された一室に待っていたのは第一席宮廷魔術師であった。
その風貌はフードに覆われて誠一に見ることはできなかった。

「はじめまして、アルフレート・フォン・エスターライヒといいます」

フードを取らずにジルベルトールは、魔術院の近況や
世間の雑談を始めた。
突然、ジルベルトールは、第三席宮廷魔術師に関する話題に
切り替えた。誠一は当たり障りなく答えた。

「ふむふむ、流石は中等部の首席ということかな。
中々に本音を隠すのが上手い。読書の時間を割いたかいがありそうだ。
それとも我が師に試された後だったかな」

誠一は曖昧に頷いた。
相手の表情が見えず声に抑揚もなく何を考えているのか読み取れない。
まるで電話越しに話しているようであった。

「ふむふむ、当たり前かな。
完全に表情を消し去ることはまだ、出来ないようだね。
フードに関してはあまり気にしないでほしい。
女王より賜った権利だから。
本を読む以外は極力、目を休めていたいんだよ」

この男も魔術の研鑽のためにいい感じに頭が
おかしくなっているのだろうか。
ファウスティノといい、ジルベルトールといい、
どうも魔術というか真理の探究に深く携わるものは、
頭から螺子が一本、二本、外れているらしい。
誠一は、レドリアン導師がまともに思えてしまった。

「ふむふむ、君の怪訝な表情も最もだよ。
この世で大賢者とか呼ばれてる奴らは、
概して良い人や好々爺に見えて、
その実、碌でもないのが多いから気を付けたまえ。
研究のために何をしでかすか分からないからね」

おまえもなと心中で毒づくと誠一は、一息ついて、
今日、ここへ呼ばれた件について尋ねることにした。

「そうだ、そうそれそれ。ほんと俗事にかまけるのはめんどくさいが、
世は金と権力で動くからねぇ。
趣味や研鑽に努めるために疎かにはできないことなんだよね。
君にとってもめんどくさいことだが、女王直々のお達しだよ。
あーめんどくさいから、説得させるようなことは答えないでくれよ。
あー本読みたい」

それから使節団の随行員に関するジルベルトールの説明を受けて、
誠一は頭を抱えてしまった。
自分が停戦の使節団の一員として向かうことに
どんな意味があるのか見いだせなかった。
本気で停戦する気があるのだろうか。
ダンブル陣営を逆撫でするだけとしか思えなかった。
そもそも使節団全員を殺害して、その意思をヴェルトール王国へ
示すかもしれなかった。
嫌な想像しか誠一にはできなかった。
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