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628.神堕ちの儀4

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サリナは誠一の言葉を斟酌した。
そう言えば、いつからこのクランに
所属しているのだろう。
サリナには良く分からなかった。
成り行きでここまでついて来ているが、
明確にクランへ所属すると言ったことは
なかったような気がした。
そして、自然にぽつりとその思いが吐露された。

「そう言えば、私、成り行きでここにいるだけよね。
戻るところも行くところもなく惰性でいるだけか。
ヴェルやシエンナのように目的がある訳でもないし」

「サリナはもうクランの一員だよ。
クランに必要なことを考えて、斥候や盗賊の技術を学んでいるし。
その時点でもうクランが必要とする一員さ。
強いて言えば、僕の目的を助けてくれるのは嬉しいけど、
サリナ個人の望むことあれば伝えて欲しいかな」

思案に暮れるサリナに誠一は話を続けた。

「それに啓示の件はそんな真剣に考えなくても大丈夫だよ。
そのうち神様も飽きて、いつの間にか去るから。
その首飾りをしていれば、問題ないって。
僕だってそれが無い時は啓示に抗えずに
とんでもないことをしでかしているから。その結果が廃嫡さ」

サリナは力なく笑った。
「それでもその歳で『神々への反逆者』の称号を
得てるでしょ。説得力がまるでないわ」

誠一はサリナの話を遮った。
「ちょっと待って。確かに『神々への反逆者』を得たけど、
僕はその首飾りをした状態で運よく神に抗う機会が
あったから得ることができたんだけど。
その首飾りなしでは到底、成しえることは出来なかった。
真に啓示に抗ってその称号を得たのはマリでしょう。
正直、あれを見て同じことが出来るとは到底思えずに
運が良かったと思わざるを得なかったよ」

始めてサリナが顔を上げてまじまじと誠一を見た。

「アレを見てできるとは到底、私も思えなかった」

「マリは特別でしょうね。まあ、首飾りがある限り心配なし。
それより心配事はその首飾りが借り物だってこと。
買い取るには一体、幾らかかることやら」
誠一は道化を演じながら、ぼやいた。
サリナが少し笑ったような気がした。

「それね。性悪な神に言い様にされるのは
もうまっぴらごめんだし、当面の私の目標は
それで決まったわ。
お金を稼いで、この首飾りを買い取るかな。
値切りの交渉はリーダーに任せるわよ」

誠一は自信なさげに頷いた。

今度は本当にサリナの笑顔が誠一の瞳に映った。
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