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543.大会戦15

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「アル、撤退というか逃亡している敗残兵を狩るか?」
ヴェルの言葉に誠一はかぶりを振った。
「いや、まだ戦は終わってない。急ぎ軍に合流しよう」
誠一は周囲を見渡し、死体や敗残兵を殺して
金目の物を漁る傭兵たちを一瞥した。

「アルフレート!顔、顔!これだからお坊ちゃまには困るわ。
あれも冒険者や傭兵にとっては重要な収入源なの。
でもまあ、戦の真っ只中でってのは珍しいけどね」
確かに自分も北関防衛戦で魔物を退けた後に魔石を回収していた。
さして変わらないことだと理解しているつもりだったが、
対象が人となるとどうしても嫌悪感が先だってしまった。

サリナに指摘されて、誠一は表情を改めた。
侮蔑と捉えられて、どこでどう傭兵から恨みを買うか
分かったものではなかった。

「そうそう。リーダー、気を付けてよ。
いらぬ恨みを買う必要はないからさ」
誠一はサリナの言葉に頷いた。

「よし、ロジェたちに合流しよう。
いつまでもジェイコブ如きに拘っていても仕方ない」

「おう、アルがそう言うならそれでいいぞ。
欲を言えば、大将首は取りたかったな」
目を凝らして、ジェイコブの方をヴェルは見続けていた。
まだ、ヴェルの瞳はジェイコブをまだ、捉えているだろう。

 誠一たちは後方のロジェたちと合流した。
「アル、本陣と左翼にできてしまった空隙で
恐らく旗印からすると、ヴェルトール王国軍近衛兵と
グレイガーの軍が衝突したわ」
シエンナが急ぎ、後方の状況を説明した。

誠一たちのはるか後方から激しい剣戟が斬り交わす音、
魔術の炸裂音、怒号に悲鳴が一際大きく鳴り響いていた。

傭兵団を指揮する大将と副将は、崩れ逃げ纏うジェイコブの兵を
放置して急ぎ反転しようとしたが、間に合わずグレイガーの軍に
後方から突撃を受けて崩壊してしまった。

 空を舞う一匹の灼熱の色の竜騎兵が傭兵団の副将を槍で突き殺した。
「バーバラ・ダンブル、敵将を討ち取ったり」

グレイガーを中心とした騎兵団は、その声でいやが上にも士気が上がった。
その勢いのまま、ひと当てすると傭兵団は散り散りになってしまった。
元々、金で雇われた忠誠心の低い傭兵たちのため、
命あっての物種とばかりに離脱を図り始めた。

「貴様ら、戻れ。ここで踏ん張れ」
大将の言葉虚しく、戦線は崩壊の一途を辿った。
最早これまでと大将が撤退を試みようとした矢先、
一人の騎兵が立ちはだかった。
「おいおい、アラリー・ダンブルを前にして逃げるのか。
ダンブル家二男の俺の首を取れば、褒賞は望みのままだろう」

「黙れ」

「おう、黙らせてやるよ」

馬上より槍が突き出され、何度か刃を交えた。

「ガキが!戦場を知らぬ小僧が舐めるな」
傭兵団の大将も槍で応戦するが、
馬上より振り下ろされた長槍の勢いに圧されてしまった。

「捕虜にするのもめんどうだな。
この程度の首はこの戦場ではいくらでも取れるわ。
狙うは賊軍の総大将バリーシャの首だ」
アラリーは笑うと、左右の者に止めを刺す様に言い、
その首を掲げろと指示した。

手際良く大将首が掲げられると、その場に踏みとどまっていた
傭兵たちも逃げ出し始めた。

ヴェルトール王国軍の最左翼を担う傭兵団は崩壊した。
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