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532.大会戦4

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「鮮紅乱撃」
真紅の鎧、剣、そしてマントを身に付ける者のみが
発現できる必殺の一撃をナサレノは放った。
戦場に転がる死体の血が無数の剣の形を作り、
剣豪へ襲いかかった。

しかし無数の剣は剣豪の羽織を切り刻むだけであった。
「これは何という事!」
大太刀で応じる剣豪は暗澹たる表情であった。
「これは中々に貴重な羽織であったが、
残念至極なことになったでござる」

肩で息をする程にナサレノは激しく呼吸を乱していた。
一方で剣豪は全ての攻撃を防ぎきって尚、飄々としていた。

周囲で戦う両軍の兵は同じSランクの冒険者であっても
これほどに違いがあるのかと驚いていた。

「ふむ、成長の跡が見られぬ。
全力を以て攻め立てれば、疲労は溜まるもの。
将たる者、そこら辺の加減も必要でござる。
この場を生き延びられるならば、今後の教訓となされ」
大太刀から放たれる強烈な一撃をナサレノは辛くも躱した。
しかし、敵味方関係なくこの一撃に巻き込まれた兵士たちは
血を噴き出してバタバタと倒れた。

「アホウが。
貴様こそこの場を逃れられるならば、
その阿保面を反省するがいい。鮮血幻影」
倒れた兵士たちより血が集まると、幾体ものナサレノを形作った。

剣豪は心底呆れた。

「くだらぬ大道芸。
技や称号に溺れるなとあれ程に伝えたが
どうやら無駄でござったか。
それではフリッツは無論、エドワードすら超えられる」

ナサレノは怒りで顔を歪ませた。激しく剣を振り剣豪に襲いかかった。
「舐めるな。寝言は布団の中で言え」

血で作られたナサレノの分身は剣豪が
大太刀を一振りするごとに潰された。
ナサレノ自身と剣豪の剣戟は激しさを増した。
血の人形が全て潰されると剣豪の大太刀と
ナサレノの真紅の剣が鍔迫り合いを始めた。

憎悪に濁る目とにやりと笑う目が交錯した。

 ナサレノが剣豪に釘付けとなり、
ナサレノが率いるダンブル皇帝軍の進撃が停滞した。

ダンブル皇帝軍で中央のナサレノ軍の左翼を
担っているレドリアンはナサレノの軍が停滞すると、
それを追い越して進軍した。
魔道兵を主力としたレドリアンの軍は攻撃魔術を
集中砲火させて、戦場に大穴を開けるとそこへ歩兵を
一気に投入することを繰り返し、ヴェルトール王国軍を粉砕した。

 その軍へ対するはフードを深く被った男一人。
「流石は元宮廷魔術師第三席、その指揮ぶり見事。それにしても」
奇をてらわず基本に忠実、レドリアンを高く評価するカルザティであった。
しかし続く言葉は普段と変わらずであった。

「あー本読みたい」

なんの変哲もない樫の木の杖を掲げて、カルザティは魔術を唱えた。
「彷徨い狂うがよい。闇に慄き、震えよ。イリュージョン」

広域に黒い霧が広がりレドリアンの軍を包んだ。
闇の中では悲鳴や怒声、剣や槍の交錯する音が止むことなく響いている。

その黒い霧より一人の蒼白い顔の男が抜け出してきた。
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