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550.大会戦22

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冒険者や騎士たちからは何故か歓喜の声が聞えた。

「よっしゃ!これで取り分が増えるぞ」

「はははっ、間抜けなやつら。あのまま凍え死ね」

誠一は眼前の戦斧を振るう戦士と対峙しながら、眉を顰めた。
「おいおい、小僧。敵が減ったんだぞ、喜べよ。
ここにゃあ、お前の高尚な道徳なんぞ全く存在しない。
まあ、あの程度で死ぬような輩が減ってもお前の将来は変らんがな。
死ね、大旋風豪爆斧」

誠一の目の前の地面に穴が開き、砂塵が舞った。
誠一の視界は遮られてしまった。
誠一は瞬時に無音の世界を展開した。
彼の周りで動く者、物は全て把握された。

前方の戦士は動いていない。

側面に一人、目で捉えていなかった敵が近づいて来た。

メイスで牽制すると、その動きは止まり、
こちらを警戒する素振りを示した。

誠一は無音の世界を解除した。

「チッ、糞が。単に運だけでここまで辿りつた訳じゃねえってことか。
にしてもシャクマト、ガキに一撃すら与えられないとか情けねえな」

 誠一は自分の経験が活きていることを実感した。
リシェーヌと過ごした短くも濃密な時間が彼を救った。
よく観察すれば、あの時、冒険者ギルド練兵場で刃を
交えた戦士に比べて、数段、実力は下であった。
シャクマトと呼ばれた盗賊はあの時の盗賊とほぼ互角の実力であった。
それが誠一の心を落ち着けた。
誠一の心の落ち着きは表情にも表れていた。
シャクマトと戦士は険しい顔で誠一を睨みつけた。
「たまたま、躱したくらいで舐めるなよ、小僧」

戦士は誠一を見定めて、自分の半身ほどの大きさの戦斧を改めて構えた。

「闇の勢力で一角をなす俺を前に随分と舐めた小僧だな」
複数の短剣をジャグリングさせて、シャクマトは睨みつけた。

誠一は啓示を下した。常に自分の行動をバッシュは
配下の者に監視させているはずであった。
そしてその配下を何かしらの方法でバッシュは
常時、監視しているはずであった。
『バッシュよ、貴様の配下に指示を下せ。
アルフレート・フォン・エスターライヒの命を狙う目の前の敵を
排除せよと。方法は問わぬ。今、アルフレートを失う訳にはいかぬ』
最大限に傍観者である神の立場からの指示と
捉えられるよう言葉に注意して、バッシュに啓示を下した。

 眼前の敵を注視しつつ、周囲で自分に協力しそうな敵が
いないか誠一は探した。
所詮、やらないよりまし程度で実行しただけあり、
誠一は特にそのような存在を見つけられなかったが、
失望しなかった。

「ふううっ」
誠一は息を大きく吸って、吐いた。
神の啓示、補助魔術、そして瞬足の足袋による
特殊スキル『縮地』を用いて戦士との間合いを一気に詰めた。
戦士もシャクマトも完全に誠一を見失っていた。
彼らの瞳孔に映るのは、残像だけであった。
瞳に映る残像が消える前に戦士は7面メイスによる強烈な一撃を
腹部に受けて倒れた。
誠一はシャクマトを次の獲物と見定めたが、
その姿を見つけることができなかった。
戦士が倒れた瞬間、シャクマトは技を発動させて誰かの影に
身を潜めた。
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