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574. 閑話 とあるいつもの居酒屋での情景1

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料理店を後にした千晴と清涼は二人並んで
駅に向かって歩いていた。
深夜というにはまだ早すぎる時間帯であり、
終電までに十分な時間があった。

「千晴、もう少し呑んでいかない?」
突然の清涼の誘いであった。
流石にあの額の食事を奢られた後でこの程度のことを
断ることは千晴にとって難しかった。
「ええ、ご一緒させて頂きますね。いつもの居酒屋ですか?」

「そうだね、そこに行こうか。
千晴もそこなら『ヴェルトール王国戦記』を
やりながら、呑めるでしょ」

全くもって要らぬ気遣いであったが、
否定せずに軽く頷くに留めた。
 千晴が向かう先に目を向けると、夜の歓楽街のネオンが
市民権を得たかの如く燦然と電飾を灯していた。

「この灯りは昔から変わらずらしいね」
大して歓楽街の事情や歴史に興味のない千晴は
清涼のうんちく話に適当に話に相槌を打った。
他愛もない話をしながら歩いているとあっという間に
目的の居酒屋に到着した。

席に案内されると直ぐに清涼はパッドを広げ、
ゲームを開始した。
清涼の目が千晴にゲームを始める様に急かしていた。
仕方なしに千晴も『ヴェルトール王国戦記』にログインした。

「ふううーどうやらアルフレート君、
もとい誠一君は無事だったようだね」

「そうみたいです。どうやら感謝しているようですよ」
千晴がにっこりと微笑んで誠一のお礼を伝えた。
千晴のお礼の言葉にあまり興味なさそうな雰囲気でパッドを
操作している清涼であった。
しかし、千晴の微笑みには、満更でもなさそうな気分のようで
清涼の口元は緩んでいた。

「おっ来た来た。取り敢えず乾杯だね。
ふううっ、あの店のワインも良いけど。
まーこっちの麦酒も旨いな」
ぐびぐびと美味そうに呑む清涼であった。
先ほどのお店での洗練された振る舞いとは
打って変わった態度であった。
唐揚げをにちゃにちゃと食べながら、麦酒で流し込む。
右手は常にパッドを叩いていた。

「そろそろ大きなイベントが始まるな。
前回の霊峰氷山のスタンピード討伐以上の
大きなイベになりそうだね。
闇の勢力圏も開放されたし、益々、忙しくなるよ」

忙しそうな右手と止まらぬ『ヴェルトール王国戦記』の話、
そして絶え間なく麦酒とつまみを食べる清涼であった。
千晴は少々、辟易していた。申し訳程度にゲームを
する振りをしながら、麦酒を飲んだ。
既に夕食はレストランで取ったはずだが、
見た目と裏腹に良く食べる清涼に千晴は驚いていた。

「王国側の参謀は碌なのがいないな。背城の陣とか笑える。
背水の陣のパクリだろ、これ。
しかもゲーム初期の魔王討伐イベの時の焼き直しだろ。
まあ、ダンブルより兵数を多く揃えていることは評価すべきか。
あとはレア度の高いキャラクターがどの程度揃っているかだな」

千晴は小首を傾げた。お酒のせいでほのかな桜色の頬が
普段と違う千晴の魅力を引き出していた。
清涼は千晴を見ながら唾と口の中の唐揚げをごくりと飲み込んだ。
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